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優しい絵馬

その神社は山の上にあった。
駐車場から参道を登って行く。
1月の上旬だからかなり寒い。息は白くなって、ダウンジャケットのポケットに手を入れたくなる。
初めのうちは川を右手に見ながら歩き、折り返して川から離れるようにさらに上がる。
やっと体が温まり、まだ足の疲れはない。
さらに上がると、両側の木の扉に龍の彫刻がある山門をくぐる。この時点でかなりの歴史を感じる。わざわざ、高速道路を使って来た甲斐があるというものだ。
まもなく、神社が現れる。本殿も全体が木の彫刻で覆われ、凛とした美しさと威厳を漂わせている。
この頃には息が切れて、太ももに張りが出ている。明日が心配だ。

まずは、本殿で参拝する。
そして絵馬を買って、祈願だ。今年は大事な年だから。気合を入れよう。

ペンを持って、少し考える。決心して願い事を書く。いつもより丁寧に。
そして、あまり込み入っていない場所を選んで、絵馬のひもをそこに結ぼうとした。
その時、1枚の絵馬が目に留まった。やけに余白が多いからだ。

その絵馬を見て、冷え切った頬が思わず緩んだ。

「この絵馬を見た人が幸せになるように!」

そう書いてあった。なんて優しい絵馬だろう。心の中でありがとうだ。
名前から推測すると、まだ若い人らしい。
この人のお陰でなんだか妙に嬉しい気持ちになった。
他人の幸せを願う人が増えれば、世の中の争いごとも無くなるだろうに。
他人事ではなく、私も反省だが。

お返しはできないけど、この人も幸せになるようにと祈った。

さて、今度は下りだな。下のお店で温かいうどんを食べようか、それとも、少し我慢してパスタにしようか。
とりあえず、手に届く、小さな幸せをいただきます。

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