【校長・副校長が語る】「自力で推進」を目指した、安田女子中学高等学校の2年目のルールメイキング。
マガジン「ルールメイキングと学校」では、ルールメイキング実践校の校長先生を対象に、学校経営者から見たプロジェクトの導入から実践、その後の変化と今後の展望を伺います。
第2回目は広島県にある安田女子中学高等学校の川本校長、安田副校長にお話を伺いました。
「校則が厳しい伝統校」というイメージがあった安田女子中学高等学校。ルールメイキングをはじめる際は、不安を口にする先生方がやはり少なくありませんでした。しかし、カタリバとともに行った教員向けワークショップを通じて、歩みをそろえることができたそうです。
その後実際に活動が開始され、「生徒の可能性を確信できた1年目」となりました。生徒指導も大きく変わり、「生徒指導部」という名称が「生徒支援部」へと改められました。そして「継続のための土壌づくりをめざした2年目」とつながっていきます。
取り組む意義を次の世代に伝えていく難しさに向き合いながら、ルールメイキング活動3年目へと突入した安田女子中学高等学校の変化の様子を川本校長、安田副校長が語ってくださいました。
いまの時代に合った新しいルールづくりを
―どのような背景でルールメイキングを導入されたのですか?
川本校長:本校は広島市の中央部に位置する創立から100年以上経つ私立の女子校で、生徒たちは正門での一礼や朝の静座など、これまで卒業生が築いてきた伝統を大切にしています。そのため校則やルールも歴史的に細かいところまで決まっているものがありました。しかし私自身、いくつかのルールについてはそれが今の時代に合っているのか?という疑問を持つこともありました。
ある時、経済産業省の「未来の教室」実証事業でこのプロジェクトを知り、当事者である生徒が主体的に関われる機会になるのであれば、これは良い取り組みになるのではないかと思い、導入に至りました。
―ルールメイキングをはじめる際、現場の先生方の反応はいかがでしたか?
川本校長:最初は不安を口にする教員も多かったです。「校則を重んじてきた本校の伝統や生徒像が崩れるのではないか」という心配が先立っていました。
加えて、実際にプロジェクトをどのように進めていけばよいのか、特にルールメイキングに取り組む中心となる生徒が、孤立せずきちんと全校生徒に受け入れられるのかという不安の声があがりましたね。はじめは教員間の同意もスムーズにはいかなかったです。
―現場の先生方にそのような懸念があるなかで、どのように進めていったのですか?
安田副校長:もちろん、我々がしっかりと先頭に立って推進することは重要ですが、トップダウンで進めたくはありませんでした。現場の先生方には、しっかりとルールメイキングに対する理解を深めた上で参加してもらいたかった。そこで、教員に向けたワークショップをカタリバさんとともに実施しました。
先生たちとさまざまな意見を出し合ってみると「これからも大切にしたい校則がある一方で、見直しを検討してもよい校則もある」と共通認識をもつことができました。
教員がきちんとルールメイキングの理解を深め、「時代にあわせて校則は変わっても良い」という考えが、教員のなかで広がった機会になりました。
―お二方にも、やはり心配はありましたか?
川本校長:自信をもって絶対大丈夫、とは言えませんでした。でも、きちんと任せれば「安田生」としての自覚をもって進めていけるのではないかとは思っていました。
というのも、これまでにも修学旅行のルールを生徒たちで決めるなど生徒に任せることがありましたが、そうした際には教員側から見てもしっかりとしていると感じられるルールを作っていました。そのような経験から「生徒は多面的に考えたルールづくりができる」と私自身が感じていました。
ー丁寧に対話をしながら取り組めば良いものになるだろう、というイメージはお持ちだったのですね。
生徒の可能性を確信した1年目。
継続のための土壌づくりをめざした2年目。
―2年目もルールメイキングを継続しようと決めた背景には、どのような思いがあったのでしょうか?
安田副校長:1年目はカタリバさんの大きな協力を受けて取り組み、校内でも良い活動として評価できました。ルールメイキングを一過性のものとせず、継続するためには外部の方の力を借りずとも、自力で推進していかなければならないと感じていました。
たとえば、なにか新しい課題が生じたときにも、対話的に話し合い、課題に向き合っていきたい。そのような体制をめざして、2年目も継続することにしました。
―先生方のなかで1年目と2年目を比べてみた際に、なにか変化はありましたか?
川本校長:1年目のスタート時点では、本当に生徒主体で校則を変更して大丈夫なのか、「わがままな校則」ができてしまうのではないかという教員の不安がありました。
しかし実際にプロジェクトがスタートすると、想像以上に、生徒たちは自分たちのことだけではなく、保護者や卒業生、そして未来の安田生の視点など、さまざまな視点で真剣に考えてくれました。生徒たちが持っている可能性の大きさを改めて感じられた初年度でした。
2年目はスタートから「生徒たちは多面的な視点に基づいて建設的な見直しができる」という理解がすでに醸成されていました。教員のなかの校則見直しに対する不安・抵抗感は大分小さくなりました。新たな課題が生まれても安心して話し合いを進められるようになったのではないかと思います。
この1年で、生徒指導も大きく変わりました。実は「生徒指導部」を改め「生徒支援部」に名称を変更したんです。生徒の導き方も「指導」ではなく「対話」と意識を変えていきました。
ただ「いけない」と一方的に指導するのではなく、生徒の話を聞きながら、どのような行動・振る舞いがふさわしいのかを考えるというスタイルに変わりました。
―ルールメイキングを通して、生徒たちの変化は感じられますか?
川本校長:さまざまな人の思いを想像しながら、ものごとを考える力がついたのではないかと思いますね。
なにかを新しく提案するときに、ただ「自分はこれがしたい」ではなく、その目的や背景を人の視点に立って考えることで「こうすればみんなに受け入れてもらえるのではないか?」と、より論理的で建設的な提案をするようになったと思います。
また、きちんと提案をすれば、真摯に議論してもらえるのだということも生徒のなかに広がったと思いますね。
もちろん生徒の提案が全て通るわけではないですが、だめならだめで「なにが問題なのか」と教員も含めて議論してきました。活動を通して、今まで「ルールはルールだから言ってもどうせ無駄だろう」と思っていた生徒たちが「納得してもらえるように提案してみよう」と考えるようになってきたと思います。
安田副校長:校則は学校を形づくるものですから、それを実際につくることで「一緒に学校をつくっている」という当事者意識が生まれていると感じていますね。
ー「自力で学校の課題に向き合える体制」をつくることを目標にして2年目をスタートされたとおっしゃっていましたが、この1年を通して、その土壌がきちんと育まれてきたのですね。
―この取り組みに対して、外部の方々の反応はありましたか?
川本校長:新聞などでも取り上げていただき、生徒たちが主体となって、時代に合わせて変化を生んでいることに、評価をいただいたように感じています。
特に、ルールが厳しいイメージのある本校が「情報端末機器を持ち込んでよい」という校則を導入したときは、結構驚きがあったようです。
安田副校長:2年目のメンバーのなかには、1年目の活動を知って入学した生徒もいました。他校の先生からは「まさか安田さんがやるとは」という声もありました。やはりインパクトがあったのだなと思います。
ただルールを緩めるのではなく、今の時代に合う、納得感のあるルールをつくる点で、意義のある取り組みになったのではないかと感じています。
取り組みの意義を次の世代に
伝えていく難しさ
―ルールメイキングの中心メンバーではない、全校生徒の巻き込み方は学校外からも評価されている印象ですが、どのようにお考えですか?
川本校長:「どうやって生徒全体を巻き込むのか」は、わたしたちが一番気にしていたところです。1年目は導入にあたって、全校生徒を巻き込んで、理解を深めながら進められたと感じています。
しかし2年目以降は、そこがなかなか難しかったです。導入の背景を知らない生徒たちとは、やはり温度感に差が出てきてしまいます。
取り組みの意義が伝わらないまま継続しても、活動は形骸化していきます。だからこそ、3年目は全校生徒を巻き込みつつ、きちんと取り組みの理解をしてもらう必要があると思っています。
安田副校長:2年目の中心メンバーの生徒たちも、その課題には気づいているようです。活動の振り返りの場で、ある生徒が「この2年間頑張ってきたが、これからは、そのプロセスをきちんと全校生徒に伝えることにも力を注ぎたい」と話していました。
やはりこれからの課題は、プロジェクトを継続するうえでどのように全校生徒に当事者意識を持ってもらうかだと思います。
ーそれは、どの学校も2年目以降にぶつかる壁なのかもしれませんね。
―「学校全体での取り組み」という意識を形成するうえでは、先生方のさらなる巻き込みも重要になってくると思います。この活動には、何名の先生方が関わっているのでしょうか?
安田副校長:2名の先生方と私で進めています。加えて、生徒支援部の先生方を中心に、他の先生方にも折々参加していただいています。
―その担当のお二人は、生徒会の先生方なのですか?
安田副校長:いえ、必ずしも生徒会の先生方ではありません。年度ごとに、お願いできる方に依頼しています。
川本校長:やはり学校全体で取り組むことを目指しているので「生徒会」や「生徒支援部」の枠に縛られず、いろいろな先生が関わるのは、いい形だと思っています。
ともに考え、ともに前進する。
新しい議論の場へ。
―ルールメイキングを進めていく上で、外部人材の存在はどのようなものでしたか?
川本校長:教員とは異なる視点を与えてくれたと感じています。
たとえば「対話は、まず生徒の声を傾聴するところからはじめる」というのも、教員とっては新しい関わり方でした。今まで生徒と教員が協働するとき、教員側は学校文化や常識を踏まえて、何がしかの方向性を定めた上で、それに沿うように進めがちでした。
しかしルールメイキングで関わってくださったNPOカタリバのスタッフや専門家の方々は最初に生徒の声に耳を傾け、傾聴したうえで話し合い、生徒の意見をブラッシュアップしていくことで、お互いに安心して意見を出せるような環境を作り上げていました。こうした対話の場の作り方は教員にとっても学びが大きく、教員にはなかった生徒ならではの意見も、そのなかで生まれていました。
安田副校長:外部の方がいるかどうかで、場の雰囲気はずいぶんと変わります。やはり生徒と教員だけだと「いつも通り」ですよね。そのような日常の関係性の中で議論することの難しさは感じていました。外部の方がいることで、場に適度な緊張感が生まれていたと思います。
自走できる状態はつくりたいと思いつつも、外部の方の存在はやはりルールメイキングを進めていく上でこれからも重要だと考えています。
―2022年度、プロジェクトは3年目に入っていくと思いますが、3年目に期待していることなどはありますか?
川本校長:先ほどの話にもありましたが、中心メンバーたちだけでなく「学校全体で行っているんだ」という意識を全校生徒に持ってもらいたいですね。1年目の最後に生徒が「誰かが変えたではなく、みんなで変えるからこそ守れるようになる」と話していました。そういう想いを3年目にも繋げていってほしいです。
また「1年目、2年目でつくった校則を検証してより良くしていきたい」という思いも生徒たちにはあるようです。生徒たち自身から生まれる思いを大切にしながら、3年目以降もよりよい活動となるよう進めていきたいです。