太平記 現代語訳 17-11 新田軍、地獄を行く

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この現代語訳は、原文に忠実なものではありません。様々な脚色等が施されています。

太平記に記述されている事は、史実であるのかどうか、よく分かりません。太平記に書かれていることを、綿密な検証を経ることなく、史実であると考えるのは、危険な行為であろうと思われます。
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10月11日、新田義貞(にったよしさだ)率いる7,000余騎は、塩津(しおづ:滋賀県・長浜市)、海津(かいづ:滋賀県・高島市)に到着した。

「これより先、西近江路(にしおうみじ)7里半の山中は、越前国の守護・斯波高経(しばたかつね)の大軍によって、完全に塞がれている」との情報に、そこからのルートを、木ノ芽峠(きのめとうげ)越えに変更した。(注1)

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(訳者注1)「西近江路7里半」とは、国道161ぞいの、いわゆる、「七里半越(しちりはんごえ)」のルートである。「木ノ芽峠」は、国道476号が通る峠である。
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この地方においては、通常、10月初め頃から、高い山々に雪が降りはじめ、山麓地帯も、時雨が続くようになってくる。(注2)

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(訳者注2)旧暦の10月だから、今でいえば11月頃の事になろう。当時と今とでは、敦賀付近の気候は、相当違ってきているのかもしれない。
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今年は例年よりも、曇天と寒気の到来が早いようだ。

山道の吹雪が、新田軍メンバーの甲冑に降り注ぎ、鎧の袖を翻し、彼らの面を激しく打つ。

士卒は寒谷(かんこく)に道を失い、暮山(ぼざん)に宿無く、木の下、岩の陰に身を縮めて臥すばかり。運よく火を求めることができた者は、弓矢を折って薪となし、未だに友を見捨てない者は、互いに抱きあって身を暖める。

皆、薄着のままで比叡山を出てきたし、馬には食料を十分にやれていない。人も馬もバタバタと倒れ、次々と道を塞いでいく。

叫喚地獄(きょうかんじごく)、大叫喚地獄の声は耳に満ち、紅蓮地獄(ぐれんじごく)、大紅蓮地獄の苦しみが眼を覆う。

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河野(こうの)、土居(どい)、得能(とくのう)ら300騎は、後方を進んでいたが、見曲(けんくま:滋賀県・高島市)のあたりで前陣から遅れてしまい、道に迷って、塩津の北に止まっていた。

佐々木道誉(ささきどうよ)の一族と熊谷(くまがや)が、彼らを見つけ、包囲して討ち取ろうと襲い懸かっていった。

河野たちも、これを迎え撃とうとしたが、馬は雪に凍えて動かず、人間は指を凍傷にやられてしまっていて、弓を引く事もできず、太刀のツカを握る事も出来ない。どうしようもなくなってしまい、腰刀を土の上に置き、その上にうつ伏せに倒れて、次々と自害していった。

千葉貞胤(ちばさだたね)率いる500余騎も、進む方角が分からなくなっていた所へ降雪となり、道に迷った末に、敵陣のま正面へ出てしまった。

千葉貞胤 おれたちは、進退を失い、前後の友軍にも離れちまった。もう、これまでだな・・・みんな、一個所に集まって、一斉に自害しようぜぃ!

そこへ、斯波高経の使者がやってきて、いわく、

使者 わが主・斯波高経は、こう申しております、

 もう勝負はついた、戦はおしまい! 志を曲げて、降伏されてはいかがでしょう? 敵側に属していた間の事については、高経、わが身に替えてでも、千葉殿の事を、尊氏様になんとかとりなしして、赦免していただくように努力しますから、と。

千葉貞胤 ・・・。

斯波高経よりのこのような慇懃な勧誘に、千葉貞胤は、心ならずもついに折れ、高経に降伏して、その配下につくことになった。

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10月13日、新田義貞たちは、敦賀(つるが:福井県・敦賀市)に到着。気比氏治(けひうじはる)が、300余騎にて、彼らを出迎えた。

氏治は、恒良親王(つねよししんのう)、尊良親王(たかよししんのう)、新田父子兄弟を、ひとまず、金崎(かねがさき:敦賀市)の城へ入れ、他のメンバーらに対しては、敦賀港周辺の在家を宿としてあてがい、長旅の疲れをいやさせた。

ここに一日逗留の後、これからも全軍が一個所に集結し続ける、というのは不可能だろう、という事で、リーダーたちを、方々の城へ分けて派遣することになった。

新田義貞は、恒良親王について、金崎の城にそのまま滞陣。

彼の子息・義顕(よしあき)には、北陸地方の2,000余騎を添えて、越後国(えちごこく:新潟県)へ向かわせた。

脇屋義助(わきやよしすけ)には、1,000余騎を添えて、瓜生(うりう)氏がいる杣山(そまやま)城(福井県・南条郡・南越前町)へ派遣した。

それぞれの行く先の地元勢力を味方につけて、金崎を後方から支援させよう、との意図が、そこにはあった。

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