太平記 現代語訳 33-10 新田義興の最期
太平記 現代語訳 インデックス 17 へ
-----
この現代語訳は、原文に忠実なものではありません。様々な脚色等が施されています。
太平記に記述されている事は、史実であるのかどうか、よく分かりません。太平記に書かれていることを、綿密な検証を経ることなく、史実であると考えるのは、危険な行為であろうと思われます。
-----
足利尊氏(あしかがたかうじ)死去の後、九州地方は先に述べたように大混戦状態になってしまったが、関東地方においては静謐(せいひつ)が保たれていた。しかし、風雲の種が皆無の状態であったわけではない。
新田家(にったけ)・第2世代の3人のリーダー、すなわち、故・新田義貞(にったよしさだ)の子息・新田義興(よしおき)、その弟・新田義宗(よしむね)、故・脇屋義助(わきやよしすけ)の子息・脇屋義治(よしはる)は、ここ3、4年間、越後国(えちごこく:新潟県)内に城郭を構え、国の半ばを支配下に収めていた。
そこへ、武蔵(むさし:埼玉県+東京都+神奈川県の一部)、上野(こうづけ:群馬県)の一部の勢力から連名でもって、「二心無く、忠節を尽くしたし」との趣旨をしたためた起請文を添えて、以下のような手紙が送られてきた。
「お三方のうち、お一人だけ、関東へおこし下さいませ。大将に奉じたてまつり、義兵をあげたく存じます。」
新田義宗 ハァー(溜息)、まったくもって、近頃の人間、ほんと、心変わり激しいんだもんなぁ。
脇屋義治 ヤツラの言う事なんか、あてになるもんかよ。
義宗と義治は思慮深い性格であったから、相手にしなかった。
ところが、新田義興は、非常に性急なパーソナリティーを有していた上に、その心中には常に、「忠功においては、人よりも先に!」との思いがあった。
新田義興 なにぃ、「関東へ来て、大将になってくれ」だってぇ! 願ってもないチャンスだ、行くぞ、おれは! いざ関東へ!
深謀遠慮をめぐらす事も全くないままに、義興は、わずか郎従100余人だけを引き連れ、旅人の集団を装って、密かに武蔵国へ入った。
-----
義興のもとへは、多くの人々から、内通の意志が寄せられた。新田一族に昔から縁の深い者は言うまでもなく、かつて、父・義貞に対して忠功あった者、さらには、足利幕府・鎌倉府(あしかがばくふ・かまくらふ)のナンバー2・畠山国清(はたけやまくにきよ:注1)に対して恨みを含んでいる者。
-----
(訳者注1)当時の足利幕府・鎌倉府のナンバー1は、尊氏の息子・基氏。畠山国清は、その執事職にあった。
-----
彼らは、密かに義興に音信を通じ、しきりに媚びを入れては、彼からの軍勢催促に応ずる旨のメッセージを送ってきた。
このようにして、義興も今は身を寄せる所も多くなり、上野と武蔵両国の中に、彼の武威は、ようやくその萌芽の兆しを見せ始めた。
「天に耳無しといえども、天は、人間の耳を借りて、何もかも知ってしまう」という。
上野、武蔵の人々と新田義興は互いに隠密裏に事を進めているのではあるが、やはり、そこには限界というものがある。兄は弟に語り、子は親に知らせているうちに、彼らの動向はついに、鎌倉府の足利基氏(あしかがもとうじ)と畠山国清の知る所となった。
畠山国清 (内心)うわぁ、こりゃぁ、えれぇ事になっちまったぞぉ!
国清は心配でたまらない。食事の間も寝ている間も、新田義興の事が、頭から離れない。
義興の居場所をつきとめ、大軍を差し向けても、その情報はあっという間に伝わってしまい、彼の行くえはサッパリ分からなくなってしまう。また、500騎、300騎の軍勢を差し向けて、道中で待ち伏せしたり夜討ちをかけたりしても、義興はいささかも意に介さず、群がる軍勢を蹴散らしては道を通り、打ち破(わ)っては包囲を脱出。
畠山国清の部下A まったくもってぇ、新田義興ってぇのは、トンデモネェやろうですわ。
畠山国清の部下B 今ここにいるかと思えば、次の瞬間、もうあちらに。
畠山国清の部下C もしかしたら、ヤツって、エスパー(超能力者)?
畠山国清の部下D テレポーテーション(瞬間的遠隔移動)ってぇ、やつかい?
畠山国清の部下E こう出てくるかと思えば、あぁ出てくる。
畠山国清の部下F まさに、千変万化(せんぺんばんか)、とても、人間わざとは思えませんや。
畠山国清の部下C もしかして、ヤツって、宇宙人?
畠山国清 ヤイヤイ、なにバカな事言ってやがんでぃ、ザケンジャァねぇ!
畠山国清の部下一同 ・・・。
畠山国清 (内心)うーん・・・ったくもう、どうしようもねぇなぁ。手に余るヤロウだぜぃ。
-----
畠山国清 (内心)うーん・・・マイッタなぁ・・・でも、とにかく、なんとかしなきゃな・・・うーん・・・いってぇ、どうしたらいいんだ、どうしたらぁ! エェーン、何か名案は、ねぇのかよぉ、名案はぁ! うーん・・・。
国清は昼夜、新田義興・対策を考え続けた。そんなある日、
畠山国清 そうだ!(両手を打ちあわせる)
国清の両の掌 パチン!
畠山国清 アイツを使うんだよ、アイツを・・・うん、こりゃぁ、うまくいくかもしんねぇぞぉ。
ここから先は
¥ 100
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?