太平記 現代語訳 37-6 新・幕府執事職、選出される

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この現代語訳は、原文に忠実なものではありません。様々な脚色等が施されています。

太平記に記述されている事は、史実であるのかどうか、よく分かりません。太平記に書かれていることを、綿密な検証を経ることなく、史実であると考えるのは、危険な行為であろうと思われます。
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細川清氏(ほそかわきようじ)の離反の結果、足利幕府は、執事(しつじ)不在状態になってしまった。

このままではいけないのでは、ということで、会議が開かれた。

幕府・リーダーA 近年、執事職は細川殿がやってこられてました。でも、あのような事になってしまって・・・今や、敵対勢力の一員ですもんなぁ。

幕府・リーダーB とにかく、後任の人を早く選ばないとね。

幕府・リーダーC 執事不在じゃぁ、政治の全てが滞っちまいまさぁ。

足利義詮(あしかがよしあきら) 問題は、いったい誰に執事職を、そこなんだよなぁ・・・。

幕府・リーダーD あのぉ・・・私、思うにですねぇ・・・斯波高経(しばたかつね)殿のご子息・氏頼(うじより)殿が、適任なんじゃぁ?

幕府・リーダーE あ、斯波氏頼殿、いいですねぇ!

幕府・リーダーF あの人なら、もうそれこそ立派に、執事職が務まるでしょう。

幕府・リーダーG (内心)テヘッ! みんな、今をときめく幕府の実力者・佐々木道誉(ささきどうよ)にゴマすってやがんだよなぁ。だってさぁ、斯波氏頼、道誉の娘婿じゃぁん。

幕府・リーダーA 将軍様、いかがでしょう? 斯波氏頼殿で、よろしゅうございますか?

足利義詮 うーん・・・まっ、いぃんじゃぁないのぉ。

と、いうわけで、斯波氏頼が幕府執事職に内定した。

これを聞いた斯波高経は、

斯波高経 なんだってぇ! 氏頼を執事職?! だめだよ、そんなの。執事職は辞退だ!

高経は、現在の妻から生まれた三男・義将(よしまさ)を寵愛し、先妻から生れた長男と次男を世に出そうという心が無かったのである。

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斯波高経 おそれながら将軍様、せがれの氏頼を幕府執事職に、とのみこころ、私としては、まことにありがたいお話であります。

足利義詮 ・・・。

斯波高経 ですがぁ・・・。

足利義詮 ・・・。

斯波高経 この人選、いささか不適切かと・・・。

足利義詮 ・・・。

斯波高経 ご存じのごとく、執事職といえば、幕府中、最重要、最枢要(すうよう)の職責。ならば、それには、幕府中最高の人材を任命しなければなりません。政治力、統率力、事務遂行能力、意思決定力、人間力、もうそりゃぁ、最高レベルのものが求められるでしょうね・・・世間からの人望、人徳面においても、多くの人々を納得させるだけのものがないと・・・有事の際の幕府全軍を統率する軍事的な能力も、必要となってまいりましょう。

斯波高経 その点ですねぇ・・・私の口からこんな事、申しあげるのも、まことに遺憾な事ではありますがぁ・・・氏頼では、ダメです! 到底、執事職の任に耐えられるような、そんなうつわ(器)じゃぁありません!

斯波高経 ・・・まったくもう、アイツは・・・毎日フワフワ、いったい何考えて生きてんだか・・・フーッ(溜息)。

高経は、あれやこれやと、氏頼の非を列挙し、種々の咎(とが)を述べ立てた。

斯波高経 ・・・まったくもってねぇー、フーッ(溜息)・・・自分の身ぃ一つ、満足に処することができないような男にですよ、いったいなんで、執事がつとまるんです? つとまるもんですかぁ! 氏頼が執事職に就任したひにやぁ、わが日本国は、滅亡の淵に直面する事になりましょうよ。

足利義詮は、とかく、他人の意見に流されやすい人であった。

足利義詮 うーん・・・なるほどねぇ・・・昔の人の言葉にもあるよね、「子を見ること、父にしかず」って。子供の事は、父親が一番よく分かってんだぁ。

斯波高経 ハイ、そうです、そうですとも!

足利義詮 氏頼には、執事職はムリなんだろうなぁ。

斯波高経 ハイ、そうです、ムリです!

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幕府・リーダーA じゃぁ、どうしますぅ? 誰にしますぅ?

足利義詮 氏頼の兄弟は、どうなんだい? 誰かいい人、いないのぉ?

幕府・リーダーB 斯波高経殿は、三男の義将殿を、非常に高く評価しておられるようですねぇ。

足利義詮 じゃ、それでいいじゃない。義将を執事に任命すれば、いいじゃないの。

幕府・リーダーA えーっ、まだ幼い子供ですよぉ!

足利義詮 形としては、[執事イコール義将]ってことに、しといてさぁ、で、父の高経に、実務を仕切らせときゃ、それでいいじゃない。

幕府・リーダーA はぁ・・・。

幕府・リーダーB (内心)ってことはだなぁ、名目上の幕府執事は義将でぇ、その執事の補佐役は父親の高経殿・・・つまり、高経殿は、幕府の事実上の執事となってだなぁ、名目上の執事である義将を補佐する執事となる、すなわち、執事の執事ってわけぇ? あぁ、ややこし!

これを聞いた氏頼は、父を恨んでか、はたまた世をはかなんでか、密かに出家して、どこへともなく、家から去ってしまった。

彼に従う郎従270人も、みんな同時に頭を剃り、思い思いに、斯波家から離れていった。

この氏頼の、父の願望を妨げる事もせずに、わが身の得度を願っての出家遁世(しゅっけとんせい)、まことに類希(たぐいまれ)なる立派な発心(ほっしん)といえよう。

最近の人々は、昨日髪を剃って出家し、まことに尊いように見えても、今日はもう、丸めた頭を隠し、仏道とは完く相容れないような、恥じ知らずな行為をする事が、非常に多い。

氏頼の出家もこれまた、先の先まで道心貫く事ができないのでは、と思えたのであったが、彼は、その志冷める事なく、仏道修行の道を、生終える時まで貫徹した。まことに立派な事である。

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