
素のちから
絵を描き始めると、何かが動き出す。何もないと思っていた地面の奥に水源があったみたいに。紙の奥からじわじわと、時には爆発するようにビジョンが自然と湧いてくる。でも、そのビジョンは、最初からはっきりしているわけではない。予感のような線、気配のような光と影。きわめて繊細な感触のようなもの。それらが私の感覚を動かしていく。私は、私の鉛筆画をあえて「素描」と呼んできた。「素描」は本来スケッチとかデッサンすることで、作品の前段階のもの。だから作品をそう呼ぶのはおかしな話なのだ。けれど、私にとって「素描の素」は素直の素だったり、素っ裸の素だったりする。ネイキッドでオーガニックという意味合いが近い。私は自分の持つ感覚をありのまま描きたい。私の得た感覚をむきだしに描きたい。得た感覚によけいな色はいらない。具体的な形をつけ足すことはしたくない。素手で探るように、シンプルに鉛筆で追いかける。いまだ格闘の傷跡ばかりが残るような画面だけれど、描くことの根源に迫りたいのだ。
細木るみ子展 客観素描/素のちから (2018 ガレリオオリザ/帯広)より