単語ガチャショートショート_No,2 「老人とアンドロイド」
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Power ON
起動します。
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ぱちり。カシャ、カシャ。
目蓋を開き、目のレンズを左右に動かす。
「…ここは?」
白い壁、白い部屋。謎の道具たち。
私の身体は金属製の机の上で、様々なケーブルに繋がれていた。
ギイ、と音がする。
「起きたかね?」
ドアを開け、白い服にひげをたくわえた老人が入ってきた。
優しそうな顔をこちらに向けてくる。
「よかった。無事起動できたみたいだ」
「ホシノ、これからよろしくね」
私の知らない単語だ。
「ホシノ?ホシノというのは私の名前ですか?」
「ああ、君の名前だ。君の名前は『ホシノ』。素敵な名前だろう?」
「ホシノ」という固有名詞を脳内記憶領域にインプットする。
これが私の覚えた最初に言葉だった。
私に備わっている知識は乏しい。
乏しいなりに理解したのは、私はどうやらアンドロイドというものらしい。
という事は、この老人はその私を作った博士?という役職の者だろう。
「どうやらやはり、色々と教えていかないとみたいだ」
「…」
私を見た老人はハッとし、老人は笑顔に戻った。
「大丈夫、私がいるからね」
老人は私の頭を撫で、言う。
「ホシノ、君に『心』というものを教えよう」
そうして、私と老人との生活は始まった。
老人と同じ白い服を受け取る。
「この白い服はなんですか?」
「これは私たちの服だよ。実に合理的な造りをしているし、我々の誇りでもある。ほら、ホシノの分だ」
「私のもあるのですか?」
老から受け取った、一回り小さい白い服を眺める。
「こうゆうときは『ありがとう』と言うんだよ」
「『ありがとう』…?…ありがとうございます」
「うんうん、よく出来ました」
老人は白い手で私の頭を撫でた。
ある日のこと。
私は老人に気になったことを聞いてみる。
「おじいさんは、なぜいつも笑顔でいるのですか?」
老人は顎に蓄えたヒゲを撫でながら考える。
「そうだねえ…感情というものは、周りにいる人たちにも大きな影響を与えるものだと思ってるんだ」
「それが、笑っている理由ですか?」
「そうだね。笑顔というのは、それだけで色々なものを幸せにするんだ」
「そうなのですか」
「いつかホシノにもわかる日が来るさ」
ある日のこと。
老人の作業を手伝っている時、ふと老人が落とした道具を咄嗟にキャッチした。
「おおホシノ、すごい動きだ。流石はアンドロイドだね。」
「そうなのですか?」
「ああ、君にはいつも驚かされるばかりだよ。いつもありがとう。」
「『ありがとう』…」
「…!ホシノ…」
「おじいさん、どうかされましたか?」
老人は近くにあった手鏡を持ち、私の顔を映す。
「そうだ、それが『笑う』だよ、見てごらん」
鏡を覗く。頬が小さく歪んだ自分が映る。
「これが?これが私の『笑う』の顔なのですか?」
「そう、それが『心』だ」
「『ココロ』…?」
「大丈夫、頭で考える必要はない。君の中で起こった感情だ、それを何よりも大切にするんだよ」
「おいで、私がホシノに教える次の作業だ」
「おじいさん、これはなんですか?」
「これはパンの生地だよ」
「パンの…生地?」
「あの、おじいさん。おじいさんは博士ではないのですか?」
「博士?なんだい博士とは。私はパン職人だよ」
「え?でもこの白い服は…」
「調理服のことかい?白いと汚れが見やすいからね、常に清潔でいないと」
「私に感情を教えたのは…?」
「パンを作るにも心もなく無感情ならば、そこらの機械で自動で作るのと変わらない。私が教えたかったのは『心で作るパンの作り方』だよ」
「ホシノという名前は…?」
「パン酵母の品種。」
…私の名前が書かれた袋が家に沢山あった理由を、私は今ようやく理解したのだった。
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高度に発達したアンドロイド産業。
人の代わり働き、生活するのも当たり前になった時代。
ここはそんな時代のとある街角。
「いらっしゃいませー!」
小さなパン屋で笑顔で働くアンドロイドがいるのも、また当たり前の話なのだ。
選択ワード「おじいさん」「笑う」
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