虎(とら)は、獣(けもの)偏ではなくて
「虎」は「トラ」で、哺乳綱食肉目ネコ科ヒョウ属の動物ですが、彼らを表す文字は、獣偏「犭」ではありません。
漢字の成り立ちからみると、「けもの」の一種としてのトラではなく、「虎」としてのトラであったことがわかります。
漢字「虎」の起源と由来:完璧な猛虎、象形文字
asia-allinone.blogspot.com より
「虎」の漢字は、「とらがしら」と呼ばれる「虍」の字に二本足をあらわす「儿」が組み合わさっています。
漢字の成り立ちとして、
「虎の頭部(上半身)をつけた二足歩行をするもの → 虎」
という説明をしているものもあって、そういえば、虎とか猫って招き猫のような座り方をして、前足が手のように動きます。
私の一番好きな虎の絵がこちらの長沢芦雪の虎図・龍図襖の「虎」。
紀伊半島最南端の串本にある無量寺の襖絵です。
虎といえば、龍虎図として襖絵や屏風絵が多くありますが、龍と並んで描かれるのは、何か特別な力を持つものと考えられていたのでしょう。
中国の『易経』の、六爻皆陽、純陽の「乾」(けん)の「文言伝」(奥義の説明文)のところに
雲從龍、風從虎
雲は龍に従い、風は虎に従う
とあって、乾という「天のはたらきが健やかでやむことがない」状態の、雲と風の「源」として、龍と虎を挙げています。
また、のちの宋の時代にできた禅宗の語録の『碧巌録』(へきがんろく)には
龍吟雲起 虎嘯風生
龍、吟(ぎん)ずれば、雲起こり
虎、嘯(うそぶ)けば、風生ず
とあって、龍と虎を主語にして雲と風との関係を述べて、天の雲と風を動かす存在としての龍と虎にフォーカスしています。そして、この言葉を画意として、多くの龍虎図が禅画として描かれることとなりました。
長沢芦雪の虎図・龍図襖(紀州 臨済宗東福寺派 錦江山無量寺)
絵を見ると、虎のほうは、風を表すために笹が一緒に描かれ、龍のほうは、雲が一緒に描かれています。
「龍吟雲起 虎嘯風生」の「吟ず」と「嘯く」。
どちらも声を出すことを表しますが、それぞれ声を出すときの口の状態が異なるようです。
吟・・・口を閉じて、口の中で声を長く引く
[声が籠って雲のように広がる感じ]
嘯・・・口をすぼめて息を吹きながら声を長く引く(口笛のように)
[声が風のように筋となって進む感じ]
天気においては、雲は雨を呼び、風は晴れをもたらします。つまり低気圧と高気圧ですが、この低気圧と高気圧の渦巻きは、どちらも同じ形をしていて、高気圧は外側に向かって巻いてゆき、低気圧は内側に向かって巻いていきます。
(これは、着物の巻き方と同じです)
高気圧の様子(晴)
低気圧の様子(雨)
この風の渦巻きは、北半球では「外向き=右向き」になり、「内向き=左向き」になります。一方、渦巻きの巻きの方向を表すときは、「右に廻る」「左に帰る」といいます。
廻:ものの外側をまわる(外へ出ていく)外向き&右向き <高気圧> 虎(風)
帰:本来の位置にもどる(内に戻っていく)内向き&左向き<低気圧> 龍(雲)
このように『易経』の「乾」で虎と龍が天気の「天の気」の源と考えられていたことと、大気の流れの状態とが対応できます。
さらに『易経』の同じ部分には、「同聲相應、同氣相求。・・・則各從其類也」(声が同じものは相応し、気が同じものは相求む。・・・則ち各々その類に従うなり)とあって、
古代の人が、虎の声の出し方と風の様子が似ていて、龍の声の出し方と雲の立つ様子が似ていると考えた(類推した)ことが伺えます。
長谷川等伯の「龍虎図屏風」(ボストン美術館所蔵)
この虎の様子は、まさに「虍」(とらがしら)に二本足の「儿」ですね。
* 雲從龍、風從虎 *
だから、阪神タイガースは「六甲おろし」。
***