連載小説 ディアーデイジー(24)
ドーソン家 客間
フレデリック、窓辺を行ったり来たりとうろうろしている。ジェファーソンがそのすぐそばに控えている。フレデリックの靴音がフロアに鳴り響いている。
冷めきった紅茶が忘れられたかのように、テーブル上に置き去りにされている。
「まだかっ!」
フレデリック立ち止まった瞬間、床を思い切り踏みしめると、力強い音が部屋中に鳴り響く。
その扉の向こうにドーソンがやってくると、前に立ち止まり扉をじっと見据え、大きく息を吸い、いっきに吐き出し、唇をきつく閉じ、扉を勢いよく開け、部屋に入っていく。
フレデリック、ドーソンを見る。
「義父上!」
フレデリック顔を赤らめ、ドーソンに駆け寄る。
ジェファーソン、ドーソンに深く頭を下げる。
「やぁ、フレデリック君・・・待たせたね。
申し訳ない。」
「義父上・・・いやっ、全然っ。そんな事より、
そんな事より・・・ジョセフィーヌは今どこに?
それが知りたい・・・知りたいんです!」
「まあまあ、フレデリック君・・・さあ座って。」「あっ、はい。」
ドーソン椅子に座ると、フレデリックもテーブルをはさみ、その前に座る。
ドーソン、ティーカップに入ったダージリンに視線を向ける。
「すっかり冷めてしまったようだ。何か、新しいものと取りかえさせよう。何が良いかね?」
「あっ、いやっ、べっ、別に。」
ドーソン、手で近くにいる召使に合図すると
召使いがやって来て、紅茶のセットを片付け、
軽くお辞儀をし下がる。
「フレデリック君、こんな事になってしまって・・・まだ私も、正直、とても驚いてるんだ。
娘は・・・そう、無事には帰ってきたんだがね。」
フレデリック、目を大きく見開き身を乗り出す。
「戻って・・・本当ですか?あぁ・・・よかった!
義父上・・・でしたら、今すぐに・・・我が妻となるジョセフィーヌに会わせていただきたい!」
ドーソン、困った顔をして、フレデリックから視線をそらし、ゆっくり顔を横に振る。窓の外から爽やかな鳥たちのさえずりが聞こえきて、ふとその声のする方に視線を送ると、窓のすぐそばの木の枝に2羽の鳥が止まっており、仲睦まじそうにしているのに気づくと、それを鋭い目で見つめる。
フレデリックそれをじっと見つめ、眉をひそめる。
「あぁ、実はまだ娘は混乱していてね。先程、
眠り薬を飲ませて、やっと自分の部屋で眠りについた所なんだ。」「は・・・い。」
「やはり、恐ろしい思いをしてしまったからね。」
召使が新しい紅茶のセットをトレイに乗せてやって来て、ドーソンの横に立ち会釈する。
「あのっ!ジョセフィーヌの身に何があったのですか?」
召使がアールグレイをティーポットからティーカップに注ぐとほのかな湯気と共に甘い香りが広がる。ドーソン、ティーカップをゆっくり手に取る。
「まあ、まずは、一息つきたまえ。」
「あっ、は、はい。」
フレデリックもティーカップに手を伸ばす。
ドーソン、フレデリックが一口飲むのを見届けながら、カップに口をつけ、ゆっくりとソーサーの上にコトンと置く。
「まだ・・・皆が混乱していてね。ジョセフィーヌも怪我をしていてね。口もきけず、震えていた。」
「あぁ・・・ジョセフィーヌ!」
「だからね。この様に傷ものとなってしまった娘を、アーサー家のフレデリック君に・・・
とてもとても申し訳ないと思ってね。」
「いえっ!そんな・・・」
「だからこの結婚自体、どうすべきかアーサー公と話し合うべきだと思ってるんだ。」
「義父上!わたくしめはたとえこの様な事が起ころうとも、我が想いが揺らぐ事はございません!我々の愛を引き裂こうとする者は・・・なんぴとたりとて赦しはしない!」
「なぁ・・・フレデリック君、とにかく、落ち着きたまえ。心から君の将来を考えて言ってるんだ・・・とにかく、今はまだ会わせられる状態じゃない。今日の所はお引き取り願おう。
この通りだ。」
ドーソン立ち上がり、両手をひざに乗せ、
深く頭を下げる。
フレデリック、その頭をじっと見つめ、目を細め、首をゆっくりと横に揺らす。
「どうして・・・どうして!我が花嫁の姿を・・・一目見る事も叶わぬのですかっ!」
「とにかく!落ち着きたまえ。今日の所は・・・と言うことだ・・・」
「義父上!どうしてっ!わたくしめは、わたくしめはっ・・・承服しかねまする!」
フレデリック、顔を真っ赤にし、頭を下げたままのドーソンをじっと見つめ、唇を噛み締め、勢いよく立ち上がり、両手でテーブルをバーンと力強く叩き続け、靴音を激しく立て部屋を出ていく。
「フレデリック様!」ジェファーソン、ドーソンに素早く頭を下げ、その後を追いかけ、部屋から出ていく。
「はぁー・・・」
ドーソン椅子に座り、背もたれに背をつき、召使をちらりと見、顎で合図する。
「フレデリック君のお帰りだ。さぁ、丁重にお見送りしろ。」「はっ。」召使、素早く部屋から出ていく。
ドーソン目を細め、外を見ると、そこにいた小鳥たちはもういない。
「ちっ、どいつもこいつもっ!あぁ、何とか・・・何とかしなければ!」
ドーソン家 エントランス
フレデリックの怒りに満ちた足音が響いている。
ジェファーソンも、後からついていく。
「何故だ、何故だ、何故だっ・・・どうして、どうして!夫となるこの私が!愛する妻を、一目見ることが許されぬ!」そう言った瞬間、急に力強く床を踏みしめ立ち止まる。その瞬間、控えていたドーソン家の家来が驚き、フレデリックに慌てて頭を下げると、フレデリック、その家来を見据えて近づいていく。
「なぁ・・・何か知ってるんじないのか?」
家来、直立不動になり唾をごくんと飲み込む。
「いっ、いえっ!わっ、わたくしは何も・・・」
そこへ何も知らずに階段から降りようとやってきていたソフィーが、その苛立った声を聞き、急に立ち止まり、引き返し、足早に去っていく。その瞬間ドレスの裾がふわっと広がる。それがフレデリックの視界に入ると、すっと見上げ少し首を傾げ、目を細め、消えたドレスの残像を見据え、階段を駆け上がっていく。
「フレデリック様?」
ジェファーソンも後をついていく。
つづく
登場人物
フレデリック
ドーソン
ジェファーソン
ソフィー
ドーソン家 家来(召使)
未熟な点等は、温かい目でご覧くださいませ。