こっくりさん
たかしとは昔からの幼馴染だった
あれは中学3年生の頃
たかしが突然「こっくりさん」をしたいと言ってきた
遊び半分でやってみた
それがまさか
あんなことが起きるなんて
「ゆうや!みんな帰ったし、そろそろ始めようか~!」
嬉しそうにしているたかし
「お前ホントこういうオカルト好きだな~」
放課後、誰もいない教室はいつもより不穏な空気を醸し出していた
「あんまり知らないんだけど、どうするんだっけ?」
「知らねーのかよぉ!まず“あ~ん”までの50音と鳥居の絵をかいた紙を用意する」
そう言いながらたかしはポケットから紙を取り出した
「お前いつの間にこんなの作ったんだよ!」
「授業中に作ったんだよ!この紙の上に10円玉を置いて、2人で指を重ねる。そしてこっくりさんを呼ぶ。もし来てくれたら、何を質問しても真実を教えてくれるんだよ!」
意気揚々と答えるたかし
「ホントかなー。まぁいいや。そんなにやりたいならやるかぁ」
俺は昔からこういう類の話はまったく信じていなかった
「こっくりさん、こっくりさん、おこしください。
こっくりさん、こっくりさん、おこしください」
ゆっくり、丁寧に呼びかけるたかし
ズ・・・ズズ・・・・ズズズ・・・
「おいおい・・・ウソだろ。お前動かしてんだろ!!」
10円玉がひとりでに動き出した
俺はたかしの悪ふざけだと思った
「動かしてないよ!すごい!すごいすごい!!!」
10円玉が鳥居の所まで動いて、ピタリと止まった
「こ・・こっくりさん・・・・きた・・・」
たかしは興奮気味につぶやいた
「・・・・マジかよ」
俺はまだ半信半疑だった
「ホントか?ちょっと質問してみるぞ?」
いろいろ試してみることにした
「こっくりさん、こっくりさん、俺の名前を答えてください」
ズ・・・・ズズズ・・・・
10円玉が動き出す
≪・・・さ・・・さ・・・・き・・・・・ゆ・・・・う・・・や≫
「すごい!!こっくりさん、なんでもお見通しだ」
「ホントにお前、動かしてないのか?」
「動かしてないよ」
「じゃあ、お前何か聞けよ」
「こっくりさん、こっくりさん、
今の日本の政治をよくするにはどうすればよいですか?」
「え、そんなこと聞くのかよ」
ズ・・・ズズズ・・・・
≪・・・・か・・・・く≫
「答えてくれんの!?」
≪・・・め・・・い≫
「革命か~♪」
「なんだそれ!!こわすぎるだろ!!」
「ホントなんでも答えてくれんだなー!」
「いやふざけてんだろ!お前が動かしてるとしか思えねーよ!」
「動かしてないって!信じろよ!」
「まずその質問なんだよ!もっと学生らしいこと聞けよ!進路とか恋愛の悩み!」
「・・・・恋愛。わかった」
たかしは決意したかのように頷いた
「こっくりさん、こっくりさん、
ゆうやの好きな人を教えてください」
「は?なんだよその質問」
・・・ズ・・・・ズズズ・・
≪・・・・た・・・・か・・・・だ・・・ゆ・・・・み≫
「なんで!?誰にも言ってないのに」
「ゆうや・・・高田なんか好きなのかよぉ」
「いや、その・・・じゃ、じゃあ、お前の好きな人もきこうぜ!」
「え!?なんでだよ!!」
「いいだろ!こっくりさん、こっくりさん、たかしの好きな人を教えてください!」
「やめろって!!」
ズ・・・ズズ・・・ズズ・・・
≪・・・・さ・・・・・さ・・・・き≫
「・・・・え?」
たかしは真っ直ぐ俺のことを見つめていた
「・・・あ~、な!
隣のクラスの佐々木レイナな!かわいいもんな!」
・・・ズズズ・・・
≪・・・・・ゆ・・・う・・・や≫
「・・・・俺じゃねーか。
・・・・お前動かしてるだろ?」
「・・・・動かしてない」
「・・・・動かしてない方が問題だよ」
たかしは俺から目を離さない
「バ、バカバカしい!!ふざけんなよ!お前が動かして、俺をおちょくってんだろ!やめだやめだ!ハハハ!」
俺は10円玉から指を離して席を立った
「おい!!!やばいよ!!こっくりさんにちゃんと帰ってもらうまで、指離しちゃいけないんだぞ!!戻せよ!!!」
「わ、わかったよ!!」
たかしが怒鳴るので、急いで指を戻した
「やべーよ!!こっくりさん、こっくりさん、すみませんでした!!!許してください!僕たちはこれからどうすれば良いですか?」
たかしが鬼気迫る表情で叫ぶので緊張が走った
10円玉が再び動き出す
・・ズ・・・ズズズ・・
≪・・・・・き・・・・・す≫
「え?」
たかしを見ると
こちらを向いて目を閉じていた
「ふざけんなっ!!!」
俺はたかしを突き飛ばした
「うわぁ!!!」
たかしは席から落ちて、10円玉から指を離してしまった
「絶対お前が動かしてんだろ!!なんだよキスって!!」
たかしは横になったまま動かない
「おい!起きろよ!気絶したフリなんかしやがって!」
「・・・・・・コーン・・」
たかしは四つん這いで、顔を伏せたままそう言った
「は?・・・何言ってんだよ」
「こっくりさんは狐の霊だコーン。知ってるかコン?」
四つん這いになったまま、お尻をフリフリ振っている
「お前これ以上ふざけた真似したらブン殴ってやる。こっくりさんに便乗して俺に告白したんだろ?それでダメだったから取り憑かれたフリしてんだな。10円玉も全部お前が動かしてたんだろ!!別に同性が好きでも悪いとは思わないけどよ、こんな真似はすんなよ!」
「違うコーン!こっくりの仕業だコーン!」
お尻をフリフリ振り続けるたかし
「お前、恥ずかしくねーのか?」
「・・・演技じゃないって言ってるだろ・・・・・この男がお前を好きだから、結んでやろうとしたのに・・・お前らは2度も掟を破った・・・指を離した・・・」
「よし、殴る!顔を上げろ」
近付こうとしたその時、たかしが顔をあげた
「うっ!?」
たかしの顔は細長く変形し、
まるでキツネのような顔つきでニヤリと笑った
次の瞬間
四つん這いのまま走り出し
4階の教室から窓ガラスを突き破って外に飛び降りた
「お、おい!!」
突然のことで俺はその場に立ち尽くすことしかできなかった
ズ・・・・ズズズ・・・・
紙の上の10円玉が、またひとりでに動きだす
≪・・・・・・し・・・・・・・ね≫
終