「シン仮面ライダー」PG12版のアクション映画としてまとめられた、新しいヒーロー像
「仮面ライダー」のテレビ放送が始まったのは1971年4月3日。当時私は小学校6年になったばかりであり、これを初回から見た記憶はない。そして、小学校高学年の子供たちが話題にするテレビ番組でもなかった。梶原一騎原作物が一斉を風靡していた中で、ヒーロー物に興味がなかったということはある。とはいえ、それから1年後、「帰ってきたウルトラマン」が始まり、「ミラーマン」「シルバー仮面」「超人バロム1」などの第二次怪獣ブームが起こり、怪獣など出てこない「仮面ライダー」も人気があがってきたという感じだったと思う。ただ、私は怪獣にはまだ興味があり、それらを見ていたが、周囲の友人が「仮面ライダー」にフォーカスがあったかというとそうでもなかった。そして、「仮面ライダー」の記憶は、道端に大量に捨てられている「仮面ライダースナック」の記憶だったりするわけだ。とはいえ、この主題歌はすごい耳に残ったのは覚えている。
監督、庵野秀明は私と同じ年齢である。そう考えると、似たような状況だったと思うわけだ。そう、「シンウルトラマン」を原作のオムニバスのようにしてしまったのは、その話に彼のこだわりがあったからだろう。でも、彼は(監督ではなかったから、彼だけの意思でもないのだろうが)有名な主題歌を使わなかった。
それに対し、この映画は、途中のバトル風景でそれを流しているし、ラストクレジットでは皆が口ずさむだろうという感じでフルコーラスが流れる。その割には、ショッカーの設定以外は、原作をかなり変えて再構成しているわけで、多分、監督自身は元のテイストがあまりに子供向けだと考えていた節がある。そういう意味では、我が世代の見たい「仮面ライダー」がここに登場したと言っていい。
ということで、公開からかなり経つが、ネタバレ読みたくない人はこのあとは読まないでくださいね!正直、今から見る人は、何も情報入れないで見るのがいいと思います。
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正直、予想以上に面白かったと言ってもいい。ショッカーから逃れてきた浜辺美波と池松壮亮というシーンから始まるが、その場で池松は自分が改造された状況を認識していない。そして、人を残虐に殺める自分を自己嫌悪している。これは、平井和正「エイトマン」などでもよく言われることであり、石ノ森作品では「サイボーグ009」もそうだろう。自分の持て余した力に同調できずに、優しい心がそれを使うことを邪魔する。そういう設定にしたのは、「闘う」ということの哲学的なものをなんとなく示したかったような脚本だ。そして、政府の関係者である、竹野内豊と斎藤工が、池松を使ってショッカーを倒そうとするというストーリー。シンプルでわかりやすく。次々にライダーを狙う改造人間たちの見せ方もなかなか上手い。そこに中に、長澤まさみや西野七瀬を入れ込んで、違和感なく見せているのはなかなかだった。そう、庵野演出、ドラマ部分に及んではなかなかちゃんとできている。自分で脚本書いてるのだから当たり前か・・・。
私は、「仮面ライダー」という世界はアクション映画の部類に入ると思うのだが、その辺りがもう一つ不満ではあった。昔のテレビ作品に比べても生のスタントのアクションは少ない。最後のライダーだらけの対決もほぼCGのなせる技で、炎と音で見せてしまってるので、アクションに体感がないのだ。この間見た「ベイビーわるきゅーれ2ベイビー」などは、主役の伊澤彩織の生アクションだけで観客が疲労感を覚えるわけで、やはりそういう作り込みは欲しいと思った。まあ、トランポリンを使って下からキックやバク転を見せるあたりは、昔のテレビ的なシーンなので良いのですけどね・・。
そして、話は人類の生命力をショッカーが皆吸い取っていくみたいな話。それをやめさせようとするライダーという構図で、トーンとしては、結構ダークだ。だが、そのダークな世界の中に、池松壮亮、柄本佑、浜辺美波、森山未来という、なかなかのキャストが贅沢に上手くハマっているので、映画的には結構な重厚感がある。
そして、私的なお目当ての浜辺美波は、予想以上にクールに役をこなしていた。あと十年先、この人はもっとすごい演技をするのだろうなと予想できる。楽しみでならない。
ラスト、ライダーの仕事が柄本佑に受け継がれる感じもなかなかスマート。121分、なかなか堪能できました。この映画、最初にわかりやすいように出てくるけどPG12作品なんですよね。暴力的な画が結果的にそうさせたのだとは思うが、小学生が親子で見にいくライダー作品とは、確実に差別化されているところは、とてもいいと思いました。「シンウルトラマン」よりも話題になっていない感じではありますが、私的にはこっちの方が1.5倍くらい面白かった。
大体、仮面ライダーがヘルメット脱いで存在しているところで妙なリアル感みたいなものがあるのですよね。