ディア・デイジー⑤
アリアの丘
デイジーの花が一面に咲いている。
その中にジョセフィーヌがしゃがみ込み、デイジーをつんで、横に置いたカゴに一本ずつ丁寧にさしている。
そのすぐそばにエドガーもいる。
少し離れた木陰に、アメリがバスケットを横に置き木にもたれ座り、本を開いたまま、今にも目が閉じそうに、頭をゆらしているが、はっとして顔を上げジョセフィーヌを見て、大声を出す。
「あんまり遠くまで行かないでくださいよー! 危ないですからねっー!」
ジョセフィーヌ、パッと顔を上げ、アメリを見て大きく手を振りカゴの中をアメリに見せる。
「はーいっ! ねえっ!見てっ! こーんなに沢山のデイジー! 今から花冠を作るのー! 」
「わかりましたっ。私めは・・・ここにおりますのでっ。エドガー! ちゃんとジョセフィーヌ様を見なさいよっ! 」「はい! 」
アメリ再び下を向き、本に視線を送り、そのまま頭をゆるく揺らし、目をだんだんと閉じる。
エドガーとジョセフィーヌ、そんな様子を見て、顔を見合わせる。ジョセフィーヌ肩をすくめ、ぷっと吹き出す。エドガーも微笑む。
ジョセフィーヌ、その場でつんだデイジーで花冠を夢中になって作り出す。エドガー、その様子を見ながら草原に座り寝転がると、両手を頭の後ろで組み、空をじっと見つめる。風が空のキャンバスに、とどまることない雲のデッサンを次々と描いていく。
それを見つめながら目を閉じる。
その顔の上をトンボが飛んでいる。
丘の上を風がどこまでも流れていく。
「ねえ、見て! 出来たっ! 出来たよっ! ねぇっ・・・エドガーったらっ! 」ジョセフィーヌ、顔をほころば花冠を見つめたまま、片手で持ち上げ、もう片手で手招きをするが、返事がない。「・・・ん?」
エドガーの方をみると、微かに寝息を立てるその鼻先にトンボが羽を休ませている。
「あれっ?寝ちゃってる。ねえっ! エドガー。エドガーったらっ! 」
花冠をすぐ横に置き、そっとその鼻先に止まっているトンボを捕まえようとすると、慌てて飛んで逃げていく。エドガー驚き、目を赤くして急に飛び起きる。ジョセフィーヌ、吹き出して笑う。
「うわっ! ジョ・・・ジョセフィーヌ様・・・なっ・・・何ですか?」
「だって。エドガーの鼻の先にトンボが止まってたの。捕まえようとしたら・・・逃げちゃった! 」
エドガー、鼻を押さえる。
「えっ?あっ・・・ああー、何だっ。びっくりしたー!」「さっきね。寝言でママァとか言ってた! 」
そう言うと満面の笑みになると、エドガー顔を真っ赤にする。「ええっ! 」
ジョセフィーヌ、笑いが止まらない。
「顔が赤くなってるー! うそっ。うそだってばっ! 」「とっ、年上をからかうもんじゃ、ありません! 」
「だって・・・エドガーまで眠っちゃうんだもん。」「はぁ・・・」
「ねえねえ、そんな事より、ほらっ、見て! じゃーん! 」
そう言うと花冠を両手で持ち、得意気にエドガーに見せる。エドガー、それを見て笑顔になる。
「あぁっ。上手に出来ましたね。貸して頂けますか?」「・・・うん。」
エドガー花冠を受け取り、ジョセフィーヌの頭上にそっと乗せると、ジョセフィーヌ頬を赤らめる。
「とても・・・お似合いです。」「うん。」
ジョセフィーヌ、肩をすくめ、はにかむ。
「あっ! 」カゴの中から小さな花束を一つ取り出し、エドガーの胸ポケットに入れる。
「これ、あげる。」
エドガー、胸ポケットに入った花束を見て、笑顔になる。「僕にですか?」
ジョセフィーヌ、笑顔になる。「うん! 」
「ありがとう・・・ございます。」
「何か、花嫁さんと花婿さんみたい・・・」
エドガー、慌てた様子で顔を赤らめる。
「なっ、何を言ってるんですかっ! 冗談にも・・・ほどがあります! 」そう言うと目を大きく見開き、頬を膨らませる。「エドガー、面白い! 」
ジョセフィーヌも頬を膨らませ、エドガーに顔を向けると互いに吹き出して笑う。
近くの草むらにいたら野うさぎが驚いた様子で、耳をピンと立て顔を出したかと思うと、慌てて向こうへと逃げていく。
ふいに茂みの向こうから仔犬がやっててきて、2人に向かって吠えたかと思うと、尻尾を振っている。その様子を見て、顔を見合わせた後、子犬を見つめる。
「わんちゃん、どうしたの?どこから来たの?
お母さんは?」「迷い犬ですかね?」
仔犬は森の方を向き、再び2人を見て数回吠え、森に向かって歩き出し、再び振り向き一度吠えて、尻尾を振る。
「この子ったら・・・何か、私達に来てって、言ってるみたいじゃなぁい?」「んー・・・」
ジョセフィーヌ、エドガーをじっと見つめる。
「ねえ・・・ついて行ってみようよ?」
「えっ?この仔犬にですか?」
「うんっ! 行こうよ・・・行こうよ・・・行きたい・・・行きたいっ! 」そう言うと、エドガーの上着の裾をひっぱる。エドガー、ちらりとアメリの方に目をやる。
アメリはまだ気持ち良さそうに眠っている。
「ねぇ。行こうよ。行こうよ・・・エドガー!
すぐに戻って来たらいいでしょ?」
「んー。じゃあ、ちょっとだけ、ちょっとだけですよ?」
「やったー! 」ジョセフィーヌ、仔犬を見つめる。
「わんちゃん! 私も行くから、連れてって! 」
「ワン! 」
ジョセフィーヌ、仔犬の傍に行く。仔犬は森の方を向き、歩き出す。ジョセフィーヌ、花冠を被ったまま、カゴいっぱいのデイジーを抱え、スキップしながら、その後をついて行く。
長い髪をリボンで結いたその後ろ姿が、それに合わせるかのように緩やかに揺れる。その姿を穏やかな瞳で見つめ、エドガーも森の中へと進んでいく。
アリアの丘のはずれ 草の茂みの中
アーサー家の召使い3人が辺りをきょろきょろ見渡している。
「フレデリック様ー! フレデリック様ー!!」
「フレデリック様ー! どこにいらっしゃいますかー!」
召使い同士で大声をだしている。
「おいっ! そっちはどうだ?」
「いえっ・・・まだ・・・」
「もっと探せ! 」「はっ! 」
つづく
登場人物
ジョセフィーヌ
エドガー
アメリ・・・ドーソン家 召使い 18歳
アーサー家 召使い
私の頭の中に浮かんできた物語です。
未熟な点、誤字脱字はご容赦くださいませ。
暇つぶしに読んでいただけると嬉しいです。