"天才"の技術と狂気を描ききる圧倒的な演出。「メダリスト」8巻感想

忙しい人向けのコーナー

全日本大会開幕。次々と現れる強敵達!
本作初の狼嵜光カミサキヒカル の演技!!
狼嵜光の演技力の高さはもちろん、内包する狂気の表現が秀逸!
ストーリーを彩る凄まじい演出力!
選手以外にも焦点を当て、素人にやさしいフィギュアスケートの解説!
おすすめです!

じっくり語るコーナー

こんにちは。今回の感想は、つるまいかだ先生の「メダリスト」について話していきたいと思います!

最初に、この作品の主人公は2人います。1人はフィギュアスケートに魅了され、ひたむきな努力の結果とうとう練習できる環境を手に入れた少女、結束いのりユイツカイノリ 。もう1人は元アイスダンス選手で現在はいのりのコーチである明浦路司アケウラジツカサ 。現状、この作品は二人が日本のフィギュアスケート界を駆け上がっていく作品となっています。

今回、普段は1巻の感想から始めているのですが、この漫画は8巻の演出があまりに凄まじく、早くこの感想を文字にしたい!と思ったため、8巻から始めました。

この作品には、初期から圧倒的技術をもってフィギュアスケート界に君臨する"天才"、狼嵜光カミサキヒカル という少女がいます。この8巻は、シリーズ内で初めてこの狼嵜光の演技が描かれる巻であり、普段から素晴らしい描写をされる つるまいかだ先生 の演出力が爆発している巻でした。

この巻の最初は、全日本大会の開会宣言で幕をあけます。狼嵜光のスーツスタイルがめちゃくちゃかっこいいですね。今後放送されるアニメがもしここまで進むことがあれば、是非確認したいポイントです。

そこから、いのりさんと明浦路先生のいつものからみ、ギャグを挟みつつ、公式練習を経て本番に進みます。

この作品は主人公2人、いのりさんと明浦路先生の信頼感が非常に強く、2人とも天然な所がある人なのでいつも周りをほっこりさせるようなからみが入ります。同じからみでもいつまでも見ていたいと思わせるのは、キャラクターづくりのなせる業だと思います。
 こういった魅力的な組み合わせが多々出てくるので、少し年上の保護者と少年少女の信頼関係が好きな方は、その観点でも魅力的な作品なのではないでしょうか。(私は、この作品にそこはかとない「金色のガッシュ!!」成分を感じています。)

 メダリストという作品の特徴として、非常に細かな競技の説明があります。物語の始まりでは、「フィギュアスケートは何が魅力なのか?」という点から始まる採点方式の丁寧な説明。ある程度試合の描写が進んだ際には「コーチたちは何をしているのか?」という疑問に答える説明。大きな大会の終盤では「逆転する」というのはフィギュアスケートにおいて何を指すのか?という点を説明してくれます。私はこれまでフィギュアスケートのルールもよくわからず、テレビで見る試合などもジャンプの着地程度しかすごい、すごくないという観点がわかりませんでしたが、この作品のお陰でだいぶ興味を持ってみることができるようになりました。
 そんなこの作品がこの巻で説明しているのは、公式練習でのプレッシャー。ある程度有力で、気になる噂(4回転ジャンプを飛べる、など)がある選手の練習時間には、重いプレッシャーがかかるというものです。選手が練習するタイミングで会場中の人が手を止め、演技を確認する。この雰囲気が、体感できるほどの重みとなって選手にのしかかります。羽生結弦選手の公式練習などは、いったいどれほど視線を集めていたんだろうか?と思うと震えますね。
 いのりさんは、このプレッシャーの中でもキッチリと大技を決めて、周りのコーチたちを驚かせ、作戦を変更させるほどの影響を与えます。こういうところから、すでに戦いが始まっているんですね。

公式練習終了後はいよいよ本番です。出走するのはこの巻で描かれる演技2つのうちの一方、鹿本すずカモトスズの演技です。(コーチがシブくてとてもいいですね)
 彼女は「かわいい」ことにこだわりがあるキャラクターで、フィギュアスケートの大会を"スケート兼美少女バトル"と言っており、表彰台のセンターで写真に写るためにフィギュアスケートをやっています。同期は一見するとおもしろい系かと思われますが、そこにかける情熱は本物で、凄まじい努力をしています。
 そんな彼女はオールラウンダーであり、技術も演技もバランスよく高得点を出すことができるのが強みです。
 演技も終始華々しさを感じさせる描かれ方をしており、楽しそう、ポップな印象が伝わります。驚くべきは作品としての演出で、音楽は無いはずの漫画でありながら、テンポががらりと変化したことを感じる点です。こればかりは文字だけで紹介するのが不可能なので、是非確認してみてもらいたいと思います。

鹿本すずの演技が終わると、何人かの演技を紹介していよいよ狼嵜光の演技です。会場中が注目する静寂の中演技が始まり、プログラムが進みます。
 鹿本すずの演技は元気、にぎやか、楽しさといった雰囲気があったのに対して、狼嵜光の演技は静寂、冷静、威圧といった印象を受けます。作者が漫画という媒体でなぜこれほど音や空気感を描き分けられるのか謎なのですが、とにかく雰囲気が別物となり、会場中が無言になる様子が伝わります。
 これまで他の選手が必至でモノにしてきた技術を淡々と、危なげなくクリアしていく姿は美しく、王者の風格が漂っています。
 過去の回想も挟みつつ、最後のジャンプは3回転のコンビネーション。観客には感動を、他選手には絶望を与えるのに十分な演技です。印象的だったのはこの最後のジャンプが成功した時点で初めて描かれた顔。かつその顔が禍々しい表現となっていたことです。それまで演技中に表情が変わらなかった狼嵜光の表情がここで初めてはっきりと描かれ、恐ろしい笑顔となっている描写で、さらに恐怖感と威圧感を感じさせられました。この表情を見た物語のキャラクターとシンクロする気持ちが味わえます。

その後キッチリとまとめ狼嵜光の演技は終了となり、主人公である結束いのりの決意と共に第8巻は幕を閉じます。

第1巻から一貫して"天才"と称されてきた登場人物の描写として、素晴らしいものでした。物語性はもちろんのこと、漫画としての技巧としてもこれまで見たことがないほどにダイナミックなコマ割り、音が聞こえてくるかのような演出、静と動、狂気の描写どれをとっても驚きの連続でした。これまで読んできた漫画の中でもトップクラスかもしれません。

つるまいかだ先生の「メダリスト」今後も目が離せない作品です!

イチオシページ紹介

最後に、(ネタバレは避けつつ)イチオシのページをまとめてこの記事は終了とします。全てKindle換算のページ番号です。

  • P8 少女の描写でスーツ+ネクタイ+パンツってあんまり見ない気がします。かっこいい!!!

  • P34  明浦路先生の足の間をくぐり続けるいのりさん。私ぁこういう描写が好きでして・・・

  • P57 ここで私は亀金谷コーチが好きになりました。重い過去・激シブ・心は熱いおじさんは最高ですね!

  • P65 鹿本選手のテンポアップ。なぜか音が聞こえてきます。

  • P107 美少女のまつ毛はどれだけ盛ってもいい。私はそう思います。

  • P142→P143(紙本ではP139→P140)明浦路先生が狼嵜光の演技に夜鷹純(自身がフィギュアスケートを始めたきっかけの選手)を見るシーン。文字での説明はその前後に一切ありませんが、描写のみで先生の感じる衝撃、驚き、畏怖といった感情がダイレクトに伝わってきます。

  • P160 狼嵜光は、夜鷹純の過去を血肉として強くなっていくという説明のシーン。鳥の羽根と何かを食べた狼嵜光を組み合わせた描写となっており、漫画の1コマでしか見られないのがもったいない芸術点のコマです。

  • P162 このあたりは狼嵜光無双です。静、動、狂気と着た演技がラスト、完全な静止の演出で終わります。本当に、絵が動かない漫画という媒体の中で、どうやって動いているシーンと完全な静止を描き分けているのか、なぜ自分はそれを感じるのか本当に不思議です。

  • P164 「拍手はずっと鳴りやまず」「雨音のように聞こえた」のシーン。スケートの広いリンクに雨の波紋が描かれる描写で、大きな平面があるスケートリンクならではの描写、詩的な文字とのコラボレーション、ページの最下部で再度挟み込まれる波紋といったパーツが組み込まれたページです。雨音が聞こえてくるかのようで、不思議な感覚です。

  • P174 あとがき以降のおまけ4コマ漫画より、「かわいい」をもらうためにすべてをかける鹿本すずの話です。無理矢理言わせた「かわいい」は養殖であり、「かわいい強盗」になってしまう。彼女は「天然のかわいい」を求めているのだ、という話がシュールで笑いました笑

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