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連載小説 ディアーデイジー(20)
森の奥
空の爽やかさと、その地には残虐な戦いの跡が残されている。ドーソン家の婚礼の品は壊され散乱し、また人々は傷つき息絶えた者がいる。
エドガーそれを見、顔を歪め、体を震わせ、天を仰ぐ。
「あぁっ ! 僕はただ、君が幸せであってくれればと、それがいいんだと・・・それをずっと自分に言い聞かせてた・・・」
ジョセフィーヌ驚きの表情で、エドガーの顔を見つめ続ける。「・・えっ?」
「それが、一番正しいと分かってる。
今でも・・・」エドガー、首を横にゆっくりと
振り、ジョセフィーヌを見つめる。
「ああ、でも・・・僕はっ! 君を失ったら・・・生きていけない・・・生きていけない ! ・・・君を失うなんて無理なんだ ! 」
ジョセフィーヌ涙を堪え、エドガーのその瞳を見つめる。エドガー自分の拳をきつく握りしめ、頭を横に微かに振りながら自分を戒めるように叩く。
「分かってる・・・こんな想い・・・
許されない・・・許されない ! 間違ってる・・・
間違ってる! 分かってるのに! 」
エドガー、ジョセフィーヌの瞳を懇願する瞳で見つめる。
「ジョセフィーヌ、愛してる。」
「エドガー・・・! 」
ジョセフィーヌ、唇を噛みしめる。
「愚かだって、分かってる・・・分かってる・・・でも ! こんな僕と共に・・・共に・・・命尽きる
その時まで・・・共に・・・生きていってくれないだろうか?」「ううっ・・!」
ジョセフィーヌ目を赤くし、手で自分の顔を覆い体を震わせ涙を流しながら、小さくうなずき、かすれた声でつぶやく。
「私も・・私も愚かな人間だわ。生きていくわ・・・あなたと共に! ううっ!
例え・・・この先どんな事があろうとしても・・・あなたのそばを離れない! 」
「ジョセフィーヌ・・・もう君を離しはしない!」「エドガー・・・!」
エドガー、ジョセフィーヌの手を握りしめると、ジョセフィーヌもその手をしっかりと握り返し、見つめ合う。
「行こう!」「ええっ!」
2人、手と手をとりあい、馬のいる所へと走り出す。
馬車の中
マシューが血を流し倒れている。
アメリ、頭を押さえゆっくりと目を覚ます。
「あたたたたた・・・はっ! ジョセフィーヌ様! 」
アメリ目を大きく見開き、周りを見渡す。マシューが馬車のすぐそばで、血を流し息絶えている。
「ぎゃーっ! 」
アメリ体を震わせながら、馬車から四つん這いになって降りる。辺りには戦いの悲惨な残骸が広がっている。
「あぁ・・・ジョセフィーヌ様・・・ジョセフィーヌ様! あぁ、何て事に・・・」
すると向こうから、馬の蹄の音がして振り向くと、ジョセフィーヌとエドガーが、馬に乗り走り出そうとしているのを見つけ、ほっとしたかの様子で顔が少し緩み、2人に手を振る。
「ジョセフィーヌ様! 」
エドガーとジョセフィーヌ、アメリに気づいたが、少し視線をそらすと、アメリ顔をこわばらせる。「えっ?」
エドガー達を乗せた馬は、そのまま止まる様子も無く、進んでいこうとしている。
アメリ慌てて2人を乗せた馬の進もうとしているその先によろめきながら進み、両手を広げ、両目を大きく見開き、仁王立ちし、2人の行く手を阻む。
エドガーが慌て、馬の手綱を強く引く。
「どおー! 」「あっ、危ないっ! 」
馬いななき、アメリの目の前で両前足を上げ、急に止まる。アメリその瞬間、目をきつく閉じ顔を横に向けた後、2人に鋭い視線を投げかける。
「アメリッ!」
「はあっ・・・はあっ!どっ、どこへ行かれるのですか?」そう言うと、ジョセフィーヌを鬼の形相で睨みつける。
「アメリ様!」
「お願いっ、このまま行かせてっ!」
「駄目です!はあっ!ここは通せません
・・・絶対に!」「アメリ・・・」
「ジョ、ジョセフィーヌ様!あなた様はこれからアーサー家に嫁がれるのです・・・こんな事っ、絶対に・・・絶対に!許される訳かないっ!」
「アメリ・・・」
アメリ、エドガーを睨みつける。
「それに・・・エドガー!お前と言う奴はっ!
これまでの旦那様からのご恩を全て・・・全てっ!
裏切るつもりかっ!」「アメリ様!」
エドガー、眉をひそめ微かに首を横にふり、
唇を噛みしめる。
ジョセフィーヌ、アメリをまっすぐ見つめる。
「アメリ・・・私の人生は今までずっと・・・
苦しかった・・・諦めてた・・・これが私の人生だって・・・」「ジョセフィーヌ様!」
「でも・・・もう、諦めたくない!エドガーと共に生きていきたい!エドガーとなら、何があっても・・・私、後悔しないわ!」
アメリ、ゆっくりと顔をゆがめ、目に涙を浮かべ、首を微かに横に振り続け、力なく両手をだらんとおろし、涙がこぼれ落ちる。
「ジョ、ジョセフィーヌ様・・・なっ、何をおっしゃってるのか、おわかりですか?」
「ええっ・・・ええっ!わかってる。わかってるわ。」
ジョセフィーヌ、声を震わせながら、何度もうなずく。
「アメリ様・・・わたくしも今までずっと許されぬ想いを抱き続けて来てしまった・・・自分を責め続けて参りました。」「エドガー!」
「諦めよ・・・諦めるんだと、そう何度も自分に言い聞かせながら・・・」エドガー、アメリをまっすぐ見据える。
「でもっ!例えこの先どんな困難が待ち受けていよようとしても・・・共に寄り添って、生きていきたい、生きていきたいんです!」
アメリ、エドガーを見つめる。
「エドガー、お前まで・・・何を言ってるのか、
分かってるのか?」
エドガー、アメリを見据え、ゆっくりとうなずく。
「覚悟の上でございます。」
アメリ体を震わせ、その場にしゃがみ込む。
「あぁ・・・どうして・・・」
「アメリ・・・今までありがとう。
本当にごめんなさい・・・こんな私を憎んでいいか・・・ううっ。」ジョセフィーヌ、堪えきれぬ
想いが涙を誘い頬をつたい、言葉につまりアメリに深く頭を下げる。「ジョセフィーヌ様!」
アメリ哀願するかのように、ジョセフィーヌの頭ををじっと見つめ、顔を横に何度も振り続ける。
「今まで・・・ありがとうございました。こんな
不忠なわたくしめを・・・今まで可愛がってくださった事、生涯・・・忘れません。」
エドガーも、アメリに深く頭を下げる。
「エドガー・・・」
一瞬の静寂の後、小鳥のさえずりが響き渡る。
エドガー、顔を上げ振り向き、ジョセフィーヌを決意に満ちた瞳で見つめる。
「さぁ・・・行こう!」「ええっ!」
ジョセフィーヌしっかりと頷くと、アーサー家の
紋章が施されたヴェールを掴み、それを頭から外し
頭を振ると、結髪が緩やかにほどけ、木々の茂みの隙間から降り注ぐ陽の光を浴び、髪が輝く。そして唇を少し噛みしめ、ヴェールを一度力強く握りしめ、今までの自分の生き方にまるでさよならを
告げるかのように、思い切りそれを遠くへと
放り投げる。
すると、そのヴェールが柔らかい風に乗り、
ふわりふうわりとアメリの前に落ちる。
エドガー、まっすぐ先を見つめ、馬の手綱を動かし
合図すると、馬がいななき助走し始める。
ジョセフィーヌ、エドガーにしっかりと後ろから
しがみつく。
新たなる旅立ちを決意した2人のその姿は、
まばゆいばかりの美しさと幸せに満ち溢れている。
アメリ、去りゆくその後ろ姿を見つめ、
泣きむせぶ。
「ジョセフィーヌ様ー!エドガー!」
そのまま体を震わせる。
「ああぁぁぁぁっ・・・!どうしてっ、どうしてっ!自らいばらの道を選ばれる・・・この私がっ、2人を憎める訳・・・ないっ! ううっ。」
そばに落ちていたヴェールに視線をやり、力なく掴みとり、それをぎゅっと握りしめ、それで顔を覆い泣き崩れる。
燦然と光り輝く太陽の、視線を存分に受けた
森の精霊達が、そんな2人に幸あれと
まるで祝福しているかのように、
木々の隙間からその大地に、まるで光と影の
アラベスク模様のヴァージンロードを作り上げる。
2人を乗せた駿馬は、自らの意思でその未来を
掴み取った若人の、不確かな行く先を導くかのように、その光と影のヴァージンロードを風を切り、
力強く駆け抜けていく。
つづく
登場人物
ジョセフィーヌ ドーソン家 娘
エドガー ドーソン家 家来
アメリ ドーソン家 家来
マシュー 山賊
新年明けましておめでとうございます
今年も少しずつでも投稿を続けていけたら
いいな・・・と思ってます。
この物語はここで前半終了です。
未熟な点等は、温かい目でご覧くださいませ。
皆様にとって、この2025年が
心穏やかに過ごせる一年でありますように🍀
今年も宜しくお願い致します。