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新卒半年で大手企業やめたときのはなし


じゃ、元気でね。


最終出勤日。
残業を2時間ほどして退勤するとき、当時の私の上司にあたるマネージャーがそんな風に声をかけてくれた。

この会社に来てからあまり会話がなかったマネージャー。

こちらから何かわからないことを聞くと、忙しいのにもかかわらず丁寧にモノゴトを教えてくれる。

かなり仕事ができるマネージャー。

少し天然な所があるけれど、いい人だった。

でも普段から会話はない。
何もなければ、お互い黙々と仕事をして終わる。

私の方が先に帰ることもあれば、その逆のこともあった。


他の会社のことは分からないけれど、
キットこういう企業は多いはず。

いいか悪いかは別として、私はこういう関係性が嫌いではなかった。

必要以上に干渉しない。
そもそも飲み会とか、そういうのもしない。

それでも昇進には影響しない(はず)。

マネージャーの下で仕事をするのも楽しかったし、
人柄も、少なくとも私はすきだったかな。


私が入った会社には色々な人がいた。


そりゃあ人の数だけ物語がある。

だから色々な人がいるのなんてあたりまえ。


……なんて言われるんだろう。


そんなことは分かっている。

学生時代に短い間とはいえ、海外の大学に留学していたし、
所属していた大学も留学生を積極的に受け入れていた。

彼ら・彼女らと関わることが他の学生と比べてはるかに多かった私は、
そういうもんだと思ってた。


でも、この会社に入って、
世界はもっと広いということを知ることができた。


出世街道まっしぐらの上司。

仕事ができて、部下想いのマネージャー。

集合研修の夜の自由時間に、夜のお店に行く同期。

キライな人に対しては徹底的に無視を貫く、業界20年のベテラン。

部下には挨拶すら返さない、隣の課の課長。


改めて思い返すと、本当に色々な人がいる。


ステキな人にもたくさん出会えた。

将来はこうありたいなって思う人もいれば、
そうではない人もいた。

色々な人が力を合わせて、組織を動かしていく。

企業って人の体みたいだなぁと、ロクに社会経験のない私は思った。


それが「動かしていく」というよりかは
「無理やり動かしている」
あるいは「不協和音を奏でながら、なんとか動かしている」

と気がつくのに、そう時間はかからなかった。


入社して3か月が経ったころのこと。

同じ課の先輩が退職すると聞いた。

2年目の先輩。
無口だけど仕事はそつなくこなす方で、
てっきり優秀な方だから、どこかに引き抜かれたのかなぁと思ってた。


彼の退職を聞いてから数日後、なぜか私は人事部との面談がスケジュールに組み込まれた。

そこで、それが私の勝手な勘違いだと察した。

どうやら彼は社外のコンプライアンス窓口にハラスメントがあったことを通報したらしい。

曰く、上司にあたる人からハラスメントを受けたということ。

どうやらベテランさんと何かがあったようで、
半年間あいさつ・仕事の連絡など
すべてを無視・仲間外れにされていたようだ。

確かに挨拶を無視されていたのは、何度もみていた。


そんな状況に慣れていた私もどうかと思うし、
今思えば(遅すぎる後悔ではあるものの)
「なんであいさつ返さないんですか?」
くらいはベテランさんにも言うべきだったと思う。


ともかく、それで私にも事情を聞こうということになったらしい。

部署の全員に聞いて、
その事実は認められた……と思う。

あれだけあからさまに、キレイに彼のことをシカトして、
彼がまるでいないかのように扱っていたんだもの。

あの空気の部屋に半年もいて
「何もなかった」というのは、流石に人間としてどうだろうと思う。


まぁ1番どうかと思うのは、挨拶という小学生ですらできる
社会人として……いや……人として最低限のマナーであることすら
意図的にしないという幼稚なことを堂々とするベテランさんだし、
そのベテランさんを20年も雇って、何の注意もせずに放置した会社
だろう。

もちろん
その場にいたのに、見て見ぬふりをした私たちの責任も大きい。

それに、辞めてしまった先輩も「全く悪くない」
ということはないだろう。

どこかに何かの原因があり、
それが引き金となったことには違いない。

人間という存在に完璧な人はいない。

だからこそ先輩にも直すべきところはあっただろう。

が、だからといってそれが無視とか仲間外れにしていい理由にはならない。
少なくとも私はそう思う。

ここまで書けば、鋭い方はお気づきかもしれないが、
ベテランさんが処分されることはなかった。

私が辞める日も、ベテランさんは普通に仕事をしていた。

先輩はきっとこうなると、心のどこかでわかっていたんだろう。

だからコンプライアンス窓口に連絡すると同時に、退職届を上司に叩きつけたのだと思う。


私は彼の選択は、少なくとも間違ってはいないと思う。


結局先輩は異業種の大手企業で働いている。


こんな顛末があったのにも関わらず、弊社は常に人で不足を叫んでいた。


転職サイトには常に求人を出し、人事部も常に面接をしていた。


どんなに優秀な人を採用できたとしても、
中身がこんな体たらくじゃ、すぐにやめていくに決まってる。

改善するべきところをどうにかするのが先じゃないのか……
と、私は思ったけれど、上層部はそう思っていないらしい。


ちなみに私の同期も何人かはすぐに見限って辞めた。

おかげで私はプロジェクトを3つも掛け持ちという余計に訳の分からない
シチュエーションに陥ることになるが……
それはまた別の話。


と、ここまで辞めた人の話を書いていて、
そういえば辞めなくても、心の病気にかかって休職している方がいたことも
思い出した。

特に隣の課は多かった。

明確な理由はわからないが
1日を通して怒号が響き渡っていたことは確かである。

挨拶しても無視する癖に、
気に入らないと部屋で大勢の前で説教が始まる。

営業に携わる部署である以上、数値を追い求めなくてはいけないのは理解できる。

が、元号が令和になったこの時代に、
課全員の前で「数字……全然足りないじゃん。どうすんの?これ?」

なんて詰め方をするその思考は、ハッキリ言って理解できなかった。

そんな状況で仕事をしてるんだから、鬱になる人が増えるのは分かるし、
若い人なんてとっとと辞めるだろう。

ていうか、これこそ立派なハラスメントだと思うのだが……

まぁそのうち誰かに訴えられるだろう。



そんなこんなで、毎晩遅くまで残業を繰り返し、上半期が終わったところで
人事評価と人事異動の時期がほぼ同時にやってきた。


まず、人事評価に関しては皆諦めていた。

既に業績は過去最低レベルに悪化し、ボーナスは前年より1か月減ることが
既に伝えられていた。

この状況でモチベーションアップなど皆無である。

会社の財政状況の悪化は、昇進にも影響していた。

誰もが平等に昇進試験を受けることができるものの、
合格率は異様に低く、まさに「上が詰まっている」という状況であった。

それでも、新卒入社した私に夏のボーナスを満額出していただいたこと
については、今でも感謝している。

ちなみに評価システムに関しては、半期ごとに定量評価が可能である目標を複数設定し、その達成率によって昇進やボーナスの査定が決まる……

と、説明されていた。

が、複数の先輩社員やマネージャーが「実際は上司の好き嫌いによる」
と異口同音に唱えていた。

本当のことはもはや闇に葬られたままではあるが、
少なくとも評価の方法は見直した方がいいだろう。

人事異動については、特質すべきことはない。

半期ごとに引っ越しを伴う転勤があるかどうか。
それだけだ。

範囲は全国。

全国転勤上等のスタッフは特に反応もなく、
それがイヤなスタッフは心底嫌がっている。

個人的にはそれが嫌なら転勤のない会社に入社しなければいいのに……
とは思うが、社会には色々な人がいるということだろう。


ここまでネガティブなことばかりを書いてきたが、
別にこの会社が嫌いだったわけではない。

繰り返しになってしまうが、仕事は楽しかった。

大手ならではのスケールメリットを生かして、
色々な大きな仕事にほんの少しだけ携わることができた。

特に途中からプロジェクトに割り当てられたとはいえ、
プロジェクトをどのように「キレイに」終わらせるか
というのを近くで見て、体験できたのは勉強になった。

「終わりよければすべて良し」
という言葉が日本には昔から存在するが、
それがどうしてかがなんとなく分かった気がした。

……あくまで気がしただけだが。

優秀な人々の下で仕事をして、それなりの成果を出して……
毎晩帰るのが遅かったけれども、
それでも楽しいと思う瞬間はかなり多かった。


では、なぜやめてしまったのか。
しかもたったの半年で。


これにはいくつかの理由があるが、大きく分けるのであれば、
1会社での未来がなさそうなこと 2自分の価値観
だろう。


1つ目の理由は難しい話ではない。

ここまで散々書いてきたことからもお分かりだろうが、
「この会社には未来があるのだろうか?」
と思ったことだ。

特にお金の面で、スタッフに還元されるお金が減っていること。
働いている人々に関しても、素晴らしい方々がいる反面。
どう考えても「これはおかしい」と思う行動をしている人々が
少なからずいて、しかもそれが放置され、優秀な方々が次々に辞めていく。

もう少し自分勝手な言い方をすれば、

もしもこの会社に残って、それなりの成果を出して出世をしたとして。

大して給料もあがらない。
新しい上司がハラスメント気質。
そういった上司やいわゆるモンスター社員から、
部下を守ることができるのか?

ということを考えた時、
とてもじゃないが給料の割に合わないと思ったのが大きな理由となる。

完全なる他責思考で申し訳ないが、本当のことだから仕方がない。

無論、そのような「色々な人」と上手くやっていけないのは、
心に壁を作っている私に原因があるし、
私がいつまでも学生気分ということだろう。

社会に出るということは、多様な人々と関わることであり、
マネジメントに関わるということは、
時には厳しい決断をしなくてはいけない。

自分にはその「責任」をとる気概なんてなかった。

繰り返しになるが、その代わりとして一定上の職位の人間は
役職手当なるものがある、もしくは基本給が高くなるが……

少なくとも私がいた企業の手当は、それに見合う金額とは思わなかった。

むしろ何年か前に業績悪化が理由で手当ての金額が改訂されたというのだから、きっとここ数年でまた下がるだろう。


2つ目の「自分の価値観」について。


突然話が変わってしまい申し訳ないが、
私は休みの日は部屋で本を読んでいることが多い。

小説・エッセイ・学術書……
とりあえず表紙やタイトルで面白そうな本であれば読んでみる。

最近は小説やエッセイが多い。

ともかく、1日中本を読んでいて、気がつくと夜になっている。

食事を忘れて本を読んでいるが、1日中部屋の中にこもっているわけで、
あまりお腹はすかない。

とりあえず近くのスーパーへ行き、値引きされたキャベツの千切りに
オリーブオイルか何かをかけて食べる。

以上。

出勤途中に図書館により、返却ボックスに本を返す。

また次の休みに本を借りて……

を繰り返しているのである。


こんな生活もどうかと思うが、もう何年もこの生活をしていた。


そういうわけで、私の月の生活費は6万円あればおつりがくる。

住んでいた場所が社宅だったため、家賃が格安というのが大きいが、
ようするに家賃が安ければ、それくらいで幸せに暮らせてしまう。


そんな生活をしていると
毎月そのくらいのお金を稼げればなんとかなるか……

となってしまうのである。


ちなみにちょうどこの頃、以下の作家様の本を読んだ。


ここまでこんな駄文に付き合って下さった方々には
もう察しがついているだろう。


私は「このようなライフスタイルもアリか」と妙に納得してしまったのだ。


とても不適切なことを書くが、
私は今後の人生で楽しみにしていることも、やりたいこともない。

強いて言えば、ずっと本を読んでいたい。

この世界には本が溢れすぎている。
古典から最近発売された文芸本まで、それはもうたくさん。


それ以外は正直どうでもいい。

結婚もしたくないし、友人もいない。
多分だけど病気になったら、そのまま治療しない道を選ぶだろう。

だって長生きする理由とかないし。


そう考えたら、なんだかすべてがバカらしくなってしまい、
気がついたら退職届を書いていた。


こうして私の会社員人生は終わった。


周囲の人々には特に反対はされなかった。

なんなら会社の人々は、はやく出て行けといわんばかりの対応だった。
きっと私も嫌われていたのだろう。

自覚はないが、失礼な態度をとっていたのかもしれない。

そこら先は特に大きな出来事はなかった。

所属していた課の課長は
私と一切話さなくなり、目すらわせてくれなくなったが、
会社を出て行く裏切り者と話したくないのは当然だろう。

最終日に課長を除く課の方から花束とお菓子を頂き、
私もお菓子とお礼のメッセージを送って、
何時間か残業して、会社を後にした。


その時に見上げた夜空は、いつもより澄んでいた気がした。



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