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連載小説 ディアーデイジー(14)

ジョセフィーヌの部屋
窓が少し開いている。カーテンがゆるやかになびいている。空が少しずつ夕焼け色に染まりつつある中、ジョセフィーヌ窓辺に座り、本を読んでいる。
外からエドガーとモーリスの話し声が聞こえてくると、顔を上げ左手で本を持ったまま、カーテンを右手で持ち、外を見、エドガーを見つけ、本を開いたまま、サイドテーブルに置き、置いてあった手鏡を見つめ持ち、クスッと笑い、エドガーに向ける。
光がエドガーに当たると、エドガー、モーリスと眩しそうに、光の先を見る。その視線の先にジョセフィーヌがいる。ジョセフィーヌ背筋を伸ばして、手鏡をぱっとサイドテーブルに置き、嬉しそうにエドガーに向かって手を微かに振る。
モーリス、エドガーをちらりと見た後、ジョセフィーヌを見上げ礼する。エドガー、顔をこわばらせ、ジョセフィーヌに軽く会釈した後、すぐに目をそらし足早にあるいていく。
モーリス、エドガーの後ろ姿を見つめる。
「エドガー、おいっ!  」
モーリス、ジョセフィーヌに会釈し、エドガーの後を追いかける。
ジョセフィーヌ、その後ろ姿を見つめる。
サイドテーブルの上に無造作に置かれた手鏡が、夕日に照らされ、部屋の一点を夕日色に染めている。

ドーソン家 庭園
白いアネモネの花のアーチがあり、そこをくぐると
色とりどりの花が咲き乱れている。
霧むせぶ庭園の遥か彼方の天空は、月に柔らかい光のアーチが、かかっているかのように見える。
その中をエドガーが歩いている。
ジョセフィーヌが小走りでその後を追いかけてくる。「エドガー !  」
エドガー、はっとし立ち止まり振り向き、ジョセフィーヌを見つめ、一礼する。
「どうなさいましたか?そんなに息を切らせて。」
「どうなさいましたかって・・・何度も呼んでたのよ。気がつかなかった?」
「あっ、いえっ・・・少し、考え事をしてたもので。」
エドガー、笑顔になる。ジョセフィーヌ、少しホッとした顔をする。
「何か・・・御用でしょうか?」
「べっ、別に・・・御用ってわけじゃ・・・
ないけど。」
「では・・・急いでおりますので、これにて失礼致します。」そう言うと、軽く一礼しジョセフィーヌに背を向け歩き出す。「えっ?」
ジョセフィーヌもその後について歩く。
「ねえ、ちょっと・・・待って!  」「はい。」
エドガー立ち止まり振り向く。ジョセフィーヌも立ち止まりその顔を覗き込む。
「エドガー?」「はい。」
「今日は、様子が・・・少し、変かなって、
思って・・・」
「いえ、そんな事は・・・ございません。」
「なら、いつもみたいに、楽しい話して・・・ね?」
ジョセフィーヌ、おどけた顔をする。
エドガー、背筋を伸ばし、真顔になりジョセフィーヌをじっと見つめ、丁寧にお辞儀する。
「ジョセフィーヌ様、ご婚約・・・おめでとうございます。」
ジョセフィーヌの顔から、さっと笑顔が消える。
「アーサー家のフレデリック様と、お聞きしました。」「あっ、いやっ、そっ、それは・・・」
「ジョセフィーヌ様の将来を考えたら、これ以上のお話はございません。」
エドガー、眉を微かにひそめたあと、笑顔になり、ジョセフィーヌの瞳をじっと見つめると、ジョセフィーヌも眉をひそめ、エドガーのその瞳をじっと見つめる。
鉛色の雲が、少しずつ風に吹かれやってきて月を覆い、辺りを静かに暗闇へといざなう。
「わたくしは・・・ドーソン家の家来として、当然の事を、申し上げているだけです。」
「家来・・・として?じゃあ、エドガーは?
エドガー自身の想いは?」
「わたくしの想いも何も・・・今、申し上げた通りです。」そう言って、言葉を少しつまらせるように。小さくつぶやく。「いっときの・・・たった、いっときの、気の迷いで・・・」何度もうなずき、ジョセフィーヌの顔をまっすぐ見つめる。
「ドーソン家の繁栄を奪っては、いけないのです。」
ジョセフィーヌ目を赤くし、頭を横にゆっくりと振ると、エドガー、視線をそらす。
「お嬢様、もう私なぞ・・・たやすく話しかけてはなりません。」「どう・・・して?」
「皆が誤解します。」
2人の間に冷たい風がひゅっと吹き抜けていく。
ジョセフィーヌ、顔にかかる髪を手でそっと
押さえ、頭を小さく横に振る。
「お嬢様のご婚約は・・・我がドーソン家にとって、望みなのです。」
「ねえ?じゃあ、私の・・・私の望みは?
ねえ、何か・・・知ってる?」
エドガー、ゆっくりと目を閉じ頭をゆっくりと横に振り、その目を開け、ジョセフィーヌの瞳をまっすぐ見つめる。
「ジョセフィーヌ様の未来は、フレデリック様に愛され、地位や名誉を我が物とされ、こんな・・・こんな喜ばしい事は・・・他にございません。」
ジョセフィーヌ今にも泣き出しそうな顔をして、エドガーを見つめる。
「どうして?どうして・・・エドガーが
そんな事言うの?」
「お嬢様、わたくしはただ、ドーソン家の家来
として、今まで務めを果たしてきたまでの事。」
エドガー、ジョセフィーヌから目をそらす。 
「それだけじゃ・・・それだけじゃ、なかった・・・でしょ?ねえっ、エドガー!  」
「いいえ、ただそれだけ・・・それだけの事です。すみません。急ぎますので・・・これにて失礼します。」
エドガー軽く一礼し、ジョセフィーヌに背を向け歩き出す。ジョセフィーヌとっさにその後を追いかけ、その腕を掴むと、エドガー背を向けたまま立ち止まる。「エドガー・・・!  」
ジョセフィーヌ、掴んだ手を握り締める。
エドガー、瞳をきつく閉じ唇を噛み締める。
「行かないで・・・私を一人にしないで・・・」
霧雨が、少しずつ降り始める。
ジョセフィーヌ、エドガーの顔を伺うように
見つめる。エドガー、目をゆっくり開ける。
「お嬢様と私は・・・きっと、こういう巡り合わせだった、ただ・・・それだけ、それだけの事でございます。」
エドガー、ジョセフィーヌに優しく微笑み、
つかまれている手と逆の手でその手を力強く外す。 
ジョセフィーヌ、顔を歪め涙が溢れ出し、その手を逆の手で触る。
「うっ、いっ・・・いたいっ。」「あっ・・・!  」
エドガー、思わず心配そうにジョセフィーヌを
見つめるが、視線をそらし軽く会釈する。
「失礼・・・いたします。」
そう言うと、足早に庭園から去っていく。
ジョセフィーヌ、体を震わせながら、力なく
しゃがみ込み顔を歪める。
「あぁぁぁぁっ・・・痛いっ、痛いのに・・・
ううっ。」
そのまま両手で顔を覆い、声を殺して泣きむせぶ。 霧雨がジョセフィーヌに降りそそぐ。

つづく

登場人物
ジョセフィーヌ   ドーソン家   娘
エドガー               ドーソン家   家来
モーリス               ドーソン家   家来

未熟な点等はご容赦くださいませ。



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