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ルールメイキングで伝統校に新たな風を。自由学園 教員 鈴木裕大さんの想い

近年、ルールメイキングに取り組む学校は確実に増えてきています。ルールメイキング推進にあたり、校内だけで完結すればそれに越したことないでしょう。しかし、その過程で難航し、「みんなのルールメイキングプロジェクト」に参画する学校も少なくありません。

今回取り上げる、学校法人自由学園もそのひとつ。東京都東久留米市に本部を置く自由学園の創立は、1921年。「生活即教育」という理念のもと、教室だけにとどまることなく、自然豊かなキャンパスを含めた学校生活そのものを学びの場とし、教育を実践してきた伝統校です。

教育に積極的で、日頃から対話も多い校風のため、ルールメイキングも順調に進みそうな印象を受けます。では、なぜ「みんなのルールメイキングプロジェクト」に参画することになったのでしょうか。同校でルールメイキングのプロジェクトを担当する教員の鈴木裕大さんに話を聞きました。

「幸せになるルールを一緒に考えませんか?」

自由学園でルールメイキングプロジェクトを担当する鈴木裕大さん

――ルールメイキングの実施に至った経緯を教えてください。

鈴木さん 男女別々の学校として教育を実施している中等部・高等部が、2024年度から共学化することになったからです。現在、男女で別々のルールが運用されているため、共学化を前に見直す必要がありました。

しかし、仮にどちらかに合わせるとしても、一方にとっては学校生活が大きく変化してしまうことなので慎重に進めなければいけません。私たち教員の独断で決めるなんてもってのほか。まずは、ルールメイキングのプロジェクトを発足するためのメンバー集めから始めました。時期としては、2021年3月ごろの話です。

――どのように募集をかけたのでしょうか?

鈴木さん コロナ禍の募集だったので、Google Classroomで全校生徒に向けて「幸せになるルールを一緒に考えませんか?」と告知しました。私の個人的な想いとして、生徒を縛り付けるようなルールではなく、一人ひとりが幸せになるようなルールを考えたかったので。

エントリーしてくれた生徒とはその後面談を実施しました。面談では服装や装飾品に関するルールへの希望を話す生徒が多かったですね。最終的に男女合わせて10名ほど、教員が私を含めて2名がメンバーとなり、プロジェクトが発足しました。

プロジェクト発足! しかし、メンバーが集まらない……


――まず何から始めたのでしょうか?

鈴木さん 「そもそも学校生活におけるルールとは?」というところから議論しました。

いくら自分たちの希望を盛り込んでルールを変えたとしても、一時的なものであっては意味がありません。中長期的に運用していく必要がありますし、学校生活にプラスの影響をもたらすものでなければいけない。そもそもルールについて言語化した経験がない状態からのスタートなので、まずは自分の意見を口にしてもらうところから始めました。

意見交換にかなりの時間を割いたと思います。とはいえ、生徒たちがゼロベースで考えていくことは難しいので、建学理念に沿いつつ、「どういうルールだったら今幸せに感じている人たちの気持ちも汲み取りながら、新たな要望にも応えられるか」という軸で考えました。

――お話を伺っていると、すごく理想的な進め方をしている印象を受けます。校内のメンバーだけでプロジェクトを推進していくことが難しくなったのは、何が原因なのでしょうか。

鈴木さん 一番の課題は、生徒たちがプロジェクトに充てる時間がないことです。というのも、当校では学校方針で生徒たちがさまざまな役割を担っています。たとえば、寮の運営などもそう。すると「急な対応が発生したため今日は参加できません」という場面が多々あり、プロジェクトメンバーが定期的に集まることができていませんでした。

そのため、話し合いたいテーマは決まっていても、継続的に議論を重ねることができずに、中途半端な状態に。回ごとにメンバーが入れ替わり立ち替わりで「前回はこういう話をしたようです」と議事録を見ながら進める状態が続いていました。

第三者の存在が、生徒のモチベーションUPに

――その後、2021年の夏頃にカタリバにお声がけいただきました。カタリバの「みんなのルールメイキングプロジェクト」に期待した役割とは?

鈴木さん どちらかというとプロジェクトマネジメントへの期待は少なかったかもしれません。

それよりも、校内にいると見えてこないような客観的な意見や常識にとらわれないようなアイデア、他の学校の事例共有などを期待していました。自分たちは満足しているけれど、外部の人には受け入れられないルールではもったいないし、意味がありません。

確かに、自分たちだけでカタチにできれば対外的なアピールの材料になるかもしれませんが、本質的な課題解決にはなりませんからね。

――その後、変化はありましたか?

鈴木さん ありました。「みんなのルールメイキングプロジェクト」への参画が決まったタイミングで生徒に話したところ、彼ら自身もちゃんと準備するようになっていきました。やはり気心知れた教員がひとりいるだけだと「いつでも会えるし」と緩んでしまうところ、外部の方がいると「週に1回しかチャンスがないから行かなきゃ」と気持ちが引き締まるようで、メンバーのモチベーションも上がっていったように思います。

自ずとミーティングへの参加率も向上し、一気にプロジェクトがドライブした感覚はありましたね。それまでは概念的な話が多かったのですが、「こういうルールにしたほうがいい」「いやいや、それよりも」と具体的な話にシフトしていきました。現在は主に服装と生徒会選挙のルールに関する議論を重ねている段階です。まだまだ道半ばではありますが。

ルールメイキングを、変革の足がかりに

――今回のプロジェクトに携わって鈴木さんご自身に発見はありましたか?

鈴木さん 意外と保守的な考えを持っている生徒が多いことに驚きました。

せっかくルールを変えられる機会なのに、生徒からは「いや、伝統なんだから簡単に変えるのはよくない」みたいな議論も出て、良くも悪くも真面目な印象を受けましたね。正直、もっと積極的に意見が出ると思っていたのですが、拍子抜けというか(笑)。

――原因はなんだと思いますか?

鈴木さん あくまでも個人の考えですが、学校生活で何か困りごとに直面しても、教員や先輩から「これまでみんな経験してきたんだから、我慢しなさい」「自分で折り合いをつけなさい」という説得をされてきたことが原因のような気がしています。「不満を解消するというよりも、自分が耐えるほうが良い」というマインドが醸成されているというか。

だから、なかなか自分たちだけで解決策を生み出せない。議論に行き詰まったときに、私たち教員が「確かに今まではそうやってきたけれど、よくよく考えるとおかしくない?」みたいな介入をすることもあります。彼ら自身もすごく葛藤しているところだと思います。

――逆の視点から言うと、プロジェクトメンバーにとっては凝り固まった考え方を変える大きな機会になりそうですね。

鈴木さん そうですね。2024年の共学化というひとつの目標はありますが、あくまでも通過点のひとつだと位置付けています。

2024年までに身体の自由、表現の自由、自己決定の自由など生徒の人権が守られるルールを設定していくことは大前提。その上でプロジェクトを通じて、プロジェクトメンバーはもちろん、学校全体のマインドシフトを推進していきたいですね。

そのために、私たち教員にもできることはたくさんある。たとえば服装ひとつを見ても、生徒に提供する学びと直結しない場合もあるわけです。簡単にいうと、スーツを着ているからといって、いい教育ができるとは限らない。教員それぞれに合ったスタイルがあります。

だったら、まず私たちが率先して表現の自由や自己決定の自由を体現していくべきです。そして、生徒たちに「私たちはやったよ。君らは?」と問いを投げかけていきたい。すぐに結果は出ないかも知れないけれど、彼らの変化を見守りながら、ゆっくりと成長していきたいと思います。

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