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一人暮らし

私の名前は山崎香、26歳
一人暮らしのOL

最近犬を飼った。フレンチブルドッグ
名前はシゲ        
ペットを飼うのは2匹目

昔から人とのコミュニケーションが苦手
外でも常に人目を気にして生きている
そんな私に恋人なんてできるはずもなく
寂しさを紛らわすためにペットを飼った
今では犬と戯れている時間が一番幸せを感じられる

シゲは可愛い
とても可愛い

”この子が言葉を話せたらいいのにな”

可愛さのあまり

そんなバカみたいな願望が生まれてしまった

いつも家に帰ってきたら
ご飯をあげて一方的に話しかけて終わり


そんな日が続いた

それだけでも充分幸せだった。


「ただいま〜」

いつもように仕事を終え
家に帰ってきた

いつもと同じはずだった


《おかえりなさい》


「え・・・・」

心臓が止まるかと思った

聞いたことのない男の声

恐る恐る、リビングに入ると


シゲがいるだけだった


「・・・・どこ?誰かいるの??」


《私ですよ。シゲです》


「シゲ?そんなはずはない。嘘よ」


《驚くのも無理はない。私だって驚いているんです。
いつもありがとうございます。シゲですよ》

「私は夢でも見ているの。
確かに声はシゲの口から発せられている」

《いやね。いつも香さん、僕に言ってたでしょ
言葉を話せたらいいのになーって
僕も香さんが大好きだから
会話できたらいいなってずっと思ってたんですよ》

「え、じゃあ何。神様的なのにお祈りをして
言葉を話せるようになったとでもいうの?」

《ハハハハ、面白いな香さんは。
それは小説の読みすぎだ》

「じゃあ、どうして話せてるのよ」

《練習したんですよ》

「練習!?」

《はい、あなたがお仕事に行っている間
人間の言葉を一生懸命練習して、話せるようになったんですよ》

「いやそれも非現実的でしょ」

《あなたの驚く顔が見たくて
完璧に話せるようになるまで隠しておこうと思いましてね》

「いや、完璧に話せてなくても
練習してるところ見ただけで驚いてたと思うけど」

《ドッキリ大成功。
いやぁ嬉しいなぁ、香さんとお話しできて》

「いまだに信じられない
ずっと夢に見ていたことなのに
いざ実現すると、心の整理が」

《焦らなくていい
ゆっくり慣れていきましょう》

「すごく大人だよね。
喋ってるのもだけど、
そのキャラクターに戸惑ってると言うか、
赤ちゃんだったはずなのに」

《犬は成長が早いんですよ》

「早すぎるような
おっさんじゃない」

《ではそろそろ始めましょうか》

「何を?」

《しつけですよ》

「しつけ??」

《あれあれ?
香さんは全然犬のことをわかってないなぁ
あのね、犬ってのはね
主従関係が大事なんです
犬に対して
自分が飼い主なんだ
上の立場なんだ!ってことを明確にしておかないと
僕、グレてしまいますよ?》

「大丈夫だと思うよ。
そんな客観的に考えられるなら」

《いえいえ、私がグレてしまったら大変だ
言うことを聞かない犬とは
一緒に旅行もいけませんよ
さぁ、しつけてください!》

「いや、しつけろって言われても
なにをしたらいいの?」

《そうですね
ビンタをしてください》

「ビンタ?」

《はい、ビンタをして力強く私を罵ってください》

「そ、そんなのできるわけないでしょう
動物虐待じゃない」

《いいんです
しつけですから》

「いやよ!」

《それではそこにあるバットで僕を叩いてください》

「酷くなってるじゃない。これはあなたを叩くために置いてるんじゃないの!

《それでは、いつも使っているロウソク
あれを私の背中にかけてください》

「ちょっと!かけないわよ!!」

《私に首輪をつけて歩かせてください!》

「それ散歩の時にしてるでしょ!!」

《私を犬と罵ってください!!!》

「あなたは犬なのよ!!!!
何を言ってるの・・普通のしつけとは違うじゃない
どこで覚えたの・・・」

《楽しいなぁ》

「なんなの、
まさかシゲがこんなにも変態だったなんて」

《いやぁ、優しい人に養ってもらえてよかった
本当にいつも、あなたたちには感謝しています》


「・・・・え?
はは、まだ日本語覚えたてだからね
あなた、”たち”はいらないわよ
あなたでいいの」

《いいえ、あなたたちですよ
“彼氏”と暮らしているでしょう?》

「・・・・何を言ってるの?」

《いつもあなたが朝、仕事に出かけたら
“あなたの彼氏”が部屋から出てきて
一緒に過ごしているんですよ
夜になると部屋に戻ってしまうんですよね》

山崎「・・・・嘘でしょ」

《なぜ香さんがいる時
部屋から出てこないのか
教えてくれないんですよ》


「・・・そんな・・」

《僕に日本語を教えてくれたのも彼なんですよ
とっても優しい方です》





私は震えながらバットを掴んだ





ゆっくり部屋の方へ近づく






《おや?香さん、彼氏さんとお楽しみの時間ですか??》





許さない




許可なく動くなって言ってるのに




これだから放し飼いはダメなのよ



ちょっと甘やかしたらこれ


ちゃんと


”しつけ”しないとね


あなたは“彼氏”じゃなくて私のペットなんだから



《ワンワン!!
ワンワンワンワン!!!》



部屋に響き渡る鈍い音

それを掻き消すかのように

犬は吠え続けた



山田『さて、皆さんもうお気づきだろう。
このお話は一人暮らしの女の子が飼っているペットの犬が突然喋れるようになり、その犬が部屋にもう一人男が住みついていると語り出し、女の子が危ないと思いきや、女が男を部屋に監禁しているというサイコパス女だったのだ!さらに犬が日本語を喋っていたのではなく、犬が日本語を喋っている幻覚を女が見ていたわけでもなく、奇妙なことに、突然女が犬語を理解できるようになったのであった!!!!』


《ワオーン!!!》

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