「あの頃、文芸坐で」【39】不思議な映画「Keiko」、そして百恵ちゃん「天使を誘惑」
前週から続いて、女性映画っぽい2本「Keiko」「天使を誘惑」を観る。もう、百恵ちゃんは引退後だったが、観たかった、藤田敏八監督の描く百恵ちゃんを観に行ったというところ。
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コラムには、森田芳光監督メジャーデビューのお話。ここにあるのはクランクインのお手紙の話。実際は、この年の9月に私は試写会を観ている。今の映画制作は、公開のほぼ一年前というのが多いから、公開まで短い気はするが、当時の映画作りはそんなものだったのだろう。フィルムで撮って短時間で制作の環境は製作者たちにかなり過度の労働をさせていたと思う。森田監督も、2011年、61歳で逝ってしまいましたものね。結構、苦労してたんでしょうね。
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プログラム、文芸坐は「ジョーズ」「スターウォーズ帝国の逆襲」のあと、"おかるとほらーわーるど"というタイトルで「地獄のモーテル」「チェンジリング」番組の幅の広さが感じられる。文芸地下は青春映画特集の後が、「あれから10年/前から後ろから 飛翔するロマンポルノの女たち」ロマンポルノが10年の歴史を経て、日本映画の中で無視できなくなったという特集でしょう。ここに出てくる女優たち、中川梨絵、白川和子、片桐夕子、宮下順子、田中真里、中島葵、芹明香、山科ゆり、東てる美、伊佐山ひろ子、皆、日本映画を語る上で忘れてはならない曲者女優たちである。当時の日本映画が彼女たちなしでは成立しなかったこともよくわかる。そう考えると、メジャーがこの当時ちゃんと俳優を育てなかったことが、今の日本映画の脆弱性につながっている気はする。
オールナイト「日本映画監督大事典」は杉江敏男監督がラインアップされている。若大将や社長シリーズなど、東宝プログラムピクチャーの勇。この辺りの東宝映画は、今見ても楽しいですよね。そういえば、若大将、お身体大丈夫でしょうかね?一気に特集されることがない様に元気でいていただきたいと思います。
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そして、この日観た二本に関して。まずは「天使を誘惑」。百恵ちゃんの最終作は市川崑監督の「古都」だが、正月、お盆を彩ったシリーズとしては、この映画が最後。1980年の正月映画だ。高橋三千綱の原作を大林宣彦プロデュース、藤田敏八監督という不思議な映画。内容は同棲から始まって、いろいろと紆余曲折した後、本当の愛を見つける的な話だったと思う。百恵ちゃん主演の映画は、「伊豆の踊子」から始まったせいもあるが、日本名作全集的なものしか残っていないのは、本当に残念な気がする。芸能生活の終末で、「ふりむけば愛」「ホワイトラブ」などの現代劇があるが、この最終作が一番出来がいいと言っていい。今考えれば、もっと質の良い映画に出演させたかった気はする。歌手活動がかなり忙しかったから、なかなか映画に時間を裂けなかったのはあると思うが、本当にもったいなかったとしかいえない。
そして、もう一本は「Keiko」。カナダの監督、クロード・ガニオンが撮った、日本の若い女性のセミドキュメント的な一本。ATGの配給で、それなりに話題になった。そう、その頃まだ日本は豊かだった。そして、女性は昔の意識と、新しい意識の狭間にあったということだろう。そう、1980年当時の外国人から見た日本の女性像という映画である。そこには、SEXに対する考え方、男に対する違和感、同性と暮らすことで求めていたものを知ったりと、興味深いネタが散りばめられていた。ただ、やはり日本人が作ったものではないので、ちょっと不思議な映画だったという記憶がある。主役のKeikoを演じた若芝順子さんという女優は、女優らしくないところが新鮮だった。とはいえ、見返したい映画ではない。当時の女性研究の一本にはできるとは思う。
前回紹介した「四季・奈津子」と同じ様に、これらも当時の女性を主人公にした映画たちである。あくまでも、男の視線の中の女たちがそこにいる。あれから40年、日本の女たちの地位はなかなか上がらない気はするが、明確に生活や自分を考える意識は変わったと思う。今、私がこれらの映画を思い出してみても、古臭いものを感じる。それに反して、最近の女性監督たちが描く世界は新鮮に感じる私である。でも、それはまだまだ時代が変わっていないからだろう。これから20年くらい先の女性主人公の映画がどうなっているかは楽しみな部分がある、今日この頃だ。