「あの頃、文芸坐で」【6】岩下志麻の美しさ「はなれ瞽女おりん」
1978年4月。その4日には、キャンディーズのファイナルコンサートがあった。そして、私は、見事に大学受験に、一つもひっからずに、予備校通い。その中で見たのが「大地の子守歌」と「はなれ瞽女おりん」。
冒頭のエッセイは、「アニー・ホール」が作品賞を獲ったアカデミー賞の話。「スターウォーズ」が6部門受賞。この受賞した6部門を見ると、いかにこの映画の技術的な部分が新しかったかがわかる。それが今年の正月に最終作の上映があったというのも、感慨深いところである。
* * *
そして、プログラム、文芸坐の方は、安定感がある内容が続く。3週目にパゾリーニの二本立て「カンタベリー物語」「アラビアンナイト」というのがある。最近は、こういう題材の映画はディズニーの家庭的なものしかなく、何かパゾリーニの如何わしさが懐かしい。当時は、やはり、大人の見る世界としての集客だったんでしょうね。
文芸地下は、独立プロ映画の中にSF映画特集が挟まれている感じ。SF特集に関しては、次回のネタなので、その時に。そして、独立プロの映画たちは、この時代、ベストテンをにぎあわせるも、ヒットにはつながらない感じであった。でも、名画座では、こういう番組は人が入っていたという印象ですね。
オールナイトは、手塚治虫、秋吉久美子、レコード大賞。どれも客層が違うは顧客がいた番組。アニメに関していえば、「宇宙戦艦ヤマト」の劇場版が公開されたのが1977年、ちょうど、ブームが展開され始めた頃であり、当時までは手塚治虫以上にアニメの興行に大きな挑戦をするような人はいなかった。そういう意味で、ここで上映されているアニメラマと呼ばれた「千夜一夜物語」と「クレオパトラ」は大人の鑑賞に耐えるものとして公開されたものだ。それも、上映劇場は「新宿ミラノ座」「渋谷パンティオン」というところだった。それも、手塚治虫という名前あってのことである。その大きさは、今の子供たちに言っても理解されにくいのだろうね…。
* * *
そして、観に行った番組「大地の子守歌」(1976増村保造監督)。「はなれ瞽女おりん」(1977篠田正浩監督)。共に、キネ旬ベストテン3位という作品だが、今、それを見る機会はなかなかない作品ではありますね。
まず、「大地の子守歌」であるが、増村保造監督は、大映倒産後、なかなか力が出せず?というところだったが数年ぶりにキネ旬のベストテン入りで名前が出た作品である。同時上映「喜劇大誘拐」(前田陽一監督)ということで、ヒットはしなかった作品だろう(多分…。)当時は、増村監督は大映テレビで山口百恵の赤いシリーズなどに関わっていた時で、もう、本当に若尾文子と組んで彼独自の世界を構築していた面影はないと言ってよかったと思う。
そんな中で、映画の増村節「セリフを、はっきり、ゆっくり、3倍大きく」という世界が一時蘇ってきた作品がこれだ。この2年後「曽根崎心中」があり、この二本が監督の晩年の傑作?という評価だと思う。いちいち、?をつけているのは、私が最初にこの映画を観た印象は、「疲れた」ということと、原田美恵子の放漫な身体でしかないからだ。増村映画というものの記憶がある方なら理解できると思う。主演の原田美枝子自身も「疲れた」という印象があったようなので、そういう映画なのだ。原作は「旅の重さ」の素久鬼子であるから、もっと青春小説的な一面もあると思うのだが、あくまでも増村保造の世界に仕上がっている頑固さはすごい一作ではある。最近、こういう体裁の映画作ろうとする人もいないものね。監督の遺作の角川映画「この子の七つのお祝いに」(1982年)は,当時41歳の岩下志麻のセーラー服姿が見ることのできる快作として、今も歴史に残っているのは哀しい感じもする。
そして、今日の主題は、その岩下志麻36歳の時の傑作「はなれ瞽女おりん」である。松竹ヌーベルバーグと言われた映画群に出演し、小津安二郎監督作品にも出演。松竹期待の若手女優。若き日のお志麻さんは、シュッとした美人という趣であった。そして、篠田監督と結婚し、彼の映画に出演し続け、彼のプロダクション、表現社作品の中で、この映画が代表作と言っても私はいいと思う。そして、そこで演技する岩下志麻が、最も美しいという記憶がある。そういう映画だ。
水上勉原作、瞽女が男と関係を持ったために、他の瞽女たちから疎外され、ひとり、はなれ瞽女として旅をする。そんな中で脱走兵の原田芳雄と出会うというドラマ。最後、どういう顚末だったが、今ひとつ思い出せないが、厳しい冬の雪の中のシーン。原田芳雄が、惚れる岩下の美しさ、その岩下のキリッとした瞽女姿などは眼の中に残っている。篠田作品の中でも、ベストに近い映画と言っていいのではないか?そう、見る前にあったくらい映画の印象が、観終わった後には美しい印象に変わっていたのは強い記憶がある。
とにかく、まだ日本映画の勉強を始めたばかりの私には、すごく美しい印象を与えた映画である。岩下さん、「極妻」出演以降、そして篠田監督が引退以降、あまり出てきませんが、どうしていらっしゃるでしょうか?今年79歳。まだ、最後の花を咲かせて欲しい女優さんですな。