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連載小説 ディアーデイジー(25)

ドーソン家 廊下
ソフィーが歩いている。
フレデリックが静かにその後を追い、ソフィーが進んだ先の扉の前を過ぎようとしている。
「義母上!」
ソフィー、ビクッとし立ち止まり、まるでその扉を隠すかのように背を付け両手で押さえ、近づいてくるフレデリックを見つめる。
フレデリック、ソフィーの前で立ち止まる。
「フ・・・フレデリック君?どうしてここに?」「お見かけしましたので。ご挨拶をと。」
ソフィー、顔を引きつらせ、フレデリックを見上げる。「あら、そう。」
「義母上・・・この私を避けられたか?」
「いやっ・・・いえっ!そんな事、そんな事あるわけ無いでしょう?」
「ジョセフィーヌは、今・・・どこにいるのでしょうか?」
「あっ、あぁ・・・あの子は今、やっと部屋で眠った所なの。えぇ・・・そう、そうなの。」
ソフィー声がうわすり、唾をごくんと飲み込む。
フレデリック、眉をひそめ、そのの顔をじっと見つめる。
「ではやはり、自身の部屋で?」
「え・・・ええ、そうなの。フレデリック君、この度はご迷惑をかけてしまって、本当に申し訳なかとたわ。でも、あの子はもう大丈夫・・・大丈夫なの。だから・・・だから・・」
「本当に・・・大丈夫なのですか?」
「え・・・えぇ、そう、そうよ。」
「ならば、義母上・・・どうして、どうして私は、ジョセフィーヌに会うことが叶わぬ?せめて、せめて一目だけでも・・・」
「ごっ、ごめんなさい・・・」
ソフィー首を微かに横にふり、まるで隠すかのように、両手でその扉を握りしめようとする。
フレデリック、じっとその手を見つめる。
「義母上・・・その扉の向こうに何があるのか?何か・・・私に見られては困るものでも?この私にも見せては頂けませぬか?」
「え?いやっ、そんな訳・・・ここは私の、そう!私の部屋なのよ!」
ソフィーの手が微かに震え始める。
フレデリック、その手を見据え、呟く。
「義母上・・・娘婿ゆえ・・・少し失礼つかまりまする。」「駄目よっ・・・駄目!」
ソフィー、フレデリックの肩を手で押さえようとするが、フレデリック、ソフィーの手をかわし、扉をゆっくりと開け、部屋の中を見渡す。

ジョセフィーヌの部屋
少し薄暗い部屋の窓辺に置いてあるサイドテーブルの上のデイジーの装飾が施された手鏡に西日が当たり、その光が真実を指し示すかのように、一点に光を与えている。
フレデリックそれを眩しそうに見つめ、その光の
行先にゆっくり視線を向けると、ある乙女の肖像画の瞳を浮かび上がらせるかのように、まっすぐと照らしている。その瞳を見つめ、はっとする。
「ジョセフィーヌ!」肖像画に向かってゆっくりと歩いていく。
ソフィー、少し困った顔をして、その後に続いていく。
「あぁ・・・そう!これは、私の若い頃の肖像画なのよ。ふふっ、よく似ているでしょう?」
「そう・・・ですか。」
フレデリック、肖像画の憂いを秘めた瞳を見つめ、そっとその顔を触り部屋を見渡す。
「さぁ・・・気が済んだでしょう?私のプライベートルームよ。もう、出てくださるかしら?」
フレデリック、その言葉を無視して窓辺に行き、両手で窓を開ける。
いっときたりとも、同じ姿に留まる事なく、風に流されるちぎれ雲を見つめた後、そのまま俯き、窓辺に置かれた手鏡の枠に小さく書かれた文字に気づき、眉をひそめ目を細める。「・・・ん?」
「フレデリック君・・・ねっ?」
フレデリック、一点を見つめたまま蚊の泣くような声で呟く。
「エド・・・ガー・・・永遠の愛を・・・?」
手鏡を持ち上げ目を赤らめ、その手が体が、小刻みに震えだす。
「な・・・何だ!一体これはっ!」
ソフィー、不思議そうな顔をしてフレデリックを見つめる。
「フレデリック君・・・どうなさったの?
そろそろ・・・ねっ?」
「フレデリック様、どうなさいましたか?」
ジェファーソンがフレデリックの横に行き、その顔をみつめる。
「お顔色が、少し悪う・・・ございます。」
ジェファーソン、フレデリックの見つめる視線の先の鏡の枠に小さく書かれた文字を少し眩しそうに見つめ、はっとした様子で目を大きく見開く。「・・・あっ!」
フレデリック、顔を歪めたまま振り返り、ソフィーを見据える。
「義母上!」
ソフィー、体をビクッとさせ怯える瞳で、フレデリックを見上げる。
「やはり・・・思った通りでしたよ。」
「・・・え?何が?」
ソフィー、眉をひそめ少し首をかしげる。
「義母上は・・・ははっ!笑えるな。」
「えっ?何が?」
「おわかりになりませんか?」
「何を言ってるのか・・・よくわからないわ。」
ソフィー、声が上ずり唾を飲み込む。
「ここっ、ここですよ・・・義母上!」
フレデリック手鏡を持ちあげると、ソフィー恐る恐るそのそばに行き、その鏡をじっと見つめる。
「ただの鏡じゃない。」
「そうですか。よくみてください。」
「・・・は?あなた、私の顔がうつってるだけじゃないの。それがどうかしたのかしら?」
「ここっ、ここですよっ!」
フレデリックの指さした所をソフィー、じっと見つめると、顔がさっと青ざめ、思わず急に後ずさりし、棚の上に置いてあるガラスの花瓶に勢いよく腕が当たり、それが床の上に音を立てて落ち割れ、破片が辺りに散らばり、それと共に生けてあった花が辺りに散らばり、水がこぼれゆっくりと広がっていく。「・・・あっ!」
ソフィー、驚きを隠せずそれを見つめ、慌ててしゃがみ込み、その割れた花瓶の破片を拾おうとして、指先を切り、血が滲みだし、顔を歪める。
「・・・っつっ!」
フレデリック、苦笑しながらソフィーを見下げる。
「義母上・・・義母上も隅に置けませんなぁ・・・なにゆえ、こんな所にこんな事を?ご自身が書かれたのでは?どうして・・・気付かないのです?」
「いやっ・・・違うのよ・・・これはっ、違うの!」
「何が違うと言うのです?義母上は義父上の目を盗んで・・・このプライベートルームで、エドガーとやらと・・・逢瀬を楽しんでおられたのか?」
ソフィー、すがる瞳でフレデリックを見上げ、顔を何度も横にふる。
「違うわ!ちょっと待って!これは、これは・・・違うのよっ!」
「違う?何が違うとおっしゃるのでしょうか?義母上!ここは本当に・・・義母上の部屋なのか
否かっ!」
フレデリック、唇を噛み締め、ソフィー、体を震わせその場にしゃがみ込む。「ううっ!」
フレデリック手鏡をきつく握りしめる。
「そして!これはジョセフィーヌの物なのか否か!お聞かせ願いたい!」「はぁー・・・!」
ドーソンが息を切らせ、走って部屋にやって来て、フレデリックとソフィーを交互に見る。
「どうした!何があった!」

つづく

登場人物
フレデリック  アーサー家 嫡男
ドーソン    ドーソン家 当主
ソフィー    ドーソン  妻
ジェファーソン アーサー家 家来

未熟な点等、温かい目でご覧くださいませ。


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