〈ひろば〉のいちばん広い場所
〈ひろば〉のいちばん広い場所
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東久留米のカフェ「ひろばCafe」さまを舞台に書いたお話です。許可をいただいたので、公開します。
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ひろば、といえば、大抵は広い場所のことを指すものである。平らかで、地域のシンボルを際立たせたり、集会場になったりする、そういう場所だ。が、ここに関しては、もっと広い……いや、「深い」。深い意味での〈ひろば〉である。
と、当の〈ひろば〉は満足げに思いつつ、今日も開店。
店員がガラス戸を開くと、コーヒーの香りと秋晴れの空気はとたんに溶けあいはじめる。〈ひろば〉は、カフェとしての誇りと気品をもって街道を眺めた。
定食屋、郵便局、雑貨屋など、同じ道沿いにはいくつもの顔がある。それらはみな、それぞれ固有の顔をもって、行き交う人々を、鳥を、犬を眺め、猫を愛し、ときおり客として迎え入れる。
その点、〈ひろば〉は心持がちがった。
〈ひろば〉はカフェであるが、それだけではない。食堂。劇場。稽古場。雑貨屋。ゲーム屋。絵の展示会場。マッサージ屋。あとは……朗読会の会場。いいや、数え上げても仕方がない。〈ひろば〉はいくらでも顔を持っている。訪れる人に合わせて、カフェならカフェ然と、劇場なら劇場然とした佇まいを見せる。つまりは、演じる、ということに長けていたのだ。
とはいえ、たいていの日の始まりは、カフェとして迎える。焙煎はすでに十分、ドーナツやケーキ類の準備も万全。そこにいるのは店主だったり、別の店員だったりするもので、カフェには必ず誰かがいる。
やがて、最初のお客がやってくる。
それは決して人とは限らない。
〈ひろば〉は、人間でないものにも応じて見せる姿を変える。
「やあ、来たよ」
今日最初のちいさなお客に、店員はまだ気が付いていないようである。無理もない。ちいさなお客は、すでにカフェとは違う姿の〈ひろば〉に足を踏み入れていた。
やわらかな薄緑色の草を、その地に羽毛のようにのばした、広い、広い草原へと。
お客のハリネズミは、草原に集まった秋風を一身に引き受け、土を踏みしめていった。小麦粉のついた足跡のような、乾いた雲が、高い空にいくつもこぼれていた。
「いらっしゃい、チューホフ」
〈ひろば〉は草原の顔をして応じる。チューホフというのはハリネズミの名前である。どこかの劇作家によく似た名前をもつ彼は、よく〈ひろば〉に言ったものだ。
「ひろばさんは、本当にすばらしい役者だよ」と。
〈ひろば〉にちいさな劇場が作られ、演者が集うようになったのと、ハリネズミが現れたのと、果たしてどちらが先だったか定かではない。が、少なくとも、〈ひろば〉が役者である、と〈ひろば〉自身で知ったのは、彼らがいたからだ。〈ひろば〉には、カフェや雑貨屋の営業時間を終えたあと、休業の日でも、人が集い、物語を生み出そうとする力が満ちていた。それが、〈ひろば〉は何より心地よかった。
「やっぱり、ここは落ち着くなあ」
チューホフはさっそく草原の上に寝転がった。小さな手足を思い切り伸ばし、棘のないおなか部分を空気にさらしている。
「そりゃあ、君のために用意した役だもの。どう? うまくなったでしょう」
「最高だよ、欲をいえば、もう少しごはんになる虫がいてくれたらいいんだけどなあ」
「無茶言うなって。私は場所にしかなれない。動物のいそうな感じを演じることはできるけどね」
「冗談、冗談。君には本当に感謝してるんだ。昼間に安全な場所にいられるっていうのは、とてもありがたいことだ……」
言い終えるのも待たず、チューホフは寝息をたてはじめた。
ハリネズミは夜行性であるというのは、出会ったばかりの頃に教わっていた。
「広い草原で、何にも襲われる心配なく、ゆっくり眠ってみたいものだよなあ」
〈ひろば〉が草原を演じる前、チューホフはカフェのテーブルで丸くなりながら、ひとりごちていた。役者の才能を見出してくれた彼に、せめて心休まる草原を演じてやりたいと、練習を始めたのはその夜からだ。
今では、季節に合わせて花を咲かせることも、風を吹かせることもできる。
ある日、チューホフは何やら急ぎ足で〈ひろば〉にやってきた。
「おうい、速報だぞ」
カフェは臨時休業。今日は役者が稽古をしにくることもなく、中は無人だった。〈ひろば〉には、いつになく目の覚めた顔をしたチューホフがいるのみ。
「どうしたんだよ、夜みたいな顔をして」
「だから、速報だって。聞いてくれ。今度、人間の赤ちゃんが見えるらしいよ」
「人間の?」
赤ちゃん!
〈ひろば〉は胸躍る心地だった。冬の草原に、うっかり春の花でも咲かせてしまいそうなほどだ。
「へえ、君も、赤ちゃんって聞くとあわてるんだな」
「どういう意味さ」
「もうずっと長いこと、場所をやっているんだろう? 見慣れたものだと思ってたからさ」
「それは……」
〈ひろば〉は、ここにカフェができて、人が集まるようになるずっと前から、そこにあった。今までだって、生まれたばかりの赤ちゃんを迎え入れたことは何度もある。
だけど思い返してみれば、確かに、そのたびに心は弾んでいた。
「赤ちゃんに慣れることなんてないよ。新しい命だぞ! まだ何にも慣れていないまっさらなやつだ。こっちだって慣れないよ」
「なるほどね」
「わかるんでしょ?」
「そりゃね。だから速報だ。でもそれだけじゃない」
「なんだ?」
「だって、君は、いつもやってくる人に応じて役を変えているんだろう?」
チューホフの言わんとすることがわかり、〈ひろば〉の浮足立つ気持ちは、ふっと草原に着地した。
「つまり……」
「そうだよ。君は、赤ちゃんをどんな顔で迎え入れるつもりだい?」
〈ひろば〉は黙り込んだ。そよ風をくるくると巻きながら、チューホフとの会話も忘れてしばし考え込む。
やってくるお客は、たいてい何か目的がある。コーヒー、ケーキ。劇の公演。店員と話すこと。あるいは、目的なく入り込める場所。それだって目的と言える。
じゃあ、赤ちゃんなら?
何を〈ひろば〉に求めるだろう。
「……ちょっと考えてみるよ。赤ちゃんはいつ来るんだい」
「それはまだわからない。何でもカフェの常連さんのところに生まれたみたいでね、今度一緒にお邪魔します、なんて言ってるのが聞こえたんだ。でも、早めに覚悟しておいた方がいいかと思ってね」
「ありがとう、チューホフ。でもそういうからには、何かいいアイデアがあるの?」
「そうだなあ。僕は、この草原に迎えてあげたらいいと思うんだけどねえ」
「ううむ」
名案かもしれない。生まれたばかりの子どもなら、人でないもののために演じている顔だって受け入れてくれるだろう。見たところ、チューホフも赤ちゃんに興味を持っているみたいだし、二人が草原で会えたら、それは楽しいだろう。
だけど、待てよ? 赤ちゃんは、ひとりで来るわけじゃない。大人が一緒に来るはずなのだ。そうであれば、草原に招き入れることは少々難しい。
伝えると、チューホフは残念そうに目を細めた。
「ここで遊べたら気持ちよかったろうになあ」
とにかく、これは〈ひろば〉だけで抱えられる問題ではなさそうだ。
また別の日。〈ひろば〉には、劇団の子どもたちが集まっていた。
〈ひろば〉は稽古場を演じながら、子どもたちが休憩する隙に、相談を持ち掛けることにした。
「え? 赤ちゃんをどんな顔で迎えようかって?」
学校のテストの話などをしていた子らは、〈ひろば〉の相談に、いっせいに首をひねった。
「劇場や稽古場じゃダメなのかな?」
「赤ちゃんが求めている場所になりたいんだよ」
「そっか、それなら、やっぱり劇場がいいよ!」
ひとりの女の子は、高らかに言った。
「ちいさな劇場。楽しくて、わくわくするようなお話を用意しておけば、きっとよろこんでくれるよ」
なるほど、なるほど。それはきっと楽しいひとときになる。楽しませようとする気持ちで迎え入れればいいわけだ。子どもたちも繰り返し頷いている。協力してくれるつもりなのだ。
だけど……。〈ひろば〉自身の気持ちは固まらなかった。
〈ひろば〉が唸っている間に、移り気な子どもたちの会話は別の方に逸れていった。
また別の日。カフェの入り口に雑貨を納品しに、ひとりの作家があらわれた。〈ひろば〉は、半分くらい雑貨屋の顔をしながら、相談を持ち掛けた。
「赤ちゃんの迎え方かあ」
作家は顎をさすりつつ、持ってきた新しい雑貨をそっとなでている。ビーズや布素材を品よくとりいれた、イヤリング、ピアス。売り場に並べると、ガラス戸から差し込む光を正しく受け取って、どんなに小さな雑貨でも堂々として見える。
「ここの売り場は、小さいけど、子どもに合うものもたくさん用意できると思うよ。そうだ、新しい何か、作ってみようか!」
「ほんとうに?」
「もうすぐ寒くなってくるから、赤ちゃんサイズの毛糸の帽子なんてどうかな? 赤ちゃんサイズのアクセサリーもあったらかわいいだろうけど、口に入れると危ないしねえ……、どうにかうまいことできないかな」
作家は作るものの想像に入り込んでいきそうで、〈ひろば〉はあわてて口を挟む。
「そしたら、雑貨屋でいるのがいいんじゃないかってこと?」
「そうねえ、小さいおもちゃを入れるポーチがあってもいいかもしれないね」
作家はうっとりと目を閉じて言った。
また別の日。〈ひろば〉はゲーム大会の会場を演じていた。店内奥には、さまざまなカードゲーム、ボードゲームがならんでいる。集まった人々はゲームを取り囲み、ゲームに取り囲まれながら、にぎやかな様相だった。劇が演じられる時とはまた異なる熱気! 勝ったり負けたりすることを、〈ひろば〉も楽しんでいた。
今日の優勝を勝ち取ったらしい男の人が、拍手をうけて照れくさそうにしている。〈ひろば〉は今日も相談を持ち掛けるタイミングを探していたが、気づけば楽しむことに夢中で、ようやく話し出せたのは、みなが帰り支度を始める頃だった。
「赤ちゃんかあ、おめでたいね!」
「もう生まれたのかな? これから?」
「それで、遊びにきてくれるんだって?」
「何? 赤ちゃん?」
子どもも、大人も、そろって手をたたいて喜んでいる。
「で、悩みっていうのは」
「どんな顔をしていようかって?」
「そんなの、いつも通りでいいでしょう」
金メダルをさげた男の人が言った。
「みんなで楽しく遊ぶ場所! これほどいいものはないよ。ルールがわからなくたっていい。ここには遊ぶために作られたものがこんなにたくさんあるんだ。楽しく迎え入れよう」
「さんせい!」「さんせい!」
なるほど、確かに、ゲーム売り場としての〈ひろば〉は、まさしく遊ぶための場所である。
〈ひろば〉はひとりひとりにお礼を言いながら、帰っていく人々を送り出していった。
こうして、いろいろな顔でいろいろな人に尋ねてもなお、〈ひろば〉は決めかねていた。
草原にチューホフを招き入れながら、つい、ため息がこぼれる。
「なに、まだ悩んでるのか?」
チューホフは寝ぼけ眼でいながら、〈ひろば〉のため息を聞き逃さなかった。
「そりゃあ……悩むよ」
「今までに赤ちゃんが来るときはどうしていたんだい?」
「思えば、親御さんに合わせてばかりだったよ。赤ちゃんが求める場所なんて、そりゃあ、その腕の中に決まってるんだから、私は親御さんが落ち着ける場所でいるようにしていたんだ」
「なあんだ、答えは出てるじゃないか」
「だけどね、君が速報を持ってきてくれてから、考えるうちに……欲が出てしまったんだよ。私も、赤ちゃんのための場所になりたい。しかし、誰に相談してもしっくりとくる答えは生まれなくてね」
「欲、ねえ……」
チューホフはまた目をつむる。
しばし、草原には沈黙が流れた。風が吹く。風は、〈ひろば〉に眠るさまざまな記憶をくすぐっていった。
そう。赤ちゃんが訪れたことは、今までにも何度もあった。
だけど、そこにはつらい思い出がいくつもあったのだ。
まだ、〈ひろば〉がカフェではなく、まわりの店もなく、今の店主が生まれるよりもずっと前のこと。町は今ほど整っていなくて、コーヒーなんて、ケーキなんて、一杯のごはんですら、とても手が届かなかった頃のこと……。
〈ひろば〉は、長い年月をかけて、既に知っていたのだ。
場所は、場所でいるだけでは人を助けることができない、と。
言葉もまだろくに覚えていない命を、いくつも看取ってきた。
なすすべもなく。ただ看取ってきたのだ。
ああ、これ以上は、思い出してはいけない。
心が乱れそうになりながらも、〈ひろば〉は、チューホフのためにおだやかな草原を演じていた。
役者としての自負もまた、長い月日をかけて育っていた。
ガラス戸が開いた。
ひとりの店員が、カフェの準備をするべく、カウンターに入っていくのがわかった。〈ひろば〉はあわてて、カフェの顔をつくろうとする。いつのまにか、開店時間になっていたらしい。チューホフもいなくなっていた。
店員はエプロンをつけ、伸びをし、冷蔵庫を開け、ケーキの支度を始める。
そういえば、カフェの店員に、まだ相談をしていないじゃないか。
「ねえ、もしもし」
声をかけると、店員は手を止めた。
「ん? その声はひろばさんだね。どうしたの?」
「常連さんのところの赤ちゃんは、どうなったんだろう。そろそろ来るのかな」
「ああ、やっぱり知ってたか。無事に生まれたそうで、来週には遊びに来てくれるそうだよ。男の子だって!」
「来週!」
もう、そんなに日が迫っていたのか! 〈ひろば〉は焦りを隠して、カフェの顔を崩さないようにつとめた。
「楽しみだよねえ」
「うん……だけど、悩み事もあって」
「悩み事?」
店員の物腰はやわらかで、カフェの空気そのもののようだ。〈ひろば〉は滑らかに話していく。
「赤ちゃんがやってくると聞いてから、どんな顔で迎え入れようかと悩んでいたんだ。劇場、雑貨屋、ゲーム売り場、いろんな意見ももらった。君はどう? やっぱり、カフェがいいって思う?」
「ううん……そんなに難しく考えなくてもいいと思うけどねえ」
そう言いながらも、店員は難しい顔で考えはじめた。
「強いて言うなら、カフェかな」
店員はドーナツの生地を作り始める。ボウルの中で生地をかき混ぜる音が、〈ひろば〉の心音そのものになっていく。〈ひろば〉はこの瞬間が大好きだ。
「それは、どうして?」
「わたしの考えだけど、カフェって、とても安心できる場所だと思うから」
「安心?」
「うん。赤ちゃんには、いつでも安心して生きていてほしいもの。お母さんやお父さんに抱かれながら、おうちにいるみたいな安心感。カフェならそれを作れるわ」
なるほど、なるほど。確かに、カフェは安らげる場所だ。店員の言うことも腑に落ちる。
それに、〈ひろば〉だってそう思っていたじゃないか。安心できる場所……。
だけど、赤ちゃんが心から安心できる場所を、本当に演じることなんてできるんだろうか。
未来には希望があると、そう言い聞かせられるような、家のような場所。
家……。
「あのね、ひろばさん」
黙り込んでしまった〈ひろば〉に、店員が声をかけた。ドーナツを焼く甘い香りがたちのぼっていた。
「無理に演じようなんて、思わなくていいんだよ。ひろばさんは、ひろばさんの心で、赤ちゃんを祝福したいと思っているんでしょう? それなら、まずはひろばさんが安心できなきゃ。そういう場所じゃだめ?」
言葉のひとつひとつが、甘い香りと一緒に、壁や、床、空気に染みこんでいく。
店員との話で、ようやく、答えらしきものが出ていた。
世界のすべてが、幼い命の「家」のような場所であるように。
世界の片隅の、ちいさな〈ひろば〉が、まずは、ひとりの赤ちゃんの「家」になることはできるだろうか。
それは、お客に合わせて作る顔ではなく、〈ひろば〉自身がずっと求めていたものだった。
あの時も、あの時も。
ここなら安心だよ、と言いたかった。
「……ありがとう。ようやくわかったよ。だけど、そういう場所を作るためには、やっぱり、私だけじゃ無理だ。場所は、そこに集まる人たちのおかげで、広く、深くなっていくんだもの」
「お役に立てたなら何よりよ。わたしも全力で協力するね」
店員がにこりと笑った時、お客がひとりやってきた。〈ひろば〉も店員も、自然とカフェに潜り込んでいく。
また、日常が始まっていく。
「それで、どうだった? 赤ちゃん」
「小さかったよ」
「そんなことはわかってるよ。かわいかったんだろ?」
「チューホフもくればよかったじゃないか」
「人がたくさんいるところは行きづらいよ。で、君はどんな顔で迎えたの?」
〈ひろば〉はもったいぶって、草原に風を吹かせる。
「なんだよ」
「ぜんぶだよ」
「なんだって?」
「ぜんぶさ。カフェも劇場も稽古場も、ゲーム売り場も、雑貨屋も、ぜんぶ。この場所に、みんなが与えてくれたものぜんぶで迎え入れたよ」
「なんじゃそりゃ」
チューホフはあきれながらも、背中の棘をやわらかくして、笑っているようだった。
〈ひろば〉は満足していた。
訪れる人みなに相談をして、そのたびに、違う案をもらった。そこには、決まって同じ気持ちがあることに、〈ひろば〉は気づいたのだ。
新しい命を、祝福し、歓迎する気持ち。
これだけの人たちが、これだけの場所で、赤ちゃんを歓迎しようとしてくれたこと。〈ひろば〉だけで、何軒の「家」ができるだろうかというほどに。
どんな〈ひろば〉にも、帰ってきていいのだと。そう、伝えたくなったのだ。
「ま、僕はこの草原に来られれば、それで十分なんだけどね」
「私も、チューホフのために草原になるのは好きだよ」
「どんどん役者がうまくなるねえ」
「よせやい」
〈ひろば〉は照れ隠しに、チューホフの白いお腹を軽くくすぐった。
場所は、場所でいるだけでは何もできなかった。だけど、そこに、人々が思いを持ち込み、物を置き、建物を建て、営みを始めた。それが続いている。場所は〈ひろば〉になり、〈ひろば〉はもっと、深く、広くなっていくことだってできるだろう。
そして、そのころには……赤ちゃんがもう少し成長するころには、きっと。
また、新しい人が現れて、〈ひろば〉を作っていくのだ。
なんて、チューホフに話したら、笑うだろうか。
「赤ちゃん、また来てくれるといいなあ」
〈ひろば〉はひとりごち、今日もコーヒーの香りを纏い、街道沿いに佇むのだった。
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