「あの頃、文芸坐で」【36】今村昌平フェアに通った時②「にあんちゃん」「にっぽん昆虫記」他
この前も書いた、今村フェアの後編。「西銀座駅前」「にあんちゃん」「赤い殺意」「にっぽん昆虫記」の2プログラム、4本を鑑賞。結果、今村昌平の世界を把握した感じはあった。
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コラムは、フランスの舞台演出家のニコラ・バタイユさんが、ル・ピリエで2度目の舞台公演をする話。これを読んで、映画と舞台が同じように楽しめる文芸坐の空間というものが、いかに贅沢な空間だったかということが理解できる。その昔は、日劇なども、舞台と映画が一緒に楽しめた。今、そういう空間が東京にあるか?小劇場であり、映画も上映するというスペースはあるかもしれないが、ビジネスとして成功はしていない気がする。アフターコロナとして、文化の香りが金を産む時代に戻したいと思う今日この頃の私である。
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プログラム、文芸坐は変わりなし、文芸地下は「青春ひた走り」傑作青春映画集PARTⅡ」の特集が増えている。ここに書かれている映画は全て観ている。黒澤明の「素晴らしき日曜日」は、言われれば青春映画ですね。
オールナイト「日本映画監督大事典」は杉井ギサブローの登場。TVアニメを上映していますが、ビデオがまだまだ普及していなかった頃、この上映は貴重だったのですよ。今の若いアニメファンには理解できない事象ですね。
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そして、今村フェアで観た作品、後半4本の印象を書かせていただきます。
「西銀座駅前」
今村昌平のフィルモグラフィーの中で、一本だけ異質な映画である。いわゆるSPと呼ばれる、3本だての添え物小品。そして、誰もが見ればわかるように大正製薬がスポンサーの作品。内容は、妻の尻に敷かれている男の浮気物語。主演の柳沢慎一、山岡久乃、共に、今村組という印象がない。新人としてのお役目として撮った映画なのだろうが、こういう歌謡コメディ映画も撮れるのねという印象。西銀座駅は今はないが、公開当時は丸の内線の銀座駅がそういう名前だったそうだ。銀座線と丸の内線の銀座駅の乗り換えが遠いわけである。そして、フランク永井のヒット曲の名前でもある。
「にあんちゃん」
長門裕之、松尾嘉代、そして子役の2人の4兄弟の炭鉱での苦労話である。初期の今村作品では、私としてはかなり好きな映画である。末娘の書いた原作があり、子供の目から見た、真摯な眼差しで世の中が語られる。印象的なのは、北林谷栄と小沢昭一が演じる朝鮮人。そして、なんとか自分の仕事をまっとうしようとする保険婦の吉行和子。みんな一生懸命に生きている。そして、長男として、生計を立てようとする長門裕之にとっても、若い頃の代表作と言ってもいい。そして、松尾嘉代の映画デビュー作。日本の高度成長の中で、こういう貧しくも前を向く生活があったということを知る上で貴重な作品。左翼的だと言う方もいるだろうが、真実は真実だ。
「にっぽん昆虫記」
今村昌平のオリジナル作品だ。前回のオリンピックの年のキネ旬のベストワン作品。売春の元締めとして成り上がる女の半生を描いた作品だが、日本の国の底辺の姿、戦前戦後の性に対する思いみたいなものが、左幸子の好演で炙り出される感じのフィルム。「にっぽん昆虫記」とはよくつけたものだと思う。交尾によって成り上がっていく女の姿はまさに昆虫と言われればそんな感じ。今村が性的なものに特にこだわりだす最初の作品と言ってもいいだろう。(その前の「豚と軍艦」もそういう趣旨を秘めているが、私は横須賀の青春映画と見ている)
「赤い殺意」
藤原審爾原作の、春川ますみが強姦された男(露口茂)に振り回される話である。セックスレスの夫婦と、強姦で蘇った性欲。まさに、「にっぽん昆虫記」に続き、今村昌平の好きな世界を明確にした作品と言っていいだろう。それが、次の年の「人類学入門」に続く。3本とも、当時は成人映画扱いの公開。(多分、今、映倫で審査してもR15というところだろう)アクション映画で客を入れていた日活でこういう映画を撮り続けていられたのは、ある意味不思議ではある。そして、題材が、後のロマンポルノに通じるものがあるのも縁なのであろう。そう考えれば、今村昌平に一本ロマンポルノを撮らせたかったという気はする。その弟子にあたる浦山桐郎は一本撮っていますけどね…。
とにかく、今村昌平作品を続けて10本観た時の記憶はなかなか濃かった。そして、そこにあったパワーを再度確かめたくて、この辺りの映画はビデオでも何度も見返している。日活時代の今村映画はほとんどモノクロということもあり、若い人は観る機会も少ないのかもしれないが、昭和の様々なバイタリティみたいなものがこびりついているフィルム群である。興味ある方は是非!
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