「高校が荒れていた頃の、厳しすぎる校則を変えたい!」ルールメイキングに1年間とりくんでみてどうだった?
千葉県市原市にある千葉県立姉崎高等学校は「みんなのルールメイキングプロジェクト」実証事業校のひとつ。スカート丈は膝下、男子の前髪長さ規定、ツーブロックは禁止……厳しい校則に悩まされてきたという生徒たちは、どのようにプロジェクトに取り組んできたのでしょうか。
今回は姉崎高校の山村向志先生と生徒会長の田畑希乃羽さんにお話を聞きました!
■「厳しすぎる校則を変えたい」生徒と先生の思いからプロジェクトへ
――「みんなのルールメイキングプロジェクト」に参加したきっかけについて教えてください。
山村先生 3年前、私は初任の社会科教員として、この学校へきました。赴任初日、生徒から言われた言葉は「この学校、監獄ですよ」。ルールが厳しくて、面白くない学校だと言われたのです。校則に対して、生徒たちは表に出さなくても反発心や不満を抱いていたことを知りました。赴任2年目で生徒会顧問になり、そこで校則を変えていこうと考えていたんです。
そのような中、ほかの学校の社会科の先生が「みんなのルールメイキングプロジェクト」を紹介してくださり、生徒たちへ紹介したところ「やりたい!」との声が上がったので、管理職に掛け合い、参加することになりました。
田畑さん 校則を変えたいとは思っていたけど、どう進めたらいいのか最初はわかりませんでした。そんなとき、山村先生から「みんなのルールメイキングプロジェクト」の話を聞き、校則見直しに取り組もうと心を決めました。
――校則が厳しいということですが、なぜ厳しい校則が制定されているのでしょうか。
山村先生 20~30年ほど前は現在と比べて全国的に高校が荒れていた時代だったんですね。この姉崎高校は県の中で「指導重点校」に指定されるほど指導が大変だった時期がありました。そのため校則を厳しくすることで、学校の建て直しが図られました。
でも、今の生徒たちはあの頃と違って落ち着いていますし、当時の校則とのギャップが生まれています。
――20年前の生徒と今の生徒の実態がそぐわないことで、校則のギャップがおきているのですね。プロジェクトに参加しているメンバーは何人くらいで、いつから始めたのでしょうか。
田畑さん 生徒会20人ほどで活動しています。3年生は3人、2年生は17人です。
山村先生 他にも、有志のメンバーが2~3名います。
他の学校の校則などについて調査しはじめたのは2020年の2月頃からです。みんなのルールメイキングプロジェクトに参加する前から、稼働はしていたんです。その後、本格的にプロジェクトへ参加したのが6月でした。
――どのような校則を見直そうとされたのですか?
田畑さん 最初に取り組んだ課題は、スカート丈と男子の前髪の長さです。スカート丈は他校と比べて長いため、冷やかしをうけることもありました。前髪の長さについては、女子は目にかからないラインなのに、男子は眉上と決まっていました。そこで、男女とも目にかからない長さに出来るように働きかけました。この規定については、2020年10月に改訂されています。
――校則を変えるために、どのような取り組みをされたのでしょうか。
田畑さん 全校生徒へ意識調査のアンケートを行った後、先生や生徒へインタビューを行いました。夏休みには企業や地域の人へアンケートやインタビューを行っています。その後、先生方の職員会議に参加させて頂いて、プロジェクトについて報告を行いました。また最近では、先生たちと生徒との「対話ミーティング」も行っています。
山村先生 最初のアンケートで生徒の中で、校則に対して問題意識を持っていることがわかりました。2021年6月に再度アンケートを行ったときは、8~9割が校則を変えたいと答えており、校則に対する意識が高まっていることを感じました。
■「任せた」ことで見えた生徒たちの成長
――最初はどう進めたらいいかわからなかったと思いますが、先生からはどのようなサポートをされたのでしょうか。
山村先生 最初は「こういうふうにやったらいいんじゃないかな」と役割分担について指示をしたと思います。あとは困ったことがあれば都度アドバイスをしました。「基本は生徒に任せる」というスタンスでいます。
田畑さん 自分たちも大きなプロジェクトに参加するのが初めてで、なにをすればいいかわからない状態でした。でも先生には、最初にアンケートとってみたら、などアドバイスのおかげで順調に進めることができたと思います。
山村先生 「生徒が自分たちで考えて行動する」と言うことが一番大切でした。
――先生から見て、生徒たちに変化はありましたか?
山村先生 最初は生徒側だけの視点でしか物事を見ることが出来ていなかったのですが、先生たちや外部とのインタビューを繰り返すことで、「一方からしか物事を見られていなかった」と気づいたことは、大きな変化でした。
また教員たちとの対話ミーティングで反対意見を言われた時、生徒たちは打ちのめされるか、もしくは「なにくそ」と反抗するかのどちらかだと思っていたんです。でも終わった後に生徒たちから話を聞くと「対話できて楽しかった」「反対意見も今後のプラスになる」「勉強になった」という声。私が想像していたよりも、生徒たちは広く物事を見ることができるようになっていました。
田畑さん 対話ミーティングでは、互いに本心を話し合えたのが良かったです。厳しいと思っていた先生も、話をしてみると生徒のことを考えてくれている。そういった気持ちが伝わってきました。先生たちとの距離も近くなりましたね。「いつ校則変えるの?」「頑張って」というポジティブな言葉をかけて頂くこともあります。今後は先生方のアドバイスをもとに、いろいろ調べていきたいですね。
山村先生 こういった言葉からも生徒の成長を感じます(笑)。対話が増える度に、視野が広がっていると感じます。教員としては、対話を作る手助けこそ、大切なサポートだと考えます。
――プロジェクトを進める中で苦労したことを教えてください。
山村先生 厳しい指導を緩めることで、学校が悪くなっていくのではと懸念される先生方もいました。とくに私は教員の中では若手なので、いろいろな先生からプロジェクトに対する本音をぶつけられることもありました。ただ、生徒指導部長の協力を得ていたので、そういった意見がある中でも、比較的スムーズにプロジェクトを進めることができたと思います。
また生徒たちと対話したことで、校則を変えることを歓迎していなかった先生たちのスタンスも変わってきました。「変えた場合、こういったところが心配」「ここを気をつけた方がいいのでは」と、部分的な注意に変わってきました。
そういった意味では、生徒たちが自ら壁を壊してくれたと感じています。
田畑さん 私達にとっては、全生徒への認知が足りないことが問題だと感じていました。夏休み前に、もっとプロジェクトを知ってもらうために模造紙を使ってプロジェクト紹介を張り出したり、動画を作って流したり。
今後は新しい校則を継続していくためにできることも考えていきます。ここはまだ、スタート地点なので。
――それぞれの立場で見つけた問題も違っていて面白いですね。
■対話する力は、学力や偏差値とは関係ない
――田畑さんは、このプロジェクトに参加して良かったと思うことはありますか。
田畑さん 生徒会長としてみんなをまとめる力が身についたので、今後役立つのではと思っています。また、地域の方や企業の方、先生方とお話しすることで、コミュニケーション能力も身につきました。伝えたいことを言葉にできるようになったり、相手の気持ちを理解したり考えたりするようになったと感じています。自分だけの立場ではなく、相手の立場についても考えるようになりました。
――将来、姉崎高校の後輩たちにはどんな風に過ごして欲しいと願ってますか?
田畑さん 友だちとかを見ていると、電車などで周りからの視線を気にしてしまい、それが表情にでてしまっているんです。だからこそ、校則が変わった後、後輩たちには他校と同じくらい楽しそうな表情で過ごして欲しいですね。私達が大人になっても、明るい生徒たちの顔を駅や街で見かけることができればいいなと思います。
――これから「みんなのルールメイキングプロジェクト」に取り組みたいと思っている人たちへメッセージをお願いします。
山村先生 サポートする教員としては、まず管理職や指導部長クラスの方の理解を得ると、孤立することなく進められると思います。孤立しすぎると、プロジェクトを進められないと感じました。
私達のケースでは、生徒たちが校長へ直談判したことが後押しに繋がりました。生徒たちの思いを校長に伝える手助けも大切だと思います。学校内、外部含めて、生徒たちに“場”を示していくことが自分の役割なのかも知れません。
また、「みんなのルールメイキングプロジェクト」を通して、対話する力やみんなで一緒に問題を解決していく力というのは、学力や偏差値とは関係ないんだな、と改めても感じました。
田畑さん 最初は「大変だな」と思うかも知れませんが、1年やってきて力になっていると感じています。ぜひ、取り組んで欲しいです。
でも伝えるときは、ただ「変えたいです」だけだと難しいです。「先生方、どう思いますか」と意見を聞いて、先生たちの意見も尊重しながら自分たちの気持ちを伝えていくといいと思います。
先生との距離も縮まったし、プロジェクトに興味がある生徒からも質問されたりして、コミュニケーションが生まれました。それに生徒会も活動しているのかどうかもわからないと思われていたけど、顧問が山村先生になってプロジェクトを始めたことで、人数も増えました。今は幸せだなと感じています。
――貴重なお話、ありがとうございました!
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