ロマンポルノと対峙した日々(「あの頃、文芸坐で」外伝)【15】エースになれなかった朝比奈順子「婦人科病棟やさしくもんで」「女教師のめざめ」「バックが大好き!」
ロマンポルノは、女優を中心とするスターシステムでできていたプログラムピクチャーである。といっても、今の若い人にはよく理解できないだろう。81年当時のロマンポルノは、2週間毎に3本の新番組が公開され、それを回すために女優や監督が、それなりのローテーションを組んでいた。わかりやすく言えば、プロ野球の先発投手のローテーションと同じである。そして、多くの男たちをそこに取り込むために、主演を張る女優さんの容姿や体型は同じようなものではいけなかった。この頃は、風祭ゆきがエースで、寺島まゆみがアイドル的な主役であり、麻吹淳子がSMの係、そして、ここでお話しする朝比奈順子は妖艶系ともいうか、2番手か3番手の先発の位置だったと思う。彼女の売りは宝塚出身だという事だった。それらしい綺麗な顔立ちとちょっとキュートな感じで、コメディタッチの作品が印象に多い。
時は1981年10月24日「高田馬場東映パラス」。ここは、女優特集の3本立てが多かった。2番館で入場料金は学生700円だった。一般料金は1000円だったのか?記憶にはない。朝比奈のデビュー作「女教師のめざめ」は一度見ていたが、それでもこの3本立てを見にきたのは、朝比奈順子が観たかったという事だろう。考えれば、まだAVもない時代のロマンポルノ女優の価値は現代のセクシータレント、AV女優と呼ばれるものたちの比ではない価値観があった。その下は、「エロ本に出ている女」という扱いでしたものね…。そういうのを思い出すと、隣の奥さんや、そこを歩いている子がすぐに裸でSEXしたり、風俗にいたりする現代の狂い方はすごいと思う。
そんな中でこの時代に、結構、ロマンポルノを観るときは慣れてきてもドキドキ感があった。そこは平気で、多人数と一緒に、擬似であってもSEX主題の映画を見られる異次元世界であったのだ。
そんな時代の中で見た朝比奈順子の三本
「婦人科病棟 やさしくもんで」(鈴木潤一監督)
後に、「砂の上のロビンソン」や「マリリンに逢いたい」を撮っている、鈴木潤一(現:すずきじゅんいち)監督のデビュー作である。この頃は、次々に新人監督がデビューしていって、それが、にっかつ映画の楽しみでもあった。この映画、タイトルから看護師の話かと思う人も多いだろうが、患者になった朝比奈順子の話だ。なんか、話はぼんやりと覚えている気はするが、はっきりとはしない。朝比奈の裸体のイメージは明確なのですけどね。男などそんなものだ。私の当時の映画の評価もかなり悪い。だが、初期の朝比奈順子の映画には、いつも岸田麻里という女優が出ていて、この娘の裸体が結構好みでそれを楽しんでいたのは覚えている。監督デビュー作がいまいちだった鈴木監督だが、ロマンポルノの中ではそれほど手腕が発揮できなかった人である気がする。だから「マリリンに逢いたい」を見たときには少しびっくりしたのは覚えている。
「女教師のめざめ」(藤井克彦監督)
この映画は前にも書いた。朝比奈のデビュー作だ。ビデオで生徒が教師の恥ずかしいビデオを撮る話だが、今はAVで考えれば定番な話であるが、この頃は新しかったのですよね。
「バックが大好き!」(小原宏裕監督)
朝比奈順子デビュー2作目でコメディに挑戦という感じだった。そして、あらすじを読んで思い出した。結婚前までに「チン拓」を100枚集めるという女の話である。まあ、この設定だけで馬鹿馬鹿しいが、ロマンポルノらしい、いかがわしさがある。そして、このタイトルも傑作の一つだと思う。そんな中に、美女として朝比奈順子を入れこんだというのもなかなかの企画だろう。この脚本を書いているのが、今や大ベテランの伴一彦氏である。ロマンポルノではコメディ担当だったが、つまらない作品が多かったイメージしかない。だから、後に「うちの子にかぎって」を初めとした中山美穂のドラマの作者としてブレイクしていくのには驚かされた。
朝比奈順子のデビューからの3作品を一気に見たわけだが、作品的には最初の三本で恵まれなかった感じである。やはり、デビュー初期にそれなりに映画史の中で語られるような映画に出ている人と、それが叶わなかった人がいる。そんな中で女優の序列もできていったのだろう。朝比奈順子はエースになれなかった美女である。
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