#04 足跡

画像1 3年前。半分やけくそで決めた家。 家を出る時はいつも動機が同じ。「プライベートの確保」。実家を出たときから断続する衝動。ここじゃない、と思う時、ここでも無かった、とも思う。その時はとても悲しい。あなたの部屋、としてあてがわれたものはともかく、自分の家として安心できる場所が中々定まらない。いつまでも見つからないのか、という絶望は段々と軽くなってゆくが、悲しい気持ちは何倍もの勢いで底が無くなっていく。
画像2 シンクと隣接した二口IHなんかじゃ、まともな料理なんてできない。そう決めつけていたけど、色々調べてやってみたらそうでもなかった。キッチンがそれらしく機能するよう工夫した空間と、安く揃えた調度品。改めて遠目で眺めた時、やってやったぞ、という達成感が湧く。この愛すべき自作のミニ・システムキッチンは、次に引越した先では構築しなくて済む方がいい。実家でまともに料理を経験することがなかった私にとって、料理をちゃんと始めた場所として思い出深い空間ではあるが。
画像3 壁に色々と貼り付けるようになったのはここ2年のこと。プライベートの時間を尊重できない人間に、更に自分の中身をさらけ出し差し出すほど無防備な人間ではない。友だちの展示や舞台に行った時の記念のポストカードや、美術館でよかった展覧会のチラシや、好きなバンドのライブのチケットや自分のスケッチ、ツイッターで見かけて気に入ったネットプリント、シューティングバーの得点表など。恋人と映画を観に行ったら、これ壁に貼れるやん、とポスターをとってくれていた事があった。1人で観に行ってよかった映画のものもある。随分増えた。
画像4 部屋の床や簡易なソファの上に、大抵楽器が文字通り「落ちて」いる。すっかり毛の縮れたぬいぐるみたちと一緒に。あるいは、口を開けっ放しの肩掛け鞄と一緒に。あるいは、久しぶりに立ち寄った大きな書店で、衝動的に買ってしまった積読本たちと一緒に。あるいは、薬用の小さなケースと一緒に。あるいは、恋人のゲームコントローラーと一緒に。あるいは、好きなアーティストの新しいアルバムを包んでいた透明のフィルムと一緒に。あるいは、家中の埃や髪の毛を巻き取ったコロコロと一緒に。あるいは 私にとって楽器はそういうものであり、である

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