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連載小説 ディアーデイジー(27)

ジョセフィーヌの部屋
「フレデリック君!」
「義父上は・・・どうして?エドガーとやらを・・・花嫁行列に並ばせたのか?その真意をお聞かせ願いたい!」
「あっ・・・いやっ・・・そっ、その!
それは深い意味は全く!フレデリック君・・・」
フレデリック目が血走り、肩で大きく息をし、ドーソンを鋭くみつめ、腰にある剣をきつく握りしめ、怒りで体を震わせる。
「はあっ!義父上、ならば私が代わりに申し上げましょう・・・」
フレデリック憎しみのこもった声を張りあげる。
「義父上は・・・義父上は!
このアーサーフレデリックの、聖なる想いを
踏みにじったと言う事だ!」
ドーソン、観念したかのように、深く頭を下げた後、すがる瞳でフレデリックを見つめる。
「許してくれ・・・許してくれ!そんな、そんなつもりは全く!無かった。あぁ、本当だ・・・
知らなかったんだ。こんな事になるとは・・・
夢にも思ってなかった!本当なんだっ!どうかどうか、それだけは・・・信じてくれっ!」
フレデリック、目に涙を浮かべ顔を歪め、その剣をさらにきつく握りしめる。
「ドーソン家なんて・・・ドーソン家なんてっ!
この私が本気になれば・・・あっという間にっ!
はあっ!ぶっ飛ぶんだぞ!」
そう言った瞬間、怒りに任せ剣を素早く引き抜き
手鏡に突き刺すと、鏡が鋭い音を立てて割れる。
「きゃっ!」「フッ、フレデリック君・・・おっ、落ち着きたまえ!」
フレデリック肩で息をしたまま、ドーソンを見据える。
「はいっ・・・義父上、わたくしは落ち着いております。そして・・この状況も、ちゃんと理解しております。」
「ああ・・・そうか、良かった。」
フレデリック、微かにあざけ笑う。
「良かったですと?ははっ・・・ならば義父上も、ご自身の置かれている状況は・・・十分におわかりですよね?」
ドーソン、顔を青ざめ、唾をゆっくり飲み込み力なく呟く。
「あっ、あぁ。も、もちろんだとも・・・」
「一日です。一日だけ・・・猶予を差し上げます。もし、もしも・・・一日でも、我が花嫁を見つけ
連れて来る事が出来ぬ・・・その時は・・・」
フレデリック、突き刺した剣を勢いよく引き抜き、ストンとさやに戻し、ドーソンを鋭い目で見据える。
「ドーソン家を・・・ドーソン家をっ!
アーサー家の名にかけて・・・ぶっ潰してやる!」
「フッ、フレデリック君!」
フレデリック、乱れたコートを両手で直す。
「はあっ、私としたことが・・・義父上・・・
明日、明日の午後5時です。わが父と共に、我が屋敷にてお待ちしております。」
「明日・・・午後5時・・・」
「わが父と共に、お待ちしております。必ず、
わが花嫁、ジョセフィーヌと共に・・・いらっしゃいます様・・・」「ア、アーサー公・・・」
「義父上・・・これからも、ドーソン家の発展と
繁栄を・・・心よりお祈りしております。」
フレデリック、ドーソンに深く頭を下げる。
「フレデリック君・・・」
「では、失礼致します。」
フレデリック、ジェファーソンに視線を送る。
「行くぞ!」「はっ!」
フレデリック、靴音を素早く鳴らし、颯爽と歩き出す。ジェファーソン、ドーソン夫妻に一礼して、フレデリックの後を追う。

2人の去った部屋は静寂に包まれる。
窓の外の世界は、沈みゆく最後の陽の光に包まれ、
部屋の中にその光をもたらす。
ドーソン、窓辺に立ちすくみ、カーテンを少し開け外を眺めている。
ソフィー、その場にしゃがみ込んだまま、割れた花瓶と散らばった花を眺めている。
「どうして!」
ソフィーびくっとし、ドーソンを見上げる、
「旦那様・・・ご、ごめんなさい。私、本当に・・・本当に何も知らなかったんです。」
ドーソン急に振り向き、ソフィーを怒鳴りつける。
「知らなかっただと?何の為の母親だっ!」
ソフィー、怯える瞳でドーソンを見つめ、体を震わせる。
「だって、だって!あの子いつもいつも!馬鹿にしたような目で私の事見て、気に入らなかったのよ・・・」
「いい加減にしろ!お前・・・どこまで、私の足を引っ張れば気が済むんだ!」「旦那様・・・」
「馬鹿にしていたのは・・・お前の方だったんじゃないのかっ!」
ドーソン、ソフィーの顔に向かって素早く指さす。
「いいか!今、わかっている事は・・・ジョセフィーヌを明日までに連れ戻せなかったら、ドーソン家が窮地に立たされる・・・と言う事だ!」
ソフィー、顔を歪め、床を両手で叩きつける。
「ああっ!ジョセフィーヌ・・・どこまで憎いのかしら!」
ドーソン、ソフィーを睨みつけ顔を近づけ、素早くその胸ぐらをつかむ。
「・・・うっ!」
「おっ前っ!この期に及んで・・・まだそんな事を言うのかっ!お前のその態度がっ、お前自身の首を絞めたんだ!まだっ・・・わからんのか!」
ドーソン激昂し、目を大きく見開き、つかんだその胸ぐらをさらにきつく握りしめる。ソフィー、目に涙を浮かべ、さらに苦しそうにかすれた声で呟く。
「だっ、旦那・・・様、どう・・・か、お許しを・・・」「うわーっ!」
ドーソン、唇をきつく噛み締め目をきつく閉じ、次の瞬間、その手をさっと離し、力なく立ち上がり、ソフィーに背を向ける。ソフィー、涙を流し、咳込む。「はあっ、はあっ、はあっ。」
「何がどうしてっ!こうなってしまった?」
ドーソン、頭を抱える。
「旦那様・・・」
「お願いだ・・・もう、これ以上・・・頼むから、私の足を引っ張らないでくれ・・・」
ドーソンうなだれ、力なく歩きだし、部屋を出ていく。
黄昏に包まれた部屋に、カーテンが微かに揺れている。一人残されたソフィーが、2度と元の姿に戻る事の無い砕け散った硝子の欠片を哀しげに見つめ、泣き崩れる。
「うぅぅぅぅぅー。」

つづく

登場人物
フレデリック
ドーソン
ソフィー
ジェファーソン

未熟な所は温かい目でご覧くださいませ。




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