「映画 イチケイのカラス」日本のあちこちで起きているアンバランスな話をまとめた、なかなか硬質な映画でした
フジテレビのドラマ由来の映画というと、昔は「これが映画なのか?」と思うことがよくあったが、昨今は結構みられるものも多い。この作品も、現在の日本に対して多くの問題点を投げかけ、なかなか見応えがあった。ただ、映画内でいろんな事件が起こるため、それをしっかり着地させるために少しエピローグ的なものが最後にダラダラ続く。こういうところは、テレビドラマ的だなと思ってしまったりするのだ。そう、話の省略の仕方が上手くないのだろう。
主人公は竹野内豊演じる入間みちお。この、すぐに自分で真実を知るために職権発動する裁判官。彼が演じることで魅力的に出来上がっている。こういうキャラ作りは、ドラマを演じてからのことだと、かなりしっかりできている。この辺りは、ドラマ化の映画化のメリットと言えるところではある。そして、堅物の裁判官だった黒木華演じる坂間千鶴は、弁護士として登場。同じ法廷内にこの二人がいると緊張感が出る感じはとても良い。その辺りは、この間やったスペシャルとは雲泥の差であった。しかし、そのスペシャルで活躍した中村梅雀とスペシャルにも不在だった新田真剣佑が出ていないのは、残念なところ。賑々しさが少し足りない感じ。
(この後、ネタバレ入ります)
そして、最初からネタバレ入れますが、大企業が支配するような町のすべての人が加害者的な話。その周辺のキャストはなかなか贅沢。吉田羊、宮藤官九郎、尾上菊之助など。吉田羊と黒木華の共演は「純と愛」以来だろうか?主役の人はほぼブレイクできなかったが、この二人は大きくなりましたね。それも朝ドラ効果か?そして、この二人が最初に仲良くて、最後には被疑者と弁護士の関係になってしまうのはなかなか複雑。そういう点が人間ドラマとして上手くできているとも言える。
最初、イージス艦への追突による貨物船の沈没という問題と、桃のハリボテが積んであったトラックが事故を起こした話から始まる。ここでは、この関係ないだろう話が見事にわかりやすくくっついていく。そして、企業に守られる町が、その町ぐるみで産業廃棄物の法定基準オーバーを隠していたという事実に行き着く話なのだが、これは、いわゆる高度成長で企業により守られてきた町が、時代とともに変化できなかったという話である。置き換えれば、原発で潤ったような街もまたそうだろう。そして、公害問題なら、本当なら町の人が企業を訴えるというのが多いのだろうが、グルになって町を守ったというところが厄介なところ。そんな中で、健康被害も起こるし、殺人事件まで起きてしまうという流れは、なかなか悲しい話だ。
また、遅まきながら企業を訴える人間が移住してきた人ということは、これからもこういう話が浮き彫りになる可能性があるというような予感を観客にさせている。そういう点は、ドラマとして見せる上でなかなか優れている点だと思う。
そんな中で、竹野内は、イージス艦事故の裁判で職権発動を行うも、防衛大臣の力により、裁判官から下されてしまう。ということで、実際の竹野内の独自の調査などは、黒木の動きの活動に隠れてちゃんと描かれていない。その辺も省略が下手な感じがした。その辺を描かなかったから、最後にイージス艦の中で起こっていたことを守ろうとした防衛大臣の向井理に自分で説明させてしまっている。そう、映画でセリフで説明してしまうほど興醒めなことはない。そういう、脚本のメリハリが上手くないのは全体に言えることである。
敵か味方かよくわからないままに死に至る弁護士の斎藤工に関しても同じことが言える。彼が死に至るまでの経緯を最後にまとめてしまったため、彼のなかなか良い演技が前に出てこない感じなのだ。
結果的には、最後に法廷で証言させられる吉田羊が最も演技的にはもらい役という感じであった。
ゲストとして出ていた、西野七瀬とか柄本時生は必要だったのか?この辺りと竹野内の絡みももっと面白くして良かったのではないか?それができないなら、そんなキャストにする必要もない。彼らが竹野内に影響されて行ってナンボというところがあるのがこの話だと思うのだが・・。
あと、最初の方に出てくる、夫が殺されたと傷害事件を起こす田中みな実。最近は、NHKのドラマに主演とか女優のように振る舞ってきましたが、そんなに人気があるのでしょうか?まあ、芝居自体は下手ではないのですが、こういう役が似合ってしまう顔の気がするのですよね。もう一つ華がないということです。そう、その役柄より先に田中みな実に見えてしまうのがよくない。
映画の話全体にはそれなりに楽しめた感じなのですが、「映画」としての構造としてあまり全体のバランスがよくないのですよね。こういうのは、演出者も交えてじっくり脚本をいじる必要があると思うのですが、テレビ流れの映画でそれを望むのはよくないのでしょうか?その一手間二手間で、結構傑作になったんじゃないかと思う一作なのですよね。
私的には、入間みちお、ここまでやるんだ!というのを見たかったんですよね。そこも、残念だった気はします。