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連載小説 ディアーデイジー(23)

森の中
生い茂る木々の隙間から、木漏れ日が差し込んでいる。
鳥のさえずりが軽やかに響いている。
そこへフレデリックとジェファーソンが馬に乗り、疾走してくる。
フレデリック、置き去りにされた馬車を見つける。
「どぉー!」馬の手綱を引き、馬を歩かせ止まる。
ジェファーソンもその少し後ろに止まる。
フレデリック険しい顔をし、ゆっくり馬から降り、馬車に向かって歩き出す。
ジョセフィーヌ一行と山賊達の争いの痕跡が辺り一面広がっている。
馬車の中を覗き込むと、ヴェールの切れ端が座席の下に落ちているのを見つけ、目を大きくし掴み取り、じっと見つめる。
そのヴェールには、僅かに血痕が付いている。
「あぁっ!」
顔を歪めきつく握りしめ、体を震わせる。
「婚礼の・・・祝いの日を・・・血で・・・血で!染めるとはっ!」
そう呟くと、額に手を当てよろけそうになり、思わず近くの木に手をつく。
「フレデリック様・・・大丈夫ですか?」
ジェファーソン、すかさずフレデリックに駆け寄る。
「あ・・・あぁ・・・」
「ジョセフィーヌ様、きっと・・・既にどこか安全な場所に避難しておられるはずです。」
「あぁ、そうだ・・・な。にしても、なんて酷い。」
「あぁ、でも確かドーソン家にはわが国きっての騎士がおります。もしかしたら、既にジョセフィーヌ様、ドーソン家に戻られてるやもしれません。」
「あぁ!そうだった。」
フレデリック、顔をぱっと明るくするが、少し視線を上に向け考え込む。
「はい。ですから・・・ん?フレデリック様?」
「あー、確か・・・名前は・・・えっと?」
「はっ!エドガーと申す者。」
「エド・・・ガー?どこかで・・・」
フレデリック、眉を潜め目を閉じ、何かを思い出そうとするかのように、少し考え込む。
「はっ!まさかっ・・・」
フレデリックの脳裏に、10年前にアリアの丘で出会った楽しそうに去っていくジョセフィーヌとエドガーの後ろ姿が浮かび上がり、目をぱっと開ける。
「まさかあの時の・・・確か、エドガー?ははっ、いやっ、まさかな・・・そんな事あるはずない。」
そう呟くと、鼻で笑い肩をすくめ、顔を左右に小さくゆらす。
ジェファーソン、不思議そうな顔をしてフレデリックを見つめる。
「フレデリック様?」
フレデリック、手を顎に当て下を向き、考えに浸っている。
ジェファーソン、大きな声を出す。
「フレデリック様!」「はっ!」
「大丈夫ですか?お顔が真っ青です。」
「いやっ、別に何でも無いんだ・・・やはり、ドーソン家に行かなければ!」「はっ。」
フレデリック、ヴェールを胸ポケットにさっと入れ、馬に駆け寄り乗る。ジェファーソンも後に続く。
「はーっ!」フレデリック、馬の手綱を動かし、馬の胴に足で合図すると馬が走り出す。ジェファーソンも馬に合図し、森の中から去っていく。

ドーソン家 屋敷
フレデリックとジェファーソンが馬に乗り、ドーソンの屋敷の前にやって来て来る。
「どぉー。」フレデリック手綱を引っ張ると馬が止まる。ジェファーソンも後に続く。
門番がフレデリックを見上げる。
「アーサー・フレデリック自ら、我が花嫁を迎えに参った!門を開けよ!」「ははっ!」
門番、慌ててすぐに門を開けた後、敬礼をする。
フレデリックとジェファーソン、馬の蹄をゆっくりとたてながら、ドーソンの屋敷内へと入っていく。
ドーソン家家来がフレデリック達の元に駆け寄り挨拶する。
「フレデリック様。ようこそいらっしゃいました。どうぞお入りくださいませ。」「うむ。」
フレデリック達、馬から降り、家来に案内され屋敷内に入っていく。

ドーソン家 ドーソン書斎
ドーソン窓辺に立ちすくみ、フレデリックを見つめながら、カーテンを握りしめる。
「あぁ、とうとう来てしまった・・・」
ドアを5回ノックする音がすると、気だるそうに顔をあげ、扉の方を振り向く。
「誰だ?」
その扉の向こうの廊下では、執事が立っている。
「執事でございます。」「あぁ、入れ。」
執事、ドアをゆっくりと開け一度軽く礼をすると、部屋に入り、ドーソンを見る。
「フレデリック様が、ジョセフィーヌ様にお会いしたいといらっしゃいました。」
「あぁ、そのようだな・・・」
ドーソン、カーテンを握りしめていた手を力なく下におろし、執事を見る。
「あの・・・今日の事と次第を、詳しくお聞きしたいとのことでして。」
執事、遠慮がちにドーソンを見つめる。
「どう・・・なさいますか?」
「あぁ・・・私が、私が説明せねばな。婿殿に失礼のないよう・・・」「ははっ。」
執事、ほっとしたように一礼してその場を去る。
ドーソン机の上に肘を乗せ、両手で顔を覆い
小さく頭を振り溜息をつく。

ドーソン家 客間
フレデリック窓辺に立って、外を見つめている。
家来がフレデリックに一礼する。「どうぞ、おかけにおかけになってお待ちくださいませ。」
「結構。」「ははっ。」
テーブルの上には、おもてなしの菓子やフルーツが用意される。
ティーポットから注がれた紅茶から、湯気と共に芳しい香りがただよう。
フレデリック腕を組み、右足をトントントントンと立てる。
ジェファーソンがフレデリックを見つめる。
「フレデリック様、少し心を落ち着かれた方が・・・」フレデリック、ジェファーソンを睨みつける。「ちょっと、ほっといてくれないかっ!」
「ははっ。」ジェファーソン、頭を下げる。
「ジョセフィーヌ・・・」
窓ガラスに映るフレデリックの顔が青ざめている。

ドーソン書斎
ドーソン、机の前に座り、両手で頭を抱えている。
「はぁー・・・」
そう溜息をつくと、机上のシガーボックスに視線を向け、手を伸ばし力なくそれを開けると、シガーを1本取り出すその手をが小刻みに震えている。
火をつけようとするが、上手くつかない。
「ちっ!」舌打ちをし、再び火をつけ、シガーを
一服する。「は・・・はぁー。」
震え続けるその手を逆の手で押さえるが、震えが止まらず、その微かに震える手をじっと見つめる。
「どうしてだ・・・どうしてだ?どうして父であるこの私に!」
顔をゆっくりと歪め、天を仰ぐ。
「はぁー。」
シガーを再び見つめ、口にふくむとゆっくりと吸い、一気に吐き出す。
シガーの火を灰皿で消し、気だるそうに立ち上がる。
「ふっ・・・、あんな若造、大したことないさ。
大丈夫・・・きっときっと、上手く切り抜けられるさ。」
そう呟くと、足取り重く部屋を出ていく。
シガーの煙の名残とその香りが、部屋には漂っている。

つづく

登場人物

フレデリック   アーサー家 御曹司
ドーソン     ドーソン家 当主
ジェファーソン  アーサー家 家来
ドーソン家 執事
ドーソン家 家来達

未熟な点は温かい目でご覧くださいませ。



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