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連載小説 ディアーデイジー(26)
ジョセフィーヌの部屋
ソフィー、ドーソンを見上げる。
「だっ・・・旦那様!」
ドーソン、フレデリックを鋭い目で見る。
「フレデリック君、どうした、何があった?
どうして、どうして?ここに2人が・・・
どういう事だ。」
フレデリック、ドーソンを見据える。
「義父上・・・義母上が義母上の部屋にいる事の・・・何がおかしいのか?」
「あっ・・・!いやっ、君の事だ!」
「違うのよ・・・そうじゃ、そうじゃないの・・・。」
ソフィー、ドーソンをすがる目で見つめ声を震わせ、首を横に何度も振る。それをドーソン、いぶかしげに見つめる。
「何が・・・だ?」
フレデリック、静かに話し始める。
「義父上・・・私はただ、ジョセフィーヌに一目だけでも逢いたかった。ええ・・・私の愛する女性ですから・・・とても心配していました。」
「あ、ああ・・・」
フレデリック、部屋をゆっくり見渡し、肖像画の前に行き、愛おしそうにその瞳をじっと見つめ、触る。
「ここが・・・ジョセフィーヌの部屋だと・・・
入ってすぐわかりました。」
「あっ・・・ああ!いやっ、その今は・・・別の部屋で眠っているんだ。私も君が去った後に聞いてね。もっ、申し訳ない。」
「そうでしたか・・・」
フレデリック唇を噛み締め、窓辺に置いてある手鏡に向かってゆっくり歩いていき、それをすっと撫で、じっと見つめる。
「その鏡の中の自分を、ジョセフィーヌは毎日見つめていたのでしょうか?」
「あ?ああ、ジョセフィーヌのだ・・・
だからきっと、そうじゃないのか?」
ソフィー、観念したかの様に、下を向き手を握りしめる。
「あぁ・・・やはり、そうでしたか。では、義父上に・・・真実をお聞きしなければ・・・」
ドーソン眉をひそめ、フレデリックを見つめる。
「真実など・・・今、言った通りじゃないかっ、
フレデリック君・・・いい加減にしたまえっ!」
フレデリック顔を歪め、ドーソンを見つめる。
「義父上・・・暗がりの中に光が差すと、見えないものも見えたりするのですよ。」
「・・・は?何を言ってる?」
ドーソン少し首を傾げ、フレデリックの顔を見つめる。フレデリックのその顔は、柔らかい午後の日差しに包まれ、微かに揺れるカーテンから空を見つめ、憂いを秘める。
「会わせられない理由が他にあるからじゃ、ないですか?」
「フ、フレデリック君・・・きっ、君は・・・何が言いたい?」
フレデリック手鏡をじっと見つめ、哀しげにふっと笑い、ドーソンを鋭く見つめる。
「ドーソン家は、ドーソン家はっ!揃いも揃って!嘘で嘘を塗り固めやがって!真実をねじ曲げようとするのかっ!」
ソフィー、目からひとすじの涙をすっと流す。
「だっ・・・旦那様!」
「何を言ってる?」
「では義父上・・・!ここに、ここに書かれてある・・・これは一体、どういう事なのかっ?
お聞かせ願いたい!」
フレデリック、素早く手鏡を指し示す。
一瞬の静寂と共にカーテンを通した光が、優しく手鏡に降り注いでいる。
「何だ?」
ドーソン斜に構え、ゆっくりと近づき、手鏡をじっと見つめると光の中に、何かが書かれているのに気づき、顔を寄せるが、文字が光ってよく見えない。
「・・・ん?」「さあっ、早くっ!」
ドーソン、目を凝らし、それを持ち、一点をじっと見つめはっとし、顔がこわばる。
「・・・あっ!」
その顔を見つめ、フレデリック、ドーソンを睨みつける。
「義父上!ここに・・・ここに書かれてある、その意味をっ、真実をっ!お聞かせ願いたい!」
ドーソン、その一文をじっと見つめ、少し口を開き、しばし茫然とし、はっとし、フレデリックをみつめる。
「あっ、いやっ・・・こっ、これは違うんだ!フレデリック君!本当に・・・本当にっ!申し訳なかった!」
ドーソン深く頭を下げた後、フレデリックにすがる様な瞳で見つめる。
「娘は・・・実は、まだ行方がわからないんだ。君を心配させたくなくて、つい・・・!」
ドーソン、手鏡をサイドテーブルの上に置く。
「つい・・・ですか。ならば、義父上は・・・ジョセフィーヌの気持ちを知ってて、2人を引き離さなかったのか!」
ドーソン、許しを請うかのように、フレデリックを見つめ、顔をゆっくり横にする。
「いやっ、違う!知らなかったんだ!ほんとなんだ!信じてくれ・・・娘は当家の剣士とその場から難を逃れ、去ったと聞いている・・・だから、必ず!帰ってくるはずだ!」
「ドーソン家の剣士ですと?もしやもしや!それはここに書かれてある・・・エドガーの事ではございませぬな!」
ソフィー顔を両手で覆い観念したかのように、嗚咽する。
「うーっ・・・ううううっ。」
フレデリック、ソフィーを侮蔑したかのように、
見下げる。
「義母上は・・・本当に正直な御方だ・・・」
フレデリック唇を噛み締め、ドーソンをまっすぐ見据える。
「そして・・・義父上は、義父上は!
初めからこの私を・・・騙すおつもりだったのかっ!」
ドーソン、懇願し許しを請うかのように、顔をゆっくり横に振る。
「いや!違う!それだけは違う!必ず、必ずっ!その者と帰ってくるはずだ!フレデリック君・・・
少し、落ち着きたまえ・・・」
フレデリック、怒りに満ちた目を大きく見開き、ドーソンを見据える。
「おっ、落ち着けですと?天下の・・・アーサー
フレデリックがっ・・・あああっ!結婚当日に、花嫁に、逃げられたのですっ・・・どうしてっ、どうして!落ち着いていられようか!」
つづく
登場人物
フレデリック
ドーソン
ソフィー
未熟な点は、温かい目でご覧くださいませ。