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【辻政信氏の調査考察】2024.4.2『亜細亜の共感』読解

現在、辻政信氏の理想形成と東亜連盟への参加の経緯を、
『亜細亜の共感』から追っています。

私は、辻氏の文章を読み、
若い彼が世界の実像を見るにつれ、
故国を構成する人々への不信感と、
宣伝を鵜呑みにして悪印象を抱いていた敵国(中国)人への見直しとが、
その心中で積み重なっていったらしい
ことを感じとりました。

その後、辻氏は昭和8年の
「新疆省方面のソ連の進出状況を視察する計画」
というものに自ら志願して、
中国大陸視察の旅に出、現地人との交流を経て、
協力を得た中国人の「真心」に感激するという経験をされたようです。

眼を開く

辻氏はその旅行を終え、
二・二六事件によって国内の一部軍人の腐敗を再確認した後、
東亜連盟を指導した石原莞爾将軍と対面する機会を得ます。

本書の中では、
石原将軍の提唱する満州國建設に対して、
教えを乞う学生のように、辻氏が質問を持参した様子が見て取れました。

二・二六事件の直後、関東軍参謀部付に補せられた。
夢にさえ見た大陸に、正式に職を奉ずるとは思いがけもない幸せである。

新疆旅行の翌年八月、参謀本部から陸士の中隊長に転出した。
叛乱前夜の切迫した空気の中に、櫻会以来、
いわゆる革新派将校なるものの正態に、愛想を尽かしていたので、
せめて市ヶ谷台の生徒達だけでも、
このような不純な陰謀の手先から護ろうと覚悟していたが、
明らかに台上に触手を伸ばしつつある確証を握ったので、
その防止に身を挺したのは、二・二六事件の一年前であった。
時に利あらず、却って「生徒の指導を誤りたる科」との理由で、
重謹慎三十日に処せられ、満罰と同時に水戸連隊付となり、
一年の間、世の中の事を忘れて、
ただひたすら青年将校と共に、本務に精進している時、
不幸にして一年前の預言が的中し、未曾有の叛乱事件が起きた。
この事件により、初めて過去の黒白が明らかにせられ、
被告の立場から、原告の立場に帰った訳である。

………

軍司令官植田大将は、上海事変の師団長であり、
板垣参謀長は石原将軍とともに、心から尊敬する人であった。

恵まれた上官の下に、
任官以来夢にも忘れなかった大陸に、
宿願達成の第一歩を踏み出したのである。

「だがしかし、満州国とは一体何物であろう?
 独立国であろうか?
 ともすれば日満一体不可分とは何事であろう?
 日本と不可分ならば、日本の一部にちがいない。
 独立国という事は、日本の外にある事だ。」

明らかな論理の矛盾を如何に解すべきか?
着任後、金庫の内部に深く蔵されていた機密政略日誌、
及びその他の資料を、紙背に徹する眼で熟読した。
この資料は、主に事変当時の片倉参謀が丹念に記述したものであり、
満州帝国の成立に至る経緯が詳しく、赤裸々に綴られてあった。

(1)國防、外交、内治の実権を、
 日本軍、日系官吏が握り、果たして満人は満足しているのだろうか?

(2)実質的には完全に日本人が領導しつつ、
 敢えて独立国の看板をかけるのは果たして正しいか?

(3)条約に基づく各種の特権(治外法権、附属地行政権等)を
 近く放棄するというが、可能であろうか?

(4)協和会は政府の従属機関であろうか、
 然らずとせば対立機関であろうか、一元政治か二元統治か?

(5)満州國軍育成の根本はどうか、強大にすると叛乱の虞れはないか?


(6)将来北支にも、中支にも、
 このような國を次ぎ、次ぎに造って、日本と一体不可分にするのだろうか?

等等の疑問が湧然として起こった。

この疑問に対し、明確な答解を与えて下さった人は、
今は亡き石原莞爾将軍(当時大佐)であった。
(否、将軍以外には何人も見出し得なかった)

着任後陸軍省方面との連絡の任務で上京した時、
当時参謀本部の作戦課長であった石原大佐から、偕行社で約半日に亘り、
次いで自宅に呼ばれて、噛んで含めるように諭された。

辻氏はこの、噛んで含めるような説諭に心を動かされたようです。

辻氏はそれまで、
火急の用と焚き付け煽り
多くの人を巻き込んでおきながら
発信者の利益のためでしかなかった喧伝の数々を、
苦々しく思いながら見てきていたのではないでしょうか。

石原将軍から説かれた内容は、
辻氏が今までに耳にしてきた喧伝とは打って変わった
高い次元で世界を見たものだったのだと思います。

石原参謀といえば戦争の神様であり、
鬼でも取って食う人かと考えていたのに、
之は又どうしたことであろう。
心から満州人を愛し、
懸値なく民族協和の精神を実践し、信奉してをられる。

眥を決して、満州を取らねば英霊に相すまぬとばかり考え、
地図を日本と同色で塗り潰した過去の考えが
如何に幼稚なものであったろう。
穴があったら入りたいようであり、
顔から火が出るように感じた。

今までに多くの上官や先輩に接したが、
階級や職務を越えてこんな事は初めてであり、又終わりでもあった。
この石原さんに会うと、自然に襟を正すような気持ちになった。
眼を細くして、ニヤニヤ笑われると、
心の底が見透かされているように感じた。

先覚の導師によって物の見方が、
中国、満州、東亜に対する考え方が、
権益思想から道義思想へと、
百八十度の大転換をするに至った。
見識の相違は、こんなにも恐ろしい力を持っているものであろうか。
満州を取ろうと考えていた事は、
治外法権を固持すると同様の低見に過ぎなかった。
石原将軍に遭わなかったら、
恐らく終生、強権的、侵略的思想の俘囚となり果てたであろう。

林連隊長、空閑少佐、石原将軍との交流が、
辻氏を「東亜連盟」の理想に導いて行ったようです。

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流記屋
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