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「ワイルド・ローズ」自分が今何処に位置しているのか?この映画に共感を持つ人は優しいはず。
シングルマザーが音楽で自分に正直に生きられるようになるまでを描いた、イギリスのインディペンデント映画。お金はかかっていないが、アメリカ、ナッシュビルにロケには行っているようなので、それなりの意気込みを感じる一作。特に派手な話ではなく、世界共通の、弱者が虚勢を張って生きることの無意味さと、地に足をつけて才能を生かせば成功するというのがテーマだと思うが、主演のジェシー・バックリーの歌声でパワフルな仕上がりにはなっている。
音楽映画というより、地味に主人公の生活の厳しさを描いている作品だ。1年間、麻薬がらみの犯罪で刑務所に入っていた彼女が、子供たちに再開するところから始まり、身分を隠しお手伝いの仕事でお金を稼ぎナッシュビルに行くことを夢見る。しかし、夢を先に見る彼女に親族も周囲も厳しい。子供の怪我から、正直に生きることを決め、それを見た母のお金でナッシュビルに。そこで、自分がやるべきことを決めて故郷に帰るという話。
この映画の出来は、主人公の演技に尽きる。シングルマザーで若いのに自由がきかず、それでいて大きな夢があるという複雑な役所。そして、性格の抑揚が激しく、ある意味粗野な生き方しかできない。だから、隙があって、ものを盗まれたり、人からよく思われなかったりする。そんな役所を主演のジェシー・バックリーはなかなか細かく演じ、歌声でその日常を見事に吹っ飛ばす感じがいい。
ロンドンで伝説の人に会うシーンも、心から求めていたものにあったという表現を見事でできていて心地よい。だから、ナッシュビルに行って、自分の小ささを知る感じは、すごく伝わる。この故郷への転換を図るシーンがこの映画の最大の見せ場であろう。
あと、彼女をお手伝いに雇い、彼女を後押しする、奥さん役のソフィー・オコネドーもとてもよかった。彼女に犯罪歴を打ち明けられるところの涙と、ラストの彼女のステージを見ての涙が、見事に映画を見ている私たちとシンクロしてくる感じがとてもよかった。
そういう意味では、この映画、男の視線がほとんど描けていない。お手伝いをする家の主人に「もうこないでくれ」と言われる以外は、男の言葉がないのだ。監督は男だが、女が撮った映画と言われれば納得するような感じもする。監督は40歳。世界的に若い世代の男たちは、感性が変化しているのかもしれない。
インディペンデント映画で、歌うシーン以外が派手さがない映画である。そして、けしてこれはサクセスストーリーではない。一人の才能を持った女性が最も自分にあった生き方を見つけるという映画だ。
だからこそ、日本でも、多くのシングルマザーがこれを見たら共感もすれば、自分を嫌悪することもあるだろう。でも、それぞれの立場を見極めて幸せに生きなさいというメッセージは強く伝わる気がした。