琉依

ことばあそび

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ショートショート【クリスマスの夜】

「いいよ〜華、目開けて!」 優しくて大きな手につられて歩いていた私はその一言でゆっくりと目を開けた。 すると見たこともないくらい大きなツリーと、視界いっぱいに広がるイルミネーションが飛び込んできた。 輝いているところ以外何も見えないくらいにそれは美しかった。 呆気にとられている私に低い声で彼が何か言っている。 どうやらこの景色を私に早く見せたかったようだ。 暖かい格好をしていたつもりだったが少しひんやりしてきた私の手を再びとった彼と、気づいたら見慣れたレストランでディ

    • ショートショート【中央通りの先の街】

      11時間の旅。 中央通りで止まると、さっきまでゴソゴソしていた目覚めたての人々が降りていく。 あまり調べなかったけど、多分ここが中心地。 目的地から離れていくバスに揺られる。なにをしに行くんだ、と降りていった人に言われそうな、そんな街がカーテンの隙間から見える。 少し先で、登校中の高校生が橋を渡る。 朝を取り込み、たった1人でバスを見送ると、先生たちの注意喚起の声が聞こえた。 おはようございます、注意の3割弱の声量でいちにちのはじまりの共有を求められたので、少しあげた口角と会

      • ショートショート【幕開け】

        なんだ、もう来たのか 約束時間より少しばかり早くないか? まぁ待ってはいたけど いやあ、なかなか素敵な出で立ちじゃない この日に備えて準備したのかい? 君も結構慎重派なんだね それなのに少し早めに着いてしまったのか え?あの人に急かされた? そうか、それなら仕方がないよな そんな不安そうな顔をするなよ 堂々と君の世界を見せてやればいいのさ 大丈夫、みんな君を受け入れるよ 嫌な顔する者もいるかもしれないけど 輝きすぎた君への嫉妬心だよ そして君を先頭にみんな輝くんだ よろしく頼

        • ショートショート【黒いパールの友人】

          「真珠の耳飾りの少女でしょぅ」 友人との会話で君が放った一言。 宙に浮いた20文字が口角を上げ、君への愛が溢れた。どちらも取りこぼさないように丁寧に集める。 完全に私のツボでしかない。君のこの魅力は他の誰にも伝わって欲しくない。 これを公にしたとしても私以外が価値を見い出せるとは思えない。ただ彼女を知る他の人にこの感情を友情の証だとひけらかさないのは、彼女が私だけに伝わる魅力を持っていることさえも彼女の私だけに伝わる魅力であるからで、それは純情な友愛の中に潜んだひねくれ独占

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        ショートショート【クリスマスの夜】

          ショートショート【想いを追う】

          駆ける足音の止まる先が自分の横では無いことを無意識に理解し振り返らなくなったのはいつからだろう。この景色からビルを引いても密集する家を間引きしても上を通る道路を落としても忙しく動く人々を吸い込んでもふるさとにはならない。いくつかの知った声を撒き、緑の香水をふっても、だ。君がいなければ、僕の心の安らぐ場所は… ただ、電車が過ぎたすぐ後のホームで、マフラーに顔を埋めてハッピーエンドを聴いていると、いつかの懐かしいあの場所に戻れた気がした。

          ショートショート【想いを追う】

          ショートショート【strange disguise】

          カーテンの隙間から朝日がこぼれている ただそれが爽やかなものではないのは分かっているし、シーツはもう冷めきっていた この部屋にひとり残された俺は昨晩のことを少し思い出す。 清楚でお淑やかな彼女とは昼間に出会って、カフェに入ったあとそのままここへ来たんだ。道中は彼女のことで頭がいっぱいで、と言うよりこの後のことで頭がいっぱいで、周りの街並みなんて目に入っていない。笑顔でなんでも話してくれて楽しかった。素敵な人だった。 彼女を思うと無意識に引っ込められていた腹が、もう会うこ

          ショートショート【strange disguise】

          ショートショート【シフト】

          ショートショート【シフト】

          ショートショート【検問】

          ブーーーーーーーーーーーーーーーー 低く不快な音が店内に響き渡った。 画面には赤い文字で「入店お断り」と表示されている。 最近の世の中は飲食店に入るにも雑貨屋に入るにも服屋さんに入るにも、どこもかしこもこの機械が設置されている。 きっと自信に溢れている人にとってはこんなものただのゲートに過ぎないのだろう。 彼女へのプレゼントのブランド財布を選びに来たんだ。誕生日までにとれる休みは今日が最後。 はぁ、やってしまった。 奥にはブランドバックを肩にかけ、サングラスを襟

          ショートショート【検問】

          ショートショート【片我 ーカタワレー】

          僕には双子の兄がいる。 父と母と兄の4人で暮らしている。 僕は高校1年生。 兄はスポーツができて中学校の頃はサッカー部のキャプテンをしていた。それに加えて僕より勉強が得意だが愛されるような天然さも持つ。 いつも学校の中心にいるような存在で、みんなの人気者なのは見ていて分かる。おそらく女の子からもモテモテだ。 僕はそんな兄と同じ高校に通っている。 そう、いやでも血の繋がりがあることはバレるのだ。 しかし僕はそれをいやだと思ったことは1度もない。 むしろ逆で、こんな兄

          ショートショート【片我 ーカタワレー】

          ショートショート【次の碧まで】

          彼と私が別れる交差点 街灯の淡く儚い光で彼の横顔が少し見える またすぐ会えると分かっていてもいつもここで離れるのを惜しんでしまう 歩行者信号が青を示したのを見て私は「次まで」と話を続ける 私が今日見た夢を彼は「変なの〜」と笑った また青になった もう少しだけ一緒にいたいと思った 繋いでいる手をぎゅっと握り直した 「次で最後ね」 そう言われるのを分かっていたかのように彼は優しく「はいはい」と言った 手を繋いだまま、「明日は何をしようか」「久しぶりにオムライスを作って

          ショートショート【次の碧まで】

          ショートショート【暑く、冷たく、熱い】

          大学2年、新学期の初日に教育社会学の講義で、小学校の保健室の先生はどのような理由でどのような怪我をした子がいたのかをまとめて報告しなければいけないことを知りました。 大変そうだなぁと幼稚な感想を抱いた時 ひとつの思い出が蘇りました。 保健室の前で打ち合わせをした私たちはおでこをおさえながら涼しい保健室に入りました。 眉を八の字にした先生があの子の話を聞く間、回る椅子に座り、潰れた2Bの鉛筆を持った私は、上から並ぶ読めない字に続けて 「ろうかでぶつかった」 と書きました。

          ショートショート【暑く、冷たく、熱い】

          ショートショート【乗り換え案内】

          この電車の座席はとにかく座り心地が悪い。 立てばいい話なんだけどこんなにも不安定で危なっかしい車内で、脆く今にもとれそうな吊革を掴むわけにもいかない。 仕事終わって疲れてるのにほんっとに最悪、、 なんでこんな電車に乗ったかって? ホームで待ってたら、これ以上ないくらい綺麗でキラキラしてる車両がきたんだもん。私だって女の子だよ?そりゃ乗っちゃうよ。電車の中なんて見ずに扉が開いた瞬間、誰よりも早く駆け込んだの。行先だって見てないし時間にだって追われてたから。 乗り込んだすぐは

          ショートショート【乗り換え案内】

          ショートショート【純】

          この街は輝きすぎている。 いつしかそんなことも思わなくなっていた。 中学生の時に親の転勤で東京に引っ越した俺は、今年から仕事に就きすっかり東京の男になっている。 ここを初めて歩いた時は、ビルの高さに驚き街の明るさに感動した。 大学時代の友人と待ち合わせをしていると、見覚えのある女性が上を向いてボーッと景色を眺めていた。 彼女は同じ会社に務めるいわゆる同期だ。新入社員説明会で偶然隣になり少し仲良くなった。 たしか今年大分県から上京してきたと笑顔で話していたので、きっとこの大

          ショートショート【純】

          ショートショート【該当者】

          ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ □身長180cm以上 □運動が得意 □ガタイが良い □健康的 □生田斗真似 □清潔感がある □わがままを聞いてくれる □サラサラヘアー □浮気をしない □笑顔が素敵 □育児に積極的 □怒りっぽくない □年収1000万超 □ギャンブルをしない □男らしい性格 □頼りになる □視力が良い □家事ができる □体臭がきつくない □酒に溺れない □旅行好き □手指が長い □動物に優しい □食事の取り方が綺麗 □特技はバイオリン □鼻

          ショートショート【該当者】

          ショートショート【ひっかき絵】

          21歳大学生。理系。長男。趣味はない。 特に変わらない毎日。 学校も特別楽しい訳ではないし、かといって別に退屈すぎる訳でもない。 大学生らしいことをして大人な青春を過ごしている人達に憧れもない。学祭準備?何が楽しいんだ、彼らの人生なんてろくなものではないとさえ思う。 大学生らしいと言えばアルバイトをしていることくらいだ。 半年ほど前から近くのスーパーでレジ打ちをしている。やりがいを感じているから続けているのではない。 時間も潰れるしお金も貰えるし家から近いし… 辞める理由がな

          ショートショート【ひっかき絵】

          ショートショート【トランプ】

          よく、人間関係は築くのに時間がかかる割にあっという間に崩れる と言われる。 そして人間関係をトランプタワーに見立てて最もらしく説明しているのを耳にしたことがある。 2枚で山型に立てたトランプをいくつか横に並べ、凹みを埋めるように地面と平行にトランプを置く。それをピラミッド型にどんどん高く積み上げるトランプタワー。 薄いトランプをバランスよく積み上げるのは至難の業だ。それをいくつも重ねるなんて、、そのくせ崩れる時はあっという間に全てのトランプが目の前から消える。 そういうも

          ショートショート【トランプ】