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【インタビューVol.3】全国100万人のヒーロー」~最強の支援者は役場にいる~

福岡県の糸島市役所に努める岡祐輔さん。公務員ながらMBA(経営学修士号)を取得した異例の経歴の持ち主である。今回のインタビューでは等身大の岡さんの姿が見ることができた。今のキャリアに至るまでには、コンプレックスとの戦いや数々の挑戦があったという。

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◆岡 祐輔
2003年に福岡県糸島郡二丈町(現糸島市)に入庁。民間の経営手法を公共経営に取り入れるべく、仕事をつづけながら九州大学ビジネススクールでMBA(経営学修士号)を取得。新駅誘致や特産もずくのブランド化など活躍は多岐にわたる。2016年度地方創生政策アイデアコンテストで地方創生大臣賞受賞。



1.挫折と決断の過去

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――― まず岡さんの人物像をお聞きしても良いですか? ―――

岡さん
「あまり性格について言われることは無いんですが、そんなに強い人間ではないかなと個人的には感じています。でも、自分を助けてくれる人は常に周りにいたかと思います。これはエピソードを聞いて頂いたほうがイメージがつきやすいかと……」

――― なるほど、ぜひ聞かせてください。 ―――

岡さん
「ちょうどあなた達と同じ年齢の頃、僕は大学を辞めたんです。それが惨めというか周りに遅れた感じというか。誰に会いたくもなかったですね。役場で働くという選択肢も、その時に別の役場で働いていた友人を見て考えるようになりました。それも彼に助けられたような感覚でしたね。」

――― そうなんですね。大学を辞められたそのときはいわゆる黒歴史というものになりますか? ―――

岡さん
「黒歴史は大学に入る前の予備校時代にもありますね。家にいるのも嫌になっちゃって、友人の家に転がり込んだり誰も自分を知らない街に行ったり。漫画喫茶に家出とかもしました。」

―――高校時代から葛藤のようなものは感じられていたんですね。そのときの経験は現在コンプレックスのようなものに感じられますか? ―――

岡さん
「学歴に関してはコンプレックスに感じています。ただ、特にコンプレックスに感じているのは当初受験予定だった医学部をやめて歯学部にしたことですね。これは後に大学を辞める理由にもなりましたし。そこで後悔して以来『難しい道』を断らないようになりました。」

――― なるほど。それは政策コンテストでの表彰などを経てスーパー公務員の呼び声を受ける今でも変わりませんか? ―――

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《地方創生担当大臣賞を授賞した際の様子》

岡さん
「今の道で良かったとは思います。ですが後悔をすることもやはりありますね。それと、年齢を重ねるとできなくなることも、周りに優秀な人も増えるので、コンプレックス自体は少しずつ増えていきますよ。それこそインタビューを受けても話がまとまらないとか(笑)」

岡さんはその実績から想像するよりも物腰が柔らかく、大変謙虚な方であった。しかしその背景には誰もが抱えうるコンプレックスも存在していた。それでも岡さんが地方で輝く人である秘訣はどこにあるのか。私達は質問の対象を就職後の岡さんへシフトさせた。


2.役場の生きがいを見つけて

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《糸島のブランドもずく "ふともずく"》

――― では就職されてからですが、最初はどのようなお仕事をされていましたか? ―――

岡さん
「はい。実は役場って窓口なんかの研修がなく、いきなり実践で現場に立つんですね。もう全くをもって役場の仕事に無知な状態で。自分への個人的なクレームもありました。その頃は誰かに助けてほしいと毎日心の声で叫んでいました。今思うとそれも自分の少し弱い点でした。」

――― 辞めたいと思われたりすることは?…… ―――

岡さん
「ありましたよ。でもそんな時に他の課の先輩が声をかけてくださったんです。『目の前のことを精一杯していれば大丈夫、周りは見てくれている。そんな姿が信頼を集めてきているぞ。』ってね。これを聞いたときにとにかく一生懸命に日々を過ごすことに決めました。朝早く登庁して掃除してみたり電話対応も積極的にしてみたりして。他人の仕事を奪う勢いで挑みました(笑)。」

―――仕事を一生懸命にこなす上でやりがいは必要不可かと思うのですが、それはどのように見つけられましたか? ―――

岡さん
「まず役所に入ることでとにかく様々な人と知り合うことができました。その中で一生懸命に仕事をすることで自分を頼ってくださる方や必要としてくださる声が増えたんです。それがとにかく嬉しくて。その際に役場職員が公務員の中でも最もお客さんの近くで寄り添うことができると気付いたんです。それがやりがいになっていましたね。」

――― 経営学を学ばれてMBAまで取得されておりますが、それもやりがいに動かされての挑戦だったのでしょうか? ―――

岡さん
「その頃はちょうど民間経営の考えが行政に応用され始めていた時期でした。私も実際に経営学の本を読んで、これから必要になるとすぐに確信しました。独学で本を読んでは仕事で試していました。『自分の力をもっと発揮したい』というでも挑戦心によるものも大きかったと思います。」

就職直後には迷いもあった岡さん。それを先輩の声と気付きから一生懸命な姿勢とやりがいの好循環を生み出して乗り越えて来たことがわかった。しかし話を聞いていくに連れて岡さんが持つチャレンジャーな側面も見えてきた。

3.挑戦

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《経営学を活用して地域にアプローチする》

――― 挑戦心ですか ―――

岡さん
「そもそも僕はやり始めたら一番を目場してみたいと思ってしまうんです。一番になれる可能性は低いと理解していますが、それでも目指してしまうんです。」

――― なるほど、挑戦心が必要ですね。 ―――

岡さん
「はい。そして一番を目指す上では他の人がやっていなくて自分にしかできない分野を見つけることが大切だと思っているんです。誰も知らないゼロの世界に飛び込むというか。」

――― 挑戦的でもあり、なおかつ戦略的でもありますね ―――

岡さん
「はい、それこそ戦略的なことを考えるのは好きでしたね。そういう視点で他の自治体を調べると、進んだ行政サービスで街を変えつつある役場もあったんです。その時自分の力で街すらも変えられると実感して。そのためにどこへ行っても活かすことができる”力”を身につけたかった。」

――― その上で出された結論が…… ―――

岡さん
「はい、MBAでした。しかし高卒で役場に入庁したのですぐにMBAを取得はできなかったんです。なので役場で働きながらまず通信制で大学を卒業しました。」

――― かなりハードだったのではないですか? ―――

岡さん
「はい。進学費用は自費で用意しましたし、寝る時間を削るのは当然でした。休憩中や移動中も、とにかく時間があるときは勉強していましたね。」

――― その時の岡さんの原動力は何だったのでしょうか ―――

岡さん
「とにかく僕は地域にしか興味が無かったんです。そして挑戦をしていたいが故に現状維持の逆が楽しみな人間です。要は自分でまちづくりをしたかった。」

岡さんが秘める戦略と挑戦心。それが興味と合わさって関わる地域に大きな影響を与えてきたことがわかる。そんな岡さんが《軸》とするものには、岡さんの地域への思いと熱意が込められていた。

4.岡さんの軸とは

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《人材育成や執筆活動にも力を注ぐ》

――― なるほど。大変興味深いです。では今までの話を踏まえて岡さんの軸を教えてください。 ―――

岡さん
「地域の支援者になる、ですかね。いつも地域や、そこの人の役に立つ人でありたいです。」

――― なるほど。その想いが地域を今後どう変えていくのか気になります。 ―――

岡さん
「地域の人材を育ててつつ自分のスキルを残していきたいという気持ちもあって、講演や執筆活動等も積極的に挑戦しています。若い人とのコラボにも興味があって、学生の方々との関わりも大事にしています。若者と地域が繋がっていってほしいと願っています。」

――― そういえば岡さんは政策コンテストで全国1位に輝いています。次は…… ―――

岡さん
「世界1位も目指しています(笑)」

そう言って笑っていた岡さん。だが、もちろんその目は本気だった。苦しい時期を地域で乗り越え、挑戦を続けてきた岡さんの強い思い。実際に岡さんが勤める糸島市の成長は勢いを増している。その評価が世界からなされる日もそう遠くはないのだろうと思った。

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《糸島はイギリスの情報誌にて「輝く小さな町」として世界3位に選定されている》


5.インタビュアーの感想

 私は「公務員」という仕事に対して偏見を持っていた。仕事はマニュアル通りで挑戦なんてできない、そんな偏見だ。だが、そもそも役場のマニュアルにMBA取得などあるはずがないから岡さんの来歴を読んで偏見は壊された。
 その一方で岡さんは、挑戦心とそこに繋がる大きなやりがいを役場で見つけていた。自身を含む役場職員を「最もお客さんの近くで寄り添える」公務員だと表現している点にそれは感じられる。そこから岡さんは勉強してスキルを身につけ、街を自ら作るという更なるやりがいを得た。
 これらのことから私が感じたのは「公務員の底知れぬ可能性」である。みんな(地域)のために挑戦する、まるでヒーローのような存在に岡さんは見えた。でもその肩書は社長でも、アイドルでも、流行りのユーチューバーでもない。
 いま全国には約100万人の役場職員がいる。この全てが挑戦を始めたら日本はどうなるだろうか。地方ヒーロー乱立時代である。ただ、そんな未来になったら楽しいと思うのは私だけだろうか。 

6.岡さんからのメッセージ

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 これからの地域の発展は、いかに地域が寛容になって、多様な人材を受け入れることができるかにかかっていると思います。当たり前に考えて、鎖国みたいに排他的な地域が、生き残れるとは思えません。日本の医学が発展したのも、長崎に出島があってオランダの技術を取り入れたことがきっかけです。
 人生で選択肢を多く持っている人が生きる力が強いように、移住者、起業者、学生など多様な人材が地域で能力を発揮できる状態を作り出すことで、地域も発展できると考えています。これからは、このような地域の支援が、自治体職員が担う重要な役割になるでしょう。
 今回取材していただいた、大学生の皆さんのような方々が、地域で活躍できるような雰囲気づくりや仕組みづくりに挑戦していきたいです。


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 《インタビューの様子》

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