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連載小説 ディアーデイジー(22)

アーサー家 門前
早馬がドーソン家より駆けつける。
ドーソン家家来が馬の手綱を引き、門番に向かって話す。
「ドーソン家より書状をお持ちした!」「はっ!」
すぐそばをジェファーソンが通りかかり、立ち止まる。
「何事だ?」「はっ!」ドーソン家家来、ジェファーソンに一礼をする。ジェファーソン、それをじっと見つめる。
「ドーソン様より、アーサー公に急ぎ申し上げたき儀あり、書状を、お持ち致しました。」
「うむ、わかった・・・ついて参れ。」「はっ。」

アーサー家 フレデリックの部屋
フレデリックが鮮やかなブルーのコートに身を包み、大きなカウチに深く腰掛け、鼻歌を歌っている。テーブルの上にあるジュエリーボックスに手を伸ばし、それを掴みそっと開ける。中には贅の極みを尽くした大きなダイヤの指輪がしまわれている。
指輪を取り出し持ち上げると、差し込む陽の光がダイヤに吸い込まれ虹色の光を放つと、思わず目を細め、口元を緩ませ、その輝きを見つめる。
「あぁ・・・ジョセフィーヌ!今日と言う、この日が・・・私の積年の望みが叶う時が・・・刻一刻と近づいている・・・あぁー!何て待ち遠しい!」
そう呟くと、ダイヤにそっとキスをし、それを見つめ、うっとりする。
「ああ・・・君は、何て幸せ者なんだ。誰もが羨むこの私に愛され、いずれ、わが国の頂点に君臨するアーサー家当主の妻となるのだから!はははっ!」
フレデリック微笑みながら、指輪をジュエリーボックスに入れ、パタンと閉める。
「あぁ・・・早く、早く!僕だけのものにしなくては!」ジュエリーボックスをきつく握りしめ、窓の外を見つめる。
突然、ドアをノックする音がし、それをテーブルの上にコトンと置き、ドアを横目でじろっと見る。
「誰だ?」
フレデリックの部屋の前の廊下で、ジェファーソンとドーソン家家来が息を切らせ,ジェファーソンが激しくドアを叩いている。
「フレデリック様!ジェファーソンでございます。」「どうした?入れ・・・」
ジェファーソンが扉を開け、ドーソン家家来と共に一礼し、部屋に入ってくる。
フレデリック、椅子に座ったまま腕をゆっくりと組み、眉をひそめジェファーソンを見る。
「フレデリック様・・・たっ、大変でございますっ!」
「何だ?せっかく・・・この佳き日に・・・騒々しい!」
組んだ腕をほどき、片手をテーブルの上に置き人差し指をトントントントンし始める。
「あのっ、たった今、ドーソン家から早馬が参りまして・・・この者がっ・・・」「はっ!」
ジェファーソン、ドーソン家家来を見、書状をフレデリックに差し出す。
フレデリック軽く溜息をつき、ドーソン家家来を見、ジェファーソンから書状を受け取り、それを開け読み始めるとその持つ手が微かに震えだし、全て読み終えると、その手紙を下にだらんと垂らし、一点を見つめた後、顔が険しくなり、その書状を握りしめ、ジェファーソンを鋭い目で睨みつける。
「どういう事だ?!これは!」
「はっ!」
「どういう事だ!」
ドーソン家家来、直立不動になる。
「申し訳・・・申し訳ございません!」 
フレデリック、書状を握りしめた拳を小刻みに動かす。
「これだけでは、これだけでは、わからぬではないかっ!」
「はー、わたくしめも、ここに書かれていること以外、何ひとつ聞かされておらず・・・申し訳ございません!」そう言うと、深く頭を下げる。
フレデリック、急にたちあがると、太ももがテーブルに強く当たりコンと音がする。その瞬間、ポケットに入っていた懐中時計が転がり落ち、そのフロントにヒビが入り、時計の針が止まる。
ドーソン家家来、さらに頭を深く下げ、言葉を震わせる。
「もっ、申し訳ございません・・・わたくしの知っている事は本当に、そこに書かれている事のみなのでございます!」
フレデリック、下を向き拳でテーブルに力強く叩きつける。
「ああ・・・やはり、やはり僕が迎えに行くべきであった・・・」
そう呟くと頭を数回振り顔をあげる。
「何としても、何としても・・・花嫁を連れ戻さなければ!」
フレデリック、ジェファーソンを見る。
「今から、我が花嫁を探しに行く!ついて参れ。」
「はっ!」
フレデリック、ドーソン家家来をじっと見つめる。
「この話は、私が請け負った。
そなたはご苦労であった。帰るがよい。」
「ははっ。」
ドーソン家家来、頭を深く下げその場から去る。
フレデリック剣を持ち、部屋から勢いよく出ていく。ジェファーソンと家来もその後に続く。

アーサー家 門内
フレデリック、馬に素早く乗る。ジェファーソンも馬に乗り、2人、太陽の光射す中、土埃をたて、走り去っていく。
フレデリック、まっすぐ前を向き、手綱を握りしめ呟く。
「何でだ・・・何でなんだ!やっと、やっと、
出逢えたと言うのに・・・やっと・・・私だけのも
のになると・・・思ったのにっ!」

つづく

登場人物
フレデリック   アーサー家 跡取
ジェファーソン  アーサー家 家来
ドーソン家家来
アーサー家 門番

至らぬ点は温かい目でご覧くださいませ。




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