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連載小説 ディアーデイジー(28)

アーサー家 広間
アーサーが苛立った様子で、靴音を立て、窓際にを、行ったり来たりしている。
ふいに窓の前に立ち止まり、外をじっと見つめる。
窓の外は、暮れゆく太陽が、庭園を金色に包みこんでいる。
それをうらめしそうに見つめる。
ステファニーが、不安げな顔をして、ソファーに座り、その姿を見つめている。
柱時計が時を知らせる為に、低く鳴り響く。
アーサー、時計を睨みつけ、握りしめた拳を壁に叩きつける。
「一体・・これはどうなってる?ドーソン卿は、この婚礼を・・・何だと思っている!
フレデリックは一体、どこへ?許せん!」
「旦那様・・・」
扉をふいにノックする音がすると、アーサーとステファニー、扉を見つめる。「誰だ?」
アーサー家執事が広間前の廊下で慌てた様子で、扉を素早くノックしている。
「ブランウェルでございます。急ぎ、お伝えしたき儀がございます。」
「入れ。」
アーサー、大声をはりあげる。ブランウェル、扉を開け、一礼し、部屋に速やかに入ってくる。
「何だ?」
「はっ、実は昼頃、フレデリック様がドーソン家からの早馬が参り、その後、血相を変えて、お屋敷をでられたとの事。」
「何だと?何があった!なにゆえ、私に一言も申さぬ!」「旦那様・・・」
ステファニー、心配そうな顔をし、アーサーを見上げる。
「はっ、実は、我々も先程知り、詳しい事は聞かされておりません。」
アーサー、持っていたワイングラスを思い切り床に投げつける。そのグラスが砕け、赤ワインが床に広がっていく。
「今日の婚礼を・・・何だと思ってる!我がアーサー家の顔に泥を塗るつもりかっ!」
その目が血走り、大きく目を見開く。

そこへフレデリックが息を切らせ、走ってやってくる。「父上!」
アーサー、フレデリックを眉をひそめ見つめる。
「フレデリック!お前、今の今まで・・・何しておった?」
フレデリック、アーサーとステファニーを交互に見つめ、唾を飲み込む。
「はあっ、父上、母上!ご心配おかけして、大変申し訳ございません。」
そう言うと深々と一礼する。
「フレデリック!お前、今日がどんな日だと言う事かっ、分かってるのか!」
「フレデリック・・・あなたっ、お父様が・・・どれだけ心配していらしたかと・・・!」
「父上、母上・・・」「わかるように・・・説明せよっ!」
「急を・・・要したもので、何も告げずに出ていき、今になってしまった事、申し訳、ございません。」
アーサー、ソファーに深く腰掛け、溜息をつき、フレデリックをじっと見据える。
「お前・・・花嫁はどこだ?」
ステファニー、心配そうな顔でフレデリックを見つめる。「さあ、あなたも・・・おかけなさい。」
「はい。」
フレデリック、2人の前に座る。
「実は・・・ジョセフィーヌは、当家に参る途中、その一行が・・・山賊に襲われたと、そう知らせが・・・入りました。」
アーサー、目を大きく見開き、茫然とし、身を乗り出し、フレデリックを凝視する。
「な・・・んだ・・・と!?」
「フレデリック、あなた・・・そんなの、嘘、嘘よね?」
フレデリック顔を歪め、首をゆっくりと横に振り、アーサーをまっすぐ見つめる。
「ですから。わたくしが、事と次第を知る為に、急ぎドーソン家にはせ参じた、と言う事です。」
「なん・・・だと?」
アーサー茫然としたまま、フレデリックから視線をそらし、窓の外に顔を向けると、静かに沈みゆく太陽を夕闇が飲み込んでいく様を目を細め、じっと見つめ呟く。
「何と・・・何と!不吉な・・・」
「なんてこと・・・」
「・・・で、ジョセフィーヌは、いかがした?」
「はい、父上・・・先程、ドーソン家にて、義父上に会って参りました。」
ステファニー、眉をひそめる。
「そう・・・なの?」
アーサー、大きく溜息をつく。「・・・で?」
「はい。ジョセフィーヌは・・・今日は、少し混乱してる故、明日、夕方参ると・・・」
「そうか・・・ん・・・」
アーサー、目を閉じテーブルに片手を置き、人差し指で、そのテーブルをトントントントンと叩く。
フレデリック、その指を見つめ、唾をゆっくり飲み込む。
アーサー、急に目を開き、フレデリックを見つめる。
「なあ・・・フレデリック?」
「・・・はい。父上。」
「幸い・・・まだ式を挙げておらん。いっその事、この話・・・無かった事にしたらどうだ?
今だったら、まだ何とでもなる。」
フレデリック眉をひそめアーサーを見つめると、
アーサー、フレデリックに、にやりと笑う。 
「はあ?父上・・・今何と、何とおっしゃったのですか?」
「旦那様・・・」
アーサー、ゆっくり何度もうなずく。
「そうだ・・・そもそもこの婚礼・・・私は初めから賛成しかねてた。お前がどうしても・・・と言うから、仕方なくだ・・・で、今日、この有様だ。
これは・・・やめよと言う、天からの思し召しなのかも知れぬ。」
フレデリック、顔を真っ赤にさせ立ち上がる。
「父上・・・何をおっしゃってるのですか?」
「なぁ?フレデリック、少し冷静になれ・・・」
アーサー咳払いをし、ステファニーをちらりと見、立ち上がり、フレデリックの耳に自分の顔を寄せ、囁く。
「結婚など・・・愛など・・・夢幻だ。
ジョセフィーヌだとて、手に入れたら・・・いずれ・・・すぐに熱も冷める。女など・・・いくらででも囲ったら良いんだ。」
フレデリック、アーサーからぱっと離れ、唇を噛み締め少し左右に、揺らしながら、アーサーを見つめる。
「父上がっ!そんな事をおっしゃるとは・・・
見損ないました!」
「フレデリック!」
「フレデリック・・・」
フレデリック、アーサーとステファニーに一礼をし、素早く背を向け、扉に向かい歩き出す。
「フレデリック!この父である私に逆らうつもりか!待てっ!」
フレデリック一度立ち止まり、背を向けたまま呟く。「失礼致します。」
すると扉を勢いよく開け、広間から出ていく。
アーサー、閉まりゆく扉をじっと見つめ、顔を歪め、テーブルを思い切り叩きつける。
「ああっ!」

つづく

アーサー アーサー家 当主 公爵
ステファニー     アーサー妻
フレデリック     アーサー家 跡取
ブランウェル     アーサー家 執事

未熟な点は温かい目でご覧くださいませ。


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