【#ジャンププラス原作大賞】 全寮制竹取学園園芸部 Chapter1−3 竹取魔法とタマゴ
「まずは自分と対話するためのスキルを習得するように」と『メデューサ』は煌たちへ告げた。そしてそのまま瞳を閉じて反応しなくなってしまった。『メデューサ』が瞳を閉じると再び三人の前に紙の蝶(MB)が現れた。蝶の導きで丸い扉から外に出た三人は、そこが元来た廊下(学園のサーバールーム奥に置いてある掃除用具入れにつながっていたはず)ではないことに気がついた。扉の外へ一歩踏み出したら、本当の意味で屋外、竹藪の真ん中だった。草の匂いがする。
「こりゃ、校舎の裏山の竹林だな」
生徒会長の凛が言った。
「行きは良い良い、帰りは怖い…ってか?」
陽翔は帰りのことは全く頓着していない様子だった。ニコニコしながら言った。
「『メデューサ』ってすごい綺麗な人だったねっ」
呆れて凛は陽翔を見た。
「ありゃ、人じゃないだろう。首から上しかないし、頭は蛇だったぞ。」
構わず陽翔は続けた。
「キラキラひかる光の蛇。すごく綺麗だった。煌にくっついてたら、普通だったら入れない場所に入れて、なんだか得した気分💓」
語尾にハートがついている。
「で、こうして、突然普通だったら出てこない場所に、出たけどな」
三人は、学園へ戻る道を歩きながら、今の『メデューサ』との会話について話す事に夢中になっていた。
「センパイ、異界ネットワークサーバーってなんですか?」
煌が聞いた。
「あぁ、俺も今日この眼で見るまではこの学園の都市伝説みたいなものだと思っていたよ。竹取学園には、異界と通じるネットワークがあって世界中の情報を処理しているためにどんなことでも調べることができるという噂だった。それこそお宝のありかも、誰かの秘密も、なんでもだ。」
「それがあんな美人だったんですねぇ」
陽翔が言った。
「お前はそこしか見ていないのか。いいか、なんでも、だぞ。国家機密だろうがなんだろうが、なんでも、だ」
「そんな恐ろしいものが学校にあっていいんですか?」
「まず第一に、あの部屋には簡単には辿り着けない。第二にウチの生徒からは情報は漏れない」
凛の言葉に陽翔がうなづいた。
「なんでですか?悪気はなくても誰かがうっかりしゃべってしまう事だってあるかも…?」
「あぁ、煌は編入生だから知らないんだな。この学園には竹取魔法がかかっている。学生も入学する時に学園のことは部外者には話せない魔法をかけられるんだ。多分お前も誰かにこの学園のことを話そうとしたら頭が真っ白になって何を言おうとしていたか忘れる。」
煌は自分も魔法にかけられたのだろうか…?と考える。
「学園からの呼び出しって、いつもあんな感じなんですか?結局誰が、僕に何の用があったのかわからないんですけど」
「いや、普通なら蝶についていくと呼び出しをかけた人のところへ案内される。大体、理事長室だよ。で、大体説教だ。お前は来たばかりで様子がわからないだろうから援護射撃のために二人で着いてきたんだがなぁ。」
「僕に何の用だったのかな?」
煌にはわからない言葉かりだった。しかし、あることに思い当たった。
「センパイ、もしも、運良くあの部屋に辿り着けたとしても、まずはちゃんと『メデューサ』に聞く事ができないと答えてもらえなさそうだけど…。」
「あぁ、そうだな。強いルーン(力ある言葉)を使った、呪文を覚えろって言ってたな」
急に、煌が少し暗い目をして言った。
「『メデューサ』に聞きたいことが、たくさんある…」
煌が辛い思いをしているのを感じる。大切な何かを失った時の痛み。陽翔はそんな煌の力になってやりたいと思った。同じような経験をしたものにしかわからない辛さを陽翔は思い出していた。
今の煌には助けが必要だと感じる。
「じゃぁ、呪文を勉強しなくちゃね」
そんな二人を見ながら凛は気になっていることを口にした。
「なぁ、お二人さん、ところで学校裏の竹林ってこんなに広かったっけか…?」
確かに先ほどからずっと歩いているのにいつまでも竹藪の中だ。学園が見えてこない。
案内の蝶は竹藪に入ったときに見失っている。
「さっきもココを通ったような気がするんだが。」
三人は顔を見合わせた。
「ちょっと目印をつけておこう。」
凛が竹に目印の傷をつけ、陽翔が草を結ぶ。
少し進んでまた同じように印をつける。10分ほど歩くと、行先に凛と陽翔がつけた目印があった。三人は呆然と立ち止まった。
「真っ直ぐ一本道だったよな?なんで戻ってきちまうんだ?」
「どこかで間違えたのか?引き返してみよう」
三人は、元来た道を引き返し始めた。
そして、また10分ほど歩くと行先に目印が現れた。
「真っ直ぐ、一本道だったよな?」
ゆっくりと凛が言う。
「どうしよう、出られなくなっちゃった。」
陽翔は動揺して凛を見る。
「晩ご飯に間に合わないと怒られるよ」
日が傾いて竹藪が薄暗くなってきた。
「学校の裏で遭難なんて真平ごめんだ」
「ここ、明かりがないから、夜になったら真っ暗だよ」
「いや、灯りなら、ある。」
凛はポケットから、ライターを出して、自分が着ているベストに火を付けた。
あっという間に炎がベストに燃え広がる。
「わぁ、火鼠の皮衣だ!初めて見た!センパイすごい魔法道具を持ってますね!」
陽翔が目を丸くする。凛は炎の衣を着ていた。優しく揺れる暖かな炎の色。
照り返しで凛の髪が茶色く透けて金色の縁取りになっていた。なんとなく煌は、この学園にきてから不思議なことばかり目の当たりにするので、もう驚かなくなってきていた。
生徒会長、モテるだろうなと思いながら聞いてみた。
「センパイ熱くないんですか?」
「おう、これは燃やしても燃えない火鼠の皮衣。魔法道具なんだ」そう言って歩き出そうとした時に、
竹藪が避けた!明らかに、炎が近づいてくるのを嫌がって竹がどいたのだった。
「う、動いた!」
陽翔が声を上げる。
「なるほど、道がわからなくなるように竹が動いてたのか。」
分かったと言うように凛がどんどん竹に近づく。
すると近くの竹がパニックになった。よほど皮衣が嫌なのか、竹藪が慌てて避ける。
しばらくするとパニックになって押し合いへし合いしていた竹がもつれて詰まってしまった。
それ以上逃げられないとなると今度は反撃してきた。
「うわっこっちくるな!」
「竹に襲われるなんて初めてだ!」
しなる竹に打たれて陽翔が声を上げる。
「イテッ」
もう一撃陽翔に向かって竹が打ち下ろされようとしているのを止めようと、煌が咄嗟に割って入った。
いつの間にか手に光の鎌が出現していた。
前回出現した時の鎌は死神が持っているような長いものだったが、今度の鎌は藪の中で扱いやすいように柄が短かった。
そのまま鎌で薙ぎ払う。
スパッと竹が切れた。
「煌、すげーな。それがお前の魔法道具なんだな。」
竹が少し距離を置いて三人をとり囲んだ。
包囲されて一本道だったはずがどこにも道が、なくなっている。
しかし、煌は追い詰められたような危機感を感じなかった。竹からの敵意を感じなかったから。
その時、一本の竹の根元にキラリと光が見えたような気がした。
「ココを切って…」
その声は陽翔と凛には聞こえなかったようだった。
そのまま、煌は光る竹の根元をスパッと切った。
すると、切り口から光が溢れ出す。
「うわっ!なんだ!」
光る竹の中から綺麗な色に光る大きな卵が出てきた。
「卵…?」
三人は、思わず顔を見合わせる。
煌が卵を光竹の中から取り出すと、さぁっと竹が動いて、帰り道が現れた。
「この卵を持って行けってことかな?」
煌が二人を見る。
「とにかく晩ごはんに間に合うように早く帰ろう」
あっという間に立ち直った陽翔が言う。
煌の手からは鎌が消え、代わりに卵が抱えられていた。
凛が言った。
「今回は陽翔に賛成だ。竹の気が変わらないうちに、早く帰ろうぜ」
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