IP映像伝送のニューカマー「Live Multi Studio」~SRTとの比較~
こんにちは!RUNE.です。
離れた場所に映像を送信するための映像伝送プロトコル
身近なところだとYouTube配信で使用されているRTMPや、監視カメラに使用されるRTSPなど色々あります。
これらの伝送プロトコルは実際の現場でも使用されていて、僕の携わる現場でも海外のゲーム映像やリモート出演の方のカメラ映像を伝送するのに使用されます。
最近だと比較的低遅延でパケットロス時の再送機能を持ちながらセキュアな通信が可能なSRT(Secure Reliable Transport)が使用されることもあります。
さて、今回の記事では3月頭に一般向けに無償提供が開始されたLive Multi Studio(以下LMS)を少し触ってみたので、所感と現時点でのSRTとの比較を個人的な観点で書き起こしておこうと思います。
Live Multi Studioとは
既に各所に記事は上がっているので改めて詳しく書くことはしませんが、LMSを要約すると
・TBSとWOWOの共同開発したプロトコル、ソフトウェア
・低遅延、パケロス時再送機能、セキュアな通信方式
・送信ビットレート、受信時のレイテンシー(バッファー)の調整が可能
・インターネットを介した通信にも関わらずポート開放等の設定が不要
・マルチキャストな通信方式
・現在一般向けに無償提供中
とこんな感じです。
ちなみに上記を踏まえるとSRTは
・Haivision社が開発したオープンソースなプロトコル
・低遅延、パケロス時再送機能、セキュアな通信
・細かなエンコードの設定と送受信の両側で設定する遅延設定
・必要に応じてポート開放等ネットワークの設定が必要
・基本1対1の通信
といった特徴が挙げられます。
パッと並べただけですが、
”低遅延、パケロス時再送機能、セキュアな通信”
という仕組みが似ていつつも数点の違いが見受けられます。
現時点でLMSを利用する方法
SRTは現在様々なソフトウェアやハードウェアが対応しており、最近のハードウェアエンコーダーでははほぼ基本機能レベルで付随しています。更にはカメラそのものにまでSRTによる送出機能を持つ製品が数多く製品化されています。
一方で現在LMSを利用するには
・MacOS アプリ
・iOS アプリ
・TouchDesigner プラグイン
の3種類の方法のみが提供されており、
WindowsOSでLMSを利用するにはTouchDesignerプラグインでの利用のみとなります。
LMSお試し
ということで今回はWindows環境でTouchDesignerを使用してLMSで映像の送受信を試してみます。
2つのインターネット回線にそれぞれWindowsPC(PC1、PC2とします)を用意し、TouchDesignerを立ち上げてLMSの送受信を行って画質や遅延の様子をザックリと見てみます。
なお今回はTouchDesigner のライセンスの関係で720p60でのお試しとなります。
登録&ログイン
LMSはユーザーごとに発行されるIDを基に各通信を行います。
サイトからユーザー登録をして、無事ログインが成功するとマイページでIDが発行されていることが確認できます。
このIDを送信側、受信側で入力することにより、LMSの各機能を使用できるようになります。
TouchDesignerプラグインを使用したLMSでの映像の送受信
いよいよ映像の送受信を行なっていきます。
なお、この記事ではTouchDesignerの詳しい操作方法は説明しません。
LMSプラグインをTouchDesignerにインストールするには公式サイトからファイルをダウンロードし、指定のフォルダに配置するだけです。
インストールが完了しTouchDesigneを起動すると「OP Create Dialog」ウィンドウの「Custom」タブ内にオペレーターが追加されています。
PC1からの映像の送出
まずはPC1にてTouchDesignerを立ち上げ程々にエンコード負荷がかかりそうな映像の上に60fpsのカウンターを乗せたものを用意します。
次に「LMS Video Out」のオペレーターを作成して用意した映像を入力し、先ほどマイページで取得したIDをパラメーターに入力します。そしてChannelを1に設定すればPC1からの送出の準備は完了です。
(Bitrateはとりあえず6mbpsのままで進めていきます。)
ここまでで問題がなければ「Pulse」をクリックしてLMSによる映像の送出を開始します。
PC2での映像の受信
次は別回線のPC2で今PC1から送出した映像を受信します。
同様にLMSプラグインがインストールされたTouchDesignerを立ち上げ、受信側では「LMS Video In」のオペレーターを作成します。送信側と同じようにIDを入力し、Channelを1に設定したら準備は完了です。
問題なければ「Pulse」をクリックしてしばらく待てば、先ほどPC1から送出していた映像がオペレーター上に表示されるはずです。
PC2Delayの設定は30msにしてみましたが、低遅延もほぼカクツキや映像の乱れは無く良好な印象でした。
PC2からPC1へ映像の再送出
さらに今回は実験としてPC2で受信した映像を別チャンネルでPC1に送り返し画質や実際の遅延の様子をみてみます。
戻す映像がわかりやすいようにPC2で受信した映像に「return」の文字を合成して「LMS Video Out」のChannelを2に設定して映像の送出を開始します。
PC1では「LMS Video In」を作成し、Channelを2に設定して30msの遅延で受信設定を行います。
結果
ということでPC1→PC2→PC1とTouchDesignerプラグインでのLMSによる映像の送受信を行なった際のスクリーンショットがこちらです。
画像真ん中上がPC1から送出している映像、下がPC2で受信したものに「return」の文字を合成して送り返した映像です。
送出した映像と送り返した映像とでは60fpsのカウンターの値が6違うのでPC1→PC2→PC1の2回の伝送で100msの遅延結果となりました。
受信時の遅延設定は全て30msにしていたので設定上は60msの遅延となりますが、今回はTouchDesignerプラグインでの利用だったのと、送り返す映像に文字の合成処理を行ったので概ね納得のいく結果です。
ということで今回はWindowsで多少TouchDesignerの操作が必要でしたが、比較的簡単に映像の送受信を行うことができました。
また、50msというかなりの低遅延設定での実験でしたがほぼ映像の乱れも無く良好な印象でした。
そもそも安定した映像の送受信が低遅延で行える手段が増えたことがハッピーですね。Commercial買おうかな…
152円ェ…
現時点でのSRTとの比較
ということでかなり雑にでしたがLMSを触ってみて
SRTとの個人的な主観に基づいた比較をしてみます。
ポート開放の要不要
SRTは送受信両方に適切なURLを入力して必要に応じて必要があればルーター側でポートフォワーディングの設定をしたりデバイスのネットワーク設定をしたり…と煩わしさはあります。ぶっちゃけそのくらい勉強すればよくないか???
まぁ大きな会社だとそれぞれ部門が違うから難しいですよね。うんうん
その点LMSではIDを入力してチャンネルを選択するだけで送受信可能と非常に簡単です。
しかし、LMSはインターネット接続が必要です。
IDの認証等に定期的に通信しているみたいなのでインターネット接続が切れると送受信が不可能になります。
その点SRTはローカルネットワークでも問題なく通信が可能です。
マルチキャスト伝送への対応
個人的に結構感動した部分です。
SRTは間にゲートウェイやリレーサーバー等を挟まない限りは基本1対1の通信となります。
一方LMSは標準で1対nのマルチキャストな伝送が可能となっています。
サイトにある使用例だと、「0レイテンシーでリモートカメラの制御を行って、レイテンシーを設けた安定した映像をオンエアに使用する」という結構実用性のある使用例を挙げてくれています。
さらにマルチキャストな伝送なので、受信側を増やしても送出側の負荷としては送出ソース数の負荷のみとなるのは大変嬉しいですね。
対応デバイス
LMSは現時点で一般向けに無償提供されているのはmacOSアプリ、iOSアプリとTouchDesignerのプラグインとかなり限定的な提供です。(お試し期間だからなのかな?)
SRTは冒頭でも述べましたがオープンソースなこともあって様々なハードウェアやソフトウェアが既に対応しています。
個人的な予想では今後恐らくLMSを使用できるハードウェアの登場は無い or 専用ハードウェアの販売になるのかなと思っています。
価格
最後になりますがそれぞれの価格です。
・LMS:不明
・SRT:オープンソースなこともあり無料で使用可能
LMSは現在全機能を一般向けに無償開放中ということですが夏ごろに機能制限を設ける予定みたいです。
プランとしては「FREE」、「COMMERCIAL」、「PRO」の3段階となっています。
解像度の項目があるので恐らく一般的に使用する1080pを使用するのにCOMMERCIAL以上が必要となってくるんじゃないかと勝手に予想してますが、一体いくらからの提供になるのか非常に楽しみですね!!!
おわりに
今回の記事は以上となります。
かなりザックリとした実験と比較ですがいかがでしたか?
やはりソフトやハード等、新しい技術に触るのは楽しいですね。
恐らく同様の映像伝送ではSRTやRTMPやWebRTCがまだまだ使用されることが多いとは思いますが、有用な選択肢が広がるのは良いことです。
LMSの今後の動向に期待です!!
それでは今回はこのあたりで。ばいばーい👋