「あの頃、文芸坐で」【5】スポーツ映画という世界
1977年の夏休みの、「傷だらけの栄光〜にっぽんスポーツ根性物語〜」という特集で、この時は「野球狂の詩」と「あしたのジョー」を観に行った。
まずは、最初のコラム。文芸坐の従業員について書いている。当時はネットもSNSもない時代。映画館の従業員の話って今考えれば貴重ですよね。そして、今は、映画館で働く人たちには、もっと発信をしていただきたいと思います。ミニシアターがなくなるかも?映画館がなくなるかも?という危機的な今こそ、それが欲しい。映画評論家の話よりも、映画が好きで映画館で働いてる人の話は意味があると思うから、是非!
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文芸地下のプログラムは、スポーツ映画特集の後は、黒澤、溝口、こういう名画座定番プログラムの中で、巨匠たちの映像に触れられたあの頃は、今考えれば恵まれていたのかもしれませんな。
そして文芸坐は、最近はほぼ映画館で見ることができない、サム・ペキンパー。当時は、結構好きな方いましたよね。特集が始まる前の週に「予告編集」をやっているのもいいですね。デジタルになってから、予告編をまとめて上映するみたいなことやりませんよね。昔は、予告編から映像の味を感じたし、それは日本映画の場合、ほぼ助監督が予告編をつないでたというのもありますよね。「昔は良かった話」になってしまうのが私は年寄り臭くていやなのですけどね。
オールナイトは「眠狂四郎」「三島文学」「深沢七郎&武田泰淳」渋いですけど、いいプログラム。眠狂四郎、夜中に続けて5本観たら、まず内容が混ざって、よくわからなくなりますな。でも、このプログラムを当時600円で観られたんですよ。昨今の名画座は、いろんな映画がかけられるのはいいが、高い!場所代、人件費、等、いろいろ大変なのはわかりますが、優しくないですよね。せめて学生さんは半額にしていただきたい。(と言っても、今の状況では、とても無理ですかね…。)
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そして、スポーツ映画特集である。とはいえ、日本映画で、スポーツをうまく描いた映画はないと言ってもいい。このプログラムの映画、ほとんど観ているが、この中のどれと言われれば「東京オリンピック」だろう。他の劇映画は、ほぼ人情ドラマを交えてしまうところに難がある。そして、「力道山物語」も沢村栄治の「不滅の熱球」も、トキノミノルを描いた「幻の馬」も史実とかけ離れた嘘がある。まあ、力道山が朝鮮出身などと描けるはずもなかったのだが、こういう映画で英雄たちの歴史を知ってそのまま語り継ぐものも多かったのだと思う。
後、「力道山物語 怒涛の男」「川上哲治 背番号16」「鉄腕投手 稲尾物語」は本人が主役をやっているところが見所である。野球選手が今、こんなことやったら怒られるでしょうね。でも「稲尾物語」に関しては、いわゆる「神様仏様稲尾様」と言わせた昭和33年の三連敗からの大逆転の日本シリーズの記録が全て見ることができる。これは、テレビでちゃんとやることもないので貴重です。
後、異質な映画として、いや、今は絶対に作ることのできない映画として「ミスタージャイアンツ勝利の旗」は野球ファン必見の映画である。主演は長嶋茂雄。そして当時のジャイアンツ総出演。川上監督も、広岡も藤田も王も、みんな芝居をし、最後はみんなで「闘魂こめて」を歌う。そこに、東宝映画陣が彼らのファンとして絡んでくる。奇妙キテレツ、ある意味大爆笑巨編だが、当時のプロ野球の状況がわかると言っていい。
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そして「野球狂の詩」である。日活がロマンポルノを休んで春休みに封切った映画である。併営に「鳴呼!!花の応援団 男涙の親衛隊」をつけて、コケた映画である。木之内みどり主演は、なかなかいいと思ったのだが、当時の技術では、へっぽこ野球映画にしかできなかったということ。そして、木之内の当時のファンがどれくらいいたのか?という疑問もある。とはいえ、私は木之内が好きであったし、お風呂のシーンもあるし、まあまあ満足して映画館を出た気はする。今年、逝かれた野村克也(当時南海監督)が出演している。水島新司原作ということで、パリーグアピールでもあったのでしょうね。
そう、当時は水島新司が、各少年誌に次々に野球漫画を連載し、一つのピークを迎えていた時で、この企画が出たのだと思う。この年に「ドカベン」も東映で実写化されているが、こちらも、なかなかすごい作品である。永島敏行のデビュー作ですよね…。
映画のラストは、ドリームボールができたかどうか?というところで終わっている。日活的には、続編を作りたかったという感じだったのだろうが、興行結果が全てだった感じの映画である。だが、今も木之内みどりといえばこの映像が出てくるので、作った意味はあったのでしょうか?
そして、この日、多分、私が興味深かったのは、実写版の「あしたのジョー」である。今でこそ、有名な映画になってしまったが、当時は存在もよく知らなかったので、映画館で見て、驚いたというか、こういうの作るんだと思った感想しかなかった気がする。だいたい、新国劇が作った映画ですものね。この劇団は、舞台でもこれを演じているんですよね。70年代の日本のエンタメなどそんなものである。多分、緒形拳がボクサーの話を演じていたから、「できる」と思ったのでしょうな。まあ、丹下段平=辰巳柳太郎はいいとして、ジョーが石橋正次で、力石が亀石征一郎、青山が小松政夫という、キャスティングもすごいが、ボクシングシーンは、ほぼ迫力がない。所詮、漫画という感じの作りなのだ。監督はアクションが撮れる長谷部安春。野良猫ロックのボクシングシーンの方が全然上である。とにかく、この題材でセンスなさすぎである。ずっと後年、山P主演で再映画化されたが、やはり動くジョーはあおい輝彦の声と、ちばてつやのシャープな絵があって成立してることを再確認させられただけだった。
そんなこんなで、日本映画がスポーツをスポーツとして映画に表現できる時代はまだ来ていないというのが現実なのです。今回のやれるかさえわからないオリンピックの記録映画の監督に、河瀬直美監督を指名してしまう国である。何が行われたかは描けるだろうが、スポーツとは何かという問いに答えられるかは難しい感じがする。ただ、中止になったところでも、その状況を記録映画にしていただきたいという思いはある。
スポーツは生で観戦して感動するものなのだ。だから、映画で表現するにも無理がある。アメリカ映画でも、その場にいるような感動を覚えるものはなかなかないですものね。
とにかく、スポーツも映画も、昨年のように当たり前に観ることができる日が早く来るように祈りばかりです!
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