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連載小説 ディアーデイジー(21)
天井近くから両開きの大きな窓が少し開いており、レースのカーテンが、緩やかにたなびいている。
ドーソンが正装をし、デスク前の椅子にゆったりと座りシガーを吸っている。
「はあー・・・そろそろ我々も出発の時間だな。」
サイドテーブルの上に鳥籠が置いてあり、その中につがいの小鳥が2羽並んでいる。
その小鳥を目を細め、満足気に眺めている。
ふいに扉を激しくノックする音が鳴り響く。
すると大きくため息をつき横目でドアを見る。
「誰だ?」
そのドアの向こうで、執事が真っ青な顔でドアを素早く叩いている。
「旦那様!執事でございます。」
「入れ・・・」
執事、扉を開け軽く一礼し、急いで部屋に入ってくる。ドーソン、少し不機嫌な顔をして、シガーを灰皿で消し、腕を組む。
「何だ?準備は出来てる。騒々しいぞ!」
「はっ!そっ、それがっ・・・たった今・・・早馬が参りまして・・・」「早馬だと?」
ドーソン、怪訝な顔をして執事を見つめる。
「はっ・・・はい。」そう言うと、唾をごくんと飲み込む。
ドーソン身を乗り出す。「何だ?」
「ジョ、ジョセフィーヌ様のご一行がっ!」
ドーソン、眉をひそめ、執事を見つめる。
「どうした・・・何があった?」
執事、下を向き、唇をきつく噛み締めた後、目をきつく閉じ早口で話し出す。
「はっ。アーサー家に向かわれる途中、森の中で山賊におそわれた・・・との事です!」
そのまま手を握りしめる。
ドーソン、目を大きく見開き、あっけに取られた様子でその頭をじっと見つめる。
「なんだ・・・と?馬鹿も休み休みに・・・」
そのまま茫然とした様子で立ち上がり窓から外を見つめる。
執事、顔をあげる。「はっ!確かにジョセフィーヌ様ご一行が、森の中で襲われたと、そう報告を受けた次第!」
ドーソン、執事を鋭い目つきで執事を睨みつける。
「襲われた・・・だと?」
「はっ、死傷者も出たとの事です!」
ドーソン、真正面を見据え、少しずつ顔を歪めその目に涙をためる。
「あぁ、やっと・・・やっと、我がドーソン家にも運が巡って来たと云うに・・・どうしてっ、何で!よりによって!こんな日にっ!」「はーっ!」
執事、ドーソンに頭を深く下げる。
ドーソン、再び椅子に座り頭を両手で抱え込む。
「あぁぁぁ・・・何とか、何とかっ!しなければ・・!」
ドーソン、両手で頭を抱え少し頭をゆっくり頭を横に振るが、顔をさっと上げ、執事を見る。
「あっ!ジョセフィーヌ、ジョセフィーヌは無事なのか?」「はっ!難は逃れたと・・・そう聞いております。」
ドーソン、そのまま視線を窓の外に向ける。
「はぁっ、そうか・・・ならば、まだ何とか最悪の事態は免れたかもしれぬと言うことか。」
そう言うと軽くため息をつく。
「でっ、ですがっ。あっ、あの・・・!」
ドーソン、眉をひそめ執事に鋭い視線を投げつける。
「何だ?まだ・・・何かあるのか?」
「あっ、あのっ!・・・ジョ、ジョセフィーヌ様がっ・・・エドガーと共にっ、何処かへ消え去っていったとの事で・・・」ドーソン、首をかしげる。
「消え去った?」「はっ!」
「おっ前!お前の言ってるその意味が全く分からんのだが、分かるように説明してもらえんか?」
「ジョセフィーヌ様とエドガーが、山賊との争いの末・・・」執事、下を向き手を握りしめる。ドーソンそれをじっと見据えて、両手を机の上にバンと強く叩きつける。
「はっきり・・・はっきり言わんかっ! 」
執事、背筋をピンと伸ばし、大声を出す。
「はっ!ジョセフィーヌ様、エドガーとその場から駆け落ちをなさったと、そう・・・報告を受けた次第!」
ドーソン、顔を歪める。
「何だとー!」
「他の者達も、命からがら屋敷に戻ってきた次第でございます。あ、あのこれを・・・」
執事、手に持っていた風呂敷をおずおずと差し出す。
「何だ・・・これは?」ドーソンそれを睨みつけ、奪い取り、その結び目をほどこうとするが開けられない。「ちっ!ちきしょう!」そういった瞬間、その布が鈍い音を立て破け、中からアーサー家の紋章が金糸で丁寧に刺繍されたジョセフィーヌのヴェールがでてくると、それをきつく握りしめ手が震えだす。
「ジョセフィーヌ様、立ち去る際、これを自ら脱ぎ捨てられたとの事・・・」
「ジョセフィーヌ!」そう吐き捨てるように呟くと、下を向き体を震わせる。
「許さん・・・許さん・・・許さーん!」
ドーソン、ベールを机の上にどんと叩きつけると、机上にあった大理石の灰皿を素早く掴みとり、怒りに任せ、壁に向かって思い切り投げつけ、
大声をあげる。「うわーっ!」
「うわっ!」執事、一瞬体をビクッとさせ、
肩をすくめ、灰皿をちらりと見る。
「はあっ、はあっ!」
ドーソンのポマードでオールバックにセットした髪が乱れる。
投げ付けられた灰皿は鳥籠をかすめ、壁に勢いよく当たり、鈍い音を立て下に落ちる。
鳥籠がバランスを崩し倒れ、カゴの扉がカシャンと開くと、中からつがいの小鳥が慌てふためいた様子で外に飛び出して来る。 2羽の鳥、たわむれながら室内を飛び、そのまま窓の方に向かい、開いた窓から、晴れ渡る大空に向かい羽ばたいていく。
その去りゆく姿をうらめそうに見つめ、烈火の如く怒りに満ちた声を張り上げる。
「エードーガーッ!」
両手で机を思い切り叩きつけ、再び椅子に座り正面を見据え頭を抱え唇を噛み締め、下を向く。
「あああああっ・・・!」
床の上には2度と戻る事のない、主を失った鳥籠が
虚しく転がっている。
つづく
登場人物
ドーソン ドーソン家当主 男爵
ジョセフィーヌの父
執事 ドーソン家 執事
未熟な点等は、温かい目でご覧下さいませ。