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「ミスタームーンライト~1966 ザ・ビートルズ武道館公演 みんなで見た夢~」日本におけるビートルズとは何かを真摯に追うドキュメンタリー作品

1966年、私は小学生になったばかり、家にはテレビがあったし、ビートルズが日本に来たというニュースが流れていたのは覚えているが、親が全く興味もなかったこともあるし、周囲にそれに夢中になっている高校生みたいな人もいなかったから、その時代に東京にいたものの、1966年の記憶は小学校の刺激的な生活と、テレビの中の「ウルトラQ」や「アニメ」に夢中だった記憶ばかり。

結局、ビートルズがすごいという認識は思春期になった頃になって洋楽に興味が出てきてやっと目覚めた感じだった。でも、考えれば、今の日本の音楽シーンを作っていった大御所たちは皆、ビートルズの影響を受けている。それは、1966年、彼らの日本公演が起点になっていることは確実だと思う。このドキュメントは、そのとき何が起こったのかということを多くの証人のインタビューのもとに、それを知らない私たちに感じさせてくれる映画である。それは、日本の音楽シーンの中でビートルズがどういう位置を締めているのか?ということも明確にしてくれている。

残念ながら、著作権の問題だろう、その楽曲もその演奏シーンも、ほんの少ししか出てこない。ドキュメントの目的の日本公演も出てこない。それをやってしまったら、莫大な金がかかるのは知っているので、致し方ないところか・・。それでも、かなりの満足が得られる映画だった。満島ひかりのナレーションも耳障りがよかった。

私は昔、キョードー東京の永島達司氏のことを書いた本は読んだことがあり、彼が来日に大きな力になったことは知っていたが、その前年から東芝が招聘を目論んでいた話や、最後は現金を集めてブライアン・エプスタインの前に積んだなどという話は初めて聞いた。とにかくも、まだここに出てくる証言者たちが生きているうちにそれをまとめたいと思って作られた映画なのだろう。そういう意味で、上映時間102分、全く気を抜かずにその一つ一つの言葉を受け取った感じだったし、心の中でビートルズの曲を口ずさみながら映画館を出てきた。

ビートルズのレコードが入ってきたとき、プロデューサー自身も「何?」と思った話。そして、アメリカでの人気爆発があり、それをなんとか日本で売るために、いろんな「ヤラセ」行為でレコードを売った話は面白かった。そして、そのアルバイトを松本隆氏もやっていたというのも、知らなかった話だ。松本氏が最初のビートルズ公演を観て、その後のP・マッカートニーの公演などは観にいっていないという話は興味深かった。その時の4人の公演を上書きしたくないという。これは、少しわかる気がするし、ビートルズというのがそういう存在だったということがよくわかる逸話である。

あと、これに続くGSブームもそうだったのだが、女の子の悲鳴が飛び交うという状況が子供心によくわからなかったのを覚えている。この映画の中でも黒柳徹子氏や加山雄三氏らが、その声を真似しているが、その女性たちの雄叫びこそが、時代を変えるエネルギーだったのだろう。女たちがエンタメの歴史の先取りをする感覚を持っているのは今も同じだと思う。本当に、タイムマシンがあったら、その時の武道館に行ってみたいのは私だけではないだろう・・・。

そしてこの映画の中でも、その当時若くファンとしてみた人は、やはり彼らの歌声がちゃんと聞こえたといい、そうでない人は、歓声が大きくて歌は聞こえなかったという。人間の耳とは好きなものだけ聞こえるようにできているということではあるのだろうが、その聞こえる人が今の時代を作ってきたということだと思います。

多分この映画、その頃にビートルズを体現したみなさんは、映画を見ながら、そこに出てくる証言の中に自分のピースを当てはめながら、その時代にタイムスリップする感じで見るのだろうと思わせるところがなかなか秀逸だったりもしました。

そして、ビートルズの何がすごかったかというと、やはりその音楽が全く歴史的に異質な世界だったからというところは大きいのだろう。そして、先にも書いたが、多くの若者がそれに影響をうけ、G Sブームに始まり、フォーク、ロックとシンガーソングライターの時代に、そしてユーミンなどのニューミュージックに至るまで、日本の音楽シーンの歴史は続いたわけである。つまり、私の音楽に対する感性も全てビートルズがもとになっているといいっても良いのだ。

今、音楽界は、それをビジネスとして今後どうすれば良いか?視界不良のところがあるが、やはり仕掛けるなら、新しい異質なものを何か放って、基本的な流れを全て変えてしまうようなものが必要なのだろう。そういう意味では音楽ビジネス的にはビートルズを過去にすることが必要なのかもしれない。先にある何かはよくわからないが、この映画に心酔しているうちは、未来はなかなか手繰り寄せられない気もしますよね。

そのくらい、今の日本人の音楽感の中にビートルズというフラグはこびりついているということを再認識させられた、ドキュメントでした。



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