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連載小説 ディアーデイジー(10)

王宮 大広間

大勢の噂好きな貴族達が華やかに賑やかに、交流を楽しんでいる。
管弦楽が、ロマン派のワルツを優美に奏でている。
長いテーブル上に様々な料理が並べられている。
その前に料理人、そのサイドにサーバントが控えている。
ジョセフィーヌとアメリがケーキが並べられている前でウロウロしている。
「うわーっ! どれも美味しそう。悩む-っ。どれにしようかなぁ。」「お好きなものをお好きなだけお食べになったらいかがですか?」「だって・・・最近ちょっと太っちゃって、コルセットもキツいし。」
アメリ、にやにやしながら、ジョセフィーヌを上から下まで見つめる。
「そんな食べたって、大して変わりませんよ。私は沢山いただきますよ、ええ。特にフルーツタルトがわたくしめを呼んでおります。」「そうなのよ。私はやっぱりモンブラン。」ジョセフィーヌ、ケーキに目が釘付けになる。「あと、ガトーショコラと、あと-・・・」アメリ、クスクス笑う。「私もガトーショコラ、いただきとうございます。」「あと、ブドウジュースもね。」「わたくしめはワインにいたします。」「ふふふっ・・・」互いに微笑みあう。
サーバントが2人にケーキを皿にのせ、渡す。
ジュースとワインの入ったグラスも差し出される。
「ありがとう。」ジョセフィーヌ、サーバントに礼を言う。
「私がドリンクを持つわ。」「かしこまりました。お気をつけてお持ちくださいませ。」「ええ。ねぇ。あちらの隅でいただきましょ?」「はい。」
2人で歩き出す。
ソフィーが少し頬を赤らめ、ワイン片手にメイベルと談笑している。「そういえばパトリック、この間のポロの試合で大活躍だったらしいじゃないの?」「あぁ、ありがとう。」
そのすぐそばをジョセフィーヌとアメリが、通る時に2人に会釈をすると、ソフィー、ジョセフィーヌをちらっと見る。
「パトリックはね、どこに出しても恥ずかしくないんだけど。それに比べて、ジョセフィーヌは・・・あのジトッとした目っ!  さっさとどこかに出ていってもらえると、ほんっとに助かるのよ。」
ソフィー、ジョセフィーヌに冷たい視線を投げかけ、背を向ける。メイベル、ジョセフィーヌにきづく。ジョセフィーヌ、メイベルに会釈すると、メイベル、バツが悪そうな表情をしそれに応え、軽く会釈すると、ジョセフィーヌに背を向け、ソフィ-に愛想笑いをする。
「まあ、いいんじゃないの?私達は私達で楽しみましょ。」「ええっ、そうね。」そう言うと、ワインを飲みほす。
ジョセフィーヌうつむき、目を赤くして周りを見ずに早足で歩き出す。持っているジュースの入ったグラスの中身が揺れてこぼれそうになっている。「ジョセフィーヌ様・・・。あ!  あの、すみません。これ・・・ちょっと・・・。」アメリ、近くにいたサーバントにケーキの乗った皿を渡し、ジョセフィーヌの後を早足で追いかける。
ジョセフィーヌ、うつむいたまま早足で歩いていく。その様子に周りが気づき、眉をひそめたり、驚いた顔をして、それを避ける。その進む先にフレデリックが背を向け立っている。
アメリがそれに気づき口を大きくあける。
「あっ!  ジョセフィーヌ様!  駄目です!  止まって!  前っ!  前見てっ!  止まってくださいっ!  」
ジョセフィーヌ、アメリの声にようやく我に返り顔を上げた瞬間、すぐ目の前にフレデリックの背中がある。「あっ!  」「・・・ん?」
フレデリック、ジョセフィーヌの声で後ろを振り向く。「あーっ!」アメリ両手で顔を覆い立ち止まる。
ジョセフィーヌ勢い止まらず、フレデリックにぶつかりそうになり、その胸元にワインとジュースを思い切りひっかけると、気が動転してグラスを持つ手を離してしまい床に落とす。グラスは音を立てて割れる。「あっ!  」砕けたグラスを見つめる。
フレデリック眉をひそめ、ぶどう色に染まっていく、自らの胸元を見つめる。
「ちょっ、ちょっと・・・君っ!  」「あっ ! す、すみませんっ!  」
ジョセフィーヌ、脇に抱えたクラッチバッグから慌ててハンカチを取り出し、フレデリックの胸元を拭こうとする。フレデリック、反射的に体を逸らしてそれをよけ、眉をひそめたまま鋭い目でジョセフィーヌのその手を見る。
「ちょっ・・・ちょっと君 !  やめたまえ!  」
「も・・・申し訳ありません!  そういう訳にはっ・・・」そう言いながら動揺を隠しきれぬ様子で染みをふき出す。その手が小刻みに震えている。
フレデリック、その手から自分の体を離す。
「だからっ!   もう・・・本当に良いから、やめたまえ!  」「はっ!  」ジョセフィーヌ、ハンカチを自分の胸元に持って行き、震える手で握りしめる。
「ほ・・・本当にすみませんでした。」
ジョセフィーヌ初めて顔を上げて、フレデリックの顔を見つめる。そこで初めて2人の視線と視線が結ばれる。
フレデリック、ジョセフィーヌを見つめ、
目を大きく見開き、その顔に驚きの表情を浮かべ、
その瞳をじっと見つめ続ける。

フレデリックの瞳の奥のその奥の
脳裏の中に深く刻まれた
10年前のアリアの丘の小川のほとりで出会った
太陽の光を一身に浴びたデイジーの
花冠を被った精霊とみまごう可憐な少女が
自分に小さな花束をそっと渡している姿が
ふっと浮かび上がり、その澄んだ瞳が
優しく自分に微笑みかけたままクローズアップされ、その瞳を持つ少女の姿が 光に包まれたまま
急速に成長していき、今、目の前にいる
まるで迷子になった仔犬のように、怯えた瞳で自分を見つめるジョセフィーヌの瞳とふっと重なり
はっとする。
「あぁっ・・・!  」口を少しゆるめ、しばし呆然とし、その変わらぬ瞳を愛おしそうに見つめる。
ジョセフィーヌ、その真剣なまなざしを見て驚き、不安げな表情を浮かべる。
「あっ、あのっ・・・」
フレデリック、目を赤くし微笑み、振り絞るように声を出し、つぶやく。
「あぁ・・・!  デイジーの・・・君!  」
「あっ・・・あのっ、お怒りはごもっともだと・・・思っております。」
ジョセフィーヌ唇を噛み締め、頭を深く下げる。
フレデリック、頭を小さく横に降り、むきになる。「いやっ !  そうじゃなくて・・・そうじゃないんだ!  」
ジョセフィーヌ、驚いた表情で顔をあげ、フレデリックを見つめる。
「・・・え?」「だからっ・・・!  」
「あっ、あのっ・・・この度の非礼、お許し願えないでしょうか?えっと、あのっ、私・・・」
フレデリック、ジョセフィーヌに熱い眼差しを向けたまま、頭を小さく横にふり続ける。
「私・・・ドーソン家のジョセフィーヌと申します。」「ジョ・・・! あっ!  あぁっ・・・!  ジョセフィーヌ・・・ジョセフィーヌ!  」
ワルツの高鳴りにのせて、ジョセフィーヌの運命が
踊るように動き出していく。

つづく

登場人物
ジョセフィーヌ  ドーソン家 娘
フレデリック      アーサー家  長男
アメリ                  ドーソン家  召使い
ソフィー              ドーソンの妻
メイベル


頭の中に浮かんできた物語です。
未熟な点、誤字脱字等ご容赦くださいませ。
楽しんでいただけると嬉しいです。


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