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まほ僕 第18話 「合同合宿④」
〇〇達に異変あった頃、その異常さに山下たちも気がつき、動き始めていた。
山下:変だよね
久保:だね、〇〇くん達以外の魔力が感じられる
監査室から2人はフィールドを見下ろす形で話し合う。
現在、同時に試験が行われている。
別室には、梅澤と与田が自分たちのグループの試合を観戦していた。
そちらの試合には特に異変は無く、〇〇らを助けるのに動ける生徒は山下と久保のみであった。
山下:ま、大丈夫でしょ
久保:油断してたら負けちゃうよ?
山下:油断はしてないよ〜、それに先生達にも連絡したんでしょ?
久保:うん、でも時間はかかるって、何でも状況が状況だからね
体育祭の時のこともあって、学校側は慎重なのだろう。
山下:ん?
最初から違和感はあった。
試験とはいえ、ここまで大規模の施設を使うなんて今まででは有り得なかった。
いくら、式師を育てたいからとはいえ、何かあっては学校の責任問題になるだろう。
それでも、ここまでの試験を行ったのには何か特別な理由があったからだろう。
じゃあ、それは何か。
「やぁ」
その声と共にその答えは導き出された。
久保:え、なんで…?
史緒里が驚くのも無理はない。
この男は、元太陽と月の隊長であり、3年前に殉死したはずだからだ。
山下:お久しぶりです、蒼草さん
蒼草:久しぶりだね、美月ちゃん
塩顔で顔立ちの整ったその姿。
まるで、3年前の事件がなかったようにさえ思えてしまう。
蒼草:なんでって顔してるね、2人とも
山下:そりゃそうですよ
淡々と話を進めるその男に不安感を抱きながらも、どうしようない私たちは話を聞く。
蒼草:色々あってね、今は君たちの敵…って事になるのかな
「敵」その言葉から分かるのは、少なくともこの事態はこの男が起こしたものだということ。
山下:そうですか、じゃあここであなたを倒します
久保:サッと倒して、〇〇くん達のところに行かないとね
蒼草:ふむ、君たちが本当に心配するのは〇〇くん達ではないんじゃないかな?
山下:は?
蒼草:「彼女」もまた、君たちの大切な仲間だろ?
そう言って空間が歪み、1人の女の子が姿を現した。
その姿に私たちは絶句した。
なぜなら、彼女は、
久保:……蓮…加…?
大切な友達、仲間だからだ。
蒼草:彼女の役割は終わったからね、もう1人はまだ必要だけど
山下:ゴミが…!!
あまりの苛立たさに式での攻撃態勢に入る。
蒼草:おっと、私は闘うつもりはないよ
久保:逃がさないから
蒼草:だろうね、ここはコレに頼もうかな
そう言って、男は小さな空間の歪みを創り出し、そこから禍々しい怪物が出てきた。
蒼草:あとは任せたよ、憤怒の権化
憤怒:あぁ、イライラする…女子2人の悲鳴だけではこの怒り…収まらないぞ
権化…そういえば先生が言ってたな…、まさかこの男が創り出してたとはね。
久保:やま…あれって
山下:うん、先生の言ってた通りだと憤怒はそんなに強くないはず
蒼草:傲慢はあのバケモノにやれちゃったからね、残り4体しかいないんだ
そのうちの1体か…、強さは壊滅級の上位ぐらいかな。
山下:私たち2人に権化1体は舐めすぎでしょ
蒼草:うーん、それもそうか
久保:あなたもここで倒します
蒼草:それはやだな〜、じゃあもう1体出しとこうかな
そう言って、もう1体権化が姿を現した。
色欲:あら、可愛らしい子達〜!私女の子もいけるのよね〜
山下:色欲の権化ね
蒼草:じゃ、私は用事があるのでね、ここら辺でお暇させてもらうよ
空間の一部が黒で染まり、その中に入っていく。
山下:逃げれると思ってんの?
ワープされるよりも先に攻撃を仕掛ける。
しかしー
蒼草:残念だったね
憤怒:わしと先に闘え!
その攻撃を受けたのは憤怒の権化だった。
山下:チッ、逃げるな!
蒼草:私の事ばかり気にしてていいのかい?お友達の方は大変そうだけど?
久保の方を振り向くと倒れ込んでいた。
久保:ごめんっ…意識が…
山下:分が悪すぎ…!
蒼草:じゃあね、また会おう
そう言い残して、男は暗闇の中に消えていった。
山下:ふぅ…仕方ない、権化だけでも倒しとかないとね
ーあやめサイドー
私は考えていた。
このフィールドの魔力の変化が激しくなった理由は何か。
まさか、侵入者?
体育祭の時のことも考えるとその可能性は高い。
それでも、試験は中断されない。
という事は…
「あやめんっ!」
木々の中から高い声で呼びかけてくる。
その声の正体は、レイちゃんだ。
だが、何故か様子がおかしい。
やはり何かあったんじゃないか、そう思ってしまう。
あやめ:どうしたの?
清宮:はぁはぁ…襲撃だよ…体育祭の時のヤツら!
考えは的中していた。
清宮はその身体能力で森の中を飛び回って、ある程度戦況を把握していた。
あやめ:レイ、早くみんなの元に行こう
清宮:うん!
私たちに出来ることはみんなの戦いに加算すること。恐らく学校側も動いているはず。
人数が多ければ、必然的に戦いは長引き、時間を稼ぐことが出来る。
私たちが動き始めた瞬間。
それは正確に言えば、「私」だけが動き始めた瞬間。
隣にいるレイの体を貫く鋭利なソレ。
ポツリと1滴血が落ちる。
すると、プツンと張り詰めた糸が切れるように、レイの体から血が噴き出した。
そのままレイは倒れ込んだ。
レイの後ろに立っていたその男は、とても禍々しく、とても人とは思えない風貌をしていた。
それと同時に私は死を悟った。
「お前…式師?」
次回 「希望と絶望と見えない明日」