【#ジャンププラス原作大賞】 全寮制竹取学園園芸部 Chapter1−2 竹取学園の秘密
竹取学園の授業は朝10分間の英語の発声から始まる。
竹取学園は煌が通っていた中学とは随分勝手が違っていた。
ショッピングモールのようだと言われる校舎内。中央にはアトリウムと図書館。メディアセンターや体育棟も充実しており、地階には温水プールもある。グラウンドも人工芝の面があり、体育棟の屋上にはフットサルコートもある。そして、植物園のようだと言われる大温室。
校風は自由闊達。建学の精神が「立志・開拓・創作」であるため、これを誇りにしている教員も多く、他校と比べれば非常に自由度が高い。学生の主体性を尊重する方針である。そのことを生徒もまた誇りに思っており、「自主、自立」の精神をモットーにしていた。
クラブ活動は、中高一環となっており、各部それぞれ先輩から代々引き継がれた「部活カラー」があった。中でも園芸部は生徒会長を筆頭に優秀な生徒が揃う部活だった。各地のコンテストや展示会の受賞の常連であり、新品種をいくつも世に送り出している。それには、例の特殊能力、植物の声を聞く力を持つものたちが集まっているという秘密がある。もちろん、園芸部には一般の生徒も入部できる。だが、「緑のゆび」を持っていそうな生徒は、部長が直接スカウトすることになっていた。
煌が戸惑いながら慣れない朝の英語の発声をしている時に、それ、はやって来た。
窓が開いていないのにどこからともなく飛んできた白い蝶。
ヒラヒラと舞いながら教室の上を周回すると、突然スイッチが切れたように煌の上へ落ちてきた。
落ちてきた蝶を見るとそれは薄い紙で折られたものであると分かった。
「手紙がきたね」
陽翔が興味津々といった様子で除きこんで言った。
クラスの生徒たちは、そんな風に「手紙」が飛んでくることは当たり前の光景なのか、特に興味を示した様子はなかった。
「手紙?」
「開けてごらんよ」
言われるままに白いヒラヒラの羽の部分を引っ張ると、それは風呂敷のように解けて中から煙のように文字が立ち昇ってきた。
放課後にいらっしゃい
そう読めた。
「いらっしゃいってどこに…?」
陽翔へ問いかけるとそれは陽翔にも分からなかった。
「わからなくても大丈夫。向こうから迎えがくるよ、きっと。」
陽翔はヒラヒラの蝶を元の形に折って煌に差し出した。
返事を出すんだ。
「はいわかりましたって言ってこれに息を吹きかけて。」
煌は言われた通りに紙の蝶に息をふぅぅっと吹きかけた。
すると、白い蝶はふわりと、舞い上がりまたヒラヒラとどこかへ飛んでいった。
「でも今日は放課後に部活があるよ」
真面目な煌は言った。
「大丈夫、先輩たちには昼休みに事情を話しておこう」
好奇心旺盛な陽翔は興味津々だった。
「煌、君は一体何者なんだい?入学初日に藤原先輩に呼ばれて、次にはもう白い蝶の招きがあるなんて!」
白い蝶の招きが何なのか陽翔は知っているようだった。
正直なところ、煌は今日の放課後は園長と話がしたかった。聞きたいことがたくさんありすぎる。
しかし、園長は煌の「叔父」として、転校手続きや土砂崩れで潰れてしまった家の後始末をしに行ってくれている。「叔父」が戻ってくるのが待ち遠しい。
あの時、あの少女が言った「カグヤ」とは何物なのか。あの少女は煌をエサに「カグヤ」を誘き寄せると言った。煌は「カグヤ」が何者かすら知らないのに…。あの少女は何者だったのか。そして煌の両親はどんな人だったのか。祖父母には両親は事故で亡くなったと聞かされて育った。でも、今回その祖父母も「事故で亡くなった」ことになっている。まさか…もしや…両親も?早く、園長と話がしたかった。
昼休みに園芸部の部室に行くと、生徒会長がいた。
「おっ!白い蝶の招きがあったのか?そうか!それじゃ仕方ない、部活は休んでいいぞ。どうせ冬場は休眠している植物が多いから園芸部の活動も暇だ。俺もついて行ってやる!」
自分もついていこうと思っていた陽翔がえっ!と声を上げる。
生徒会長も白い蝶のことを知っているようだった。一昨日からミミズおばけに襲われたり、光が喋ったり、頭がおかしくなりそうな事ばかり起こって麻痺していたが、紙製の蝶が飛んでくるなどという事態に動揺しない竹取学園の学生たちも何かがおかしいぞ…ということに煌は今更ながら気がついた。
「先輩、紙の蝶のことご存知なのですか?」
「お?なんだ陽翔教えなかったのか?あれはMB(messenger butterfly)。学園からの呼び出しだよ。また飛んでくるからすぐわかる。じゃぁ放課後な!」
あまりにも当たり前のようにさらっと凛が言うので、煌はそんなモノなのか…と?思いながらもなんとなく腑におちずにいた。
生徒会長の言う通り、放課後になるとアトリウムで待ち合わせていた三人の元へ再び白い蝶が現れた。
学園からの呼び出しってなんだろう?
蝶はついてこい、と言うようにヒラヒラと飛ぶ。温室の光の時と同じだった。
そのまま校舎棟を抜け、体育棟の地下へ向かう。地下にはプールがあるはずだったが、プールとは反対の廊下へ導かれた。
そこは、竹取学園のサーバールームだった。施錠されている扉が白い蝶のひらめきで解錠される。
竹取学園の生徒たちにはそれぞれタブレットも与えられているし、学内には竹取学園の誇るITルームがある。しかし今や多くのシステムはクラウド化されているはずだった。ピカピカ点滅するマシンの列を抜けて、白い蝶は構わずサーバーの並んでいる通路の奥へ進んでゆく。
奥の台の横に掃除用具入れがあった。蝶はその用具入れの前で飛ぶ。するとカタンと音がして両開きの掃除用具入れの扉が開いた。
なんとその扉の中は空っぽ。掃除用具は一つもない。そして、その奥にもう一つの扉があった。蝶がそのままもう一つの扉の奥へ入ってゆくので三人はそれに続いた。陽翔、煌、凛の順に扉の奥へ入ると、背後でカタンと入ってきた扉が閉まった。
びっくりして振りかえる煌を後ろから凛が促す。
「今は帰り道は気にしないで先に行こうぜ。」
陽翔は最初からこの先が気になって仕方がないようでどんどん蝶について進んでいた。
なぜ、地下のサーバールームの奥にこんな道が続いているのだろう…?と考えているのは自分だけのようだと煌は悟った。
おそらくあの掃除用具入れに入った瞬間からもう、ここは学校の地下とは別の空間なのだろう。三人は少し斜めになって緩やかなカーブになっているトンネルのような道を進んだ。
道の反対側の行き止まりに、さらに扉があった。今度はどこかで見たことがあるような気がする丸い扉だった。そして何かわからないが爽やかな香がした。
丸い扉も抜けて進むと、三人はいきなり宇宙空間の中に立っていた。
前後、左右、上下もわからない空間に幾千億の星の瞬きが眩しい。そして、その空間の中程に巨大な女性の首が浮いていた。とても整った顔立ちの美人だったが、髪の毛に当たる部分は全て蛇で大小無数の蛇がゆらゆらと蠢いていた。そしてその蛇の鱗の上をいくつもの光が行き来しているのが分かった。それぞれの光点がそのまま蛇からこぼれ落ちて幾千億の星へと繋がっていることが分かる。蛇たちは星々の光を集めたり、放ったりしていた。
全ての光の中心にいるもの…
「メデューサ…。噂は本当だったのか」
凛が呟いた。
「センパイ、ここはなんですか?」
「これはおそらくこの学校の秘密と噂される、異界ネットワークサーバーの『メデューサ』だ。」
名を呼ばれた瞬間に、『メデューサ』は閉じていた瞳をパッと開いた。無機的な瞳は金色で、瞳の中で光がチカチカしていることが分かる。ものすごい速さで、蛇の鱗の光が踊る。落ち着いた女性の声がした。
「質問を入力してください」
質問を入力ってどうやるんだろう…?考えている間にウキウキした声で横から陽翔が聞いた。
「どうやってやるんですか?あなたは誰ですか?」
抑揚のない声が答えた。
「私はメデューサ。知識・自然界の偉大な力を表すもの。情報の繋ぎ目にいるもの」
視線が煌の上に止まった。
「煌。質問を入力してください」
女王のようにキッパリと『メデューサ』は言った。
この擬人化されたコンピュータがなぜ自分を煌だと分かるのだろう?とうっすらと考えながら煌は質問をした。
「僕を呼んだのはあなたですか?僕になんの用ですか?」
『メデューサ』は答えた。
「そうです。私があなたを呼びました。また、そうでもあり、そうではない。」
「????」
「それは誰かの命令があったと言うことですか?」
好奇心を隠せない陽翔が割って入る。
「はい。大星煌が必要とするデータを提供するように指示がありました」
「それは、園長先生ですか?」
『メデューサ』の小さな蛇が鎌首をもたげて真っ直ぐに煌を見た。
「理事会からのコマンド(指示)です。大星煌、質問を入力してください」
煌は単刀直入に聞いた。
「カグヤって知っていますか?誰なんですか?」
その質問を聞いて『メデューサ』の蛇が一斉にうねり、さあぁっと光が宇宙へ向けて放たれた。
そのまま光は光跡を残して波紋のように広がりあちこちで点滅し、あるものは戻ってきた。
「カグヤと言う名前はいくつかヒットしました。しかし、大星煌と関連づけられるものはありません。再度質問を入力してください。」
がっかりしながら煌は言った。
「僕をエサにカグヤを誘き寄せられる」って言われました」
それを聞いて『メデューサ』は答えた。
「大星煌を襲ったものは#※&∈∂∽です。#※&∈∂∽と関連づけられるカグヤは、闇を無効にする力を持つとされる月の姫です。」
よくわからない事がさらに増えた…と煌は思った。
「まずは私からデータを出力するスキルを学ぶ必要がありそうです。この学園で学べば、強いルーン(力ある言葉)を使った、呪文を覚えることができるでしょう」
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