「あの頃、文芸坐で」【27】オーストラリア映画と言われて驚いた「マッド・マックス」
この日は「マッド・マックス」(ジョージ・ミラー監督)」と「1941」(スティーヴィン・スピルバーグ監督)の二本を観ている。どちらかというと、評判が悪かった「1941」を観たかった気がする。だが、結果的には「マッド・マックス」を観てよかったという感じであったと思う。ハリウッドの映画じゃなくて、これだけのアクションが撮れるというのがすごい興味深かった。
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コラムは大森一樹監督、「ヒポクラテスたち」のお話。あまり、今では語られなくなった映画と言ってもいいだろう。だいたい、大森一樹の映画が最近は出てこないのも寂しい限りである。最近、CSで「すかんぴんウォーク」以下の吉川晃司三部作が放映されているようだが、その監督です。
「ヒポクラテスたち」は医学生の話であり、その大学と寮で繰り広げられる青春群像劇。自分の京都府立医科大学の経験をもとに作られた、特に飾ることもない青春映画だった。ロマンポルノで頭角を表した古尾谷雅人主演。共演の伊藤蘭は、キャンディーズ解散後の女優初仕事だったと思う。この文で長谷川和彦監督が「今ごろ何が悲しゅうて医学生グラフィティカ」という文章を雑誌「シナリオ」に書いたとあるが、確かにそういう一面もある。長谷川和彦自身がそういう自分の過去を語るような映画に興味がなかったのだろうとも思う。そう、この映画はやはり自主映画の流れの中にあり、次の「風の歌を聴け」で村上春樹原作に挑戦。その次が「すかんぴんウォーク」だから、ここが大森一樹の自己の精算的な部分があったのだろう。エンタメとしては弱いが、最後に主人公が狂ってしまうところなどは、今観ても説得力がある気がする。観ていない若い方には、是非、観ていただきたい一作だ。
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プログラムはもう、年末に向かって「文芸坐カーテンコール'80」の文字。内容も新旧交えて、なかなか素敵である。今のシネコンも今年は年末までアンコール上映が続くのだろうから、最後は派手な企画をお願いしたいところである。
文芸地下は、またもや田中登監督の二本立て。年に何度も上映されるほど、客入りはよかったんでしょうな。ちょうど、「ヒポクラテスたち」の上映にひっかけての「人妻集団暴行致死事件」であるわけですものね。
その後が、「大藪春彦 和製ハードボイルドの世界」。ちょうど、角川映画が、「蘇る金狼」「野獣死すべし」そして「汚れた英雄」と、大藪晴彦を売りだしていた頃の特集である。メカニックの詳しい描写などは、とても映画化が難しい原作なのだと思います。様々な方が挑戦し、原作を超えられていないという現実は今に至ります。角川映画で作られたそれも、原作を読むと全く違うモノだったということです。
オールナイトの「日本監督大事典」は貞永方久という松竹の渋いところが登場。サスペンスが多いわけですが、やはり御大の野村芳太郎には負ける感じでしたね。
そして、佐伯幸三という、駅前シリーズでよく出てくる監督。ここで上映された「ミスタージャイアンツ・勝利の旗」は、巨人ファン、野球ファンは必見の作品です。私も映画館で多くの人と観たいと思う一作です。長嶋を主役として、当時の巨人軍オールスターの出演、そして、彼らが芝居をしている珍品です。この当時から、長嶋さんの個性が異空間であることがよくわかります。まだ、V9に入る前の映画ですが、機会あれば、是非観ていただきたい一本です。こんな映画、今は絶対に撮影も制作も不能だと思います。
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そして、話はまず「1941」。スピルバーグ監督が初めて挑むコメディで、主役がダン・エイクロイド、ジョン・ベルーシということで、期待したが全く面白くなかった記憶だけが残っている。資料を読むと日本が真珠湾攻撃をした後、ハリウッド攻撃をするという話らしいが、話の筋はほぼ覚えていない。そういう意味では、見直してみたいスピルバーグ作品の一本ではあります。
そう、この日は「マッド・マックス」のアクションにたまげたから、いらない情報は忘れたと言っていいだろう。近未来の暴走族退治のお話である。この近未来がいつなのかはどうでもいいことである。そう、これが40年後の今は暴走族的なものはあまり出てこない。しかし、2015年に至って「怒りのデスロード」のような続編が出てくるのだから、この映画のDNAみたいなものは、とても大きかったのだと思う。それも、この映画、一作目はオーストラリアで制作されらものだった。このころ、日本の暴走族映画といえば東映で作られた岩城滉一主演見たいなものだったり、石井聰亙監督の「狂い咲きサンダーロード」だったりである。と考えれば、驚かざるにはいられなかったのだ。
最近は、暴走族自体がいなくなった日本だが、北海道の人のいない土地のような密にならない場所で、日本版のマッドマックス的な映画撮るのもいいんじゃないかと思う、コロナ禍にイライラしている私です。