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ディアーデイジー(11)

王宮の広間

フレデリック、少しその目に涙を含ませ大きく見開き、ジョセフィーヌを見つめる。
ジョセフィーヌ、その眼差しに少し怯えた様子でフレデリックから目をそらし、もう一度深くお辞儀をし、蚊のなくような声を出す。
「あの、弁償をさせていただき・・・」
フレデリック、はっとして、その話を遮るように両手を胸の前で横にふる。「いやっ!  あっ、あのっ!  こんな事、大した事じゃ・・・そんな事より、どこかで・・・どこかで!  」「・・・え?」
ジョセフィーヌ、顔を上げてフレデリックの顔を
不思議そうにじっと見つめる。
大勢の人々が集う広間に、つかの間の間、まるで二人だけの空間の時が止まったかのように、互いに見つめ合うと、フレデリック顔を赤らめる。
「失礼いたします。」サーバントがやってきて片付けを始めると、ジョセフィーヌ、サーバントに
気をとられる。「あっ 。」
フレデリック、サーバントを眉をひそめて見る。
ジョセフィーヌ、再びフレデリックに頭を下げ、謝罪する。
「本当に・・・申し訳ありませんでした。」
「いやっ。もう、本当にいいんだ。」
ジョセフィーヌ、顔をあげる。
「何かあったらおっしゃってください。」
「もう大丈夫だからさ。」
「あ・・・すみません。では失礼いたします。」
ジョセフィーヌ、深く頭を下げ、その場から消えるように去っていく。
「ジョ・・・ジョセフィーヌ様!   」
アメリがフレデリックに丁寧にお辞儀をする。
「申し訳ございません。失礼致します。」
慌ててジョセフィーヌの後を追っていく。
「ジョセフィーヌ様-!」
フレデリック、その場に立ちすくんだまま、ジョセフィーヌの後ろ姿に視線を送り、目を細めて呟く。
「ああ!  あの時と変わらぬ瞳!  ようやく・・・
ようやく!  君と巡り会えた!  やっと・・・見つけた!  
僕の運命の・・・  ジョセフィーヌ!  」
フレデリック、左手で胸元を握り締める。

広間の入り口付近でジョセフィーヌ、一度立ち止まり、後ろを振り向きフレデリックを見ると、まだ自分を見つめているのに驚き、再び会釈し、視線を逸らす。
「あっ! お名前聞き忘れてしまったわ。まだ怒ってらっしゃる?そりゃ、怒るわよね。私、何やってもダメだから・・・やっぱりお母様の言う通りだわ。」
ジョセフィーヌ、下を向き目を赤らめ、ドレスのスカート部分をきつく握りしめる。アメリ、そんなジョセフィーヌの肩に手を添える。
「そんな事ありませんよ。あの方は紳士です。それにちゃんと名前も名乗ったし、大丈夫ですよ。」
「ん・・・」2人そのまま広間から出て行く。
その中央ではフレデリックが、立ち尽くし、広間から出てゆくジョセフィーヌの後姿を愛おしそうに見つめ呟く。
「あぁ、はははっ!  ジョセフィーヌ・・・君に会いたくて会いたくてっ、何度かの地に足を運んだことか、君は知る由もないというのに!  」
そう言うと、自分の胸についたしみを見、優しくなでる。ジェファーソンが向こうからやってきて、そのしみを見つめ、するどい目で周りを見渡す。
「フレデリック様、何事かと思ったら。ああ、ひどい。どうなさったんですか?どこのものが?失礼極まりない。」フレデリック微笑み、ジェファーソンを手で制止する。
「いや、いいんだ。ほらっ、だってぶどうのいい香りがするじゃないか。」「・・・はっ?」
「こんな素敵な夜は初めてだよ。」「はぁ。」
ジェファーソン首を傾げる。フレデリック、ワルツに合わせて鼻歌を歌い出す。

ドーソン家 食堂
大きな窓から爽やかな朝の陽ざしがさしこんでいる。長いテーブル前に向かい合って、ソフィー、ジョセフィーヌが少し離れた席に座り朝食をとっている。その上には、スープ、サラダ、クロワッサン、ゆで卵等が並べられている。
ソフィー食べる手を止めて、ジョセフィーヌを見据え、強い口調で話し出す。
「ジョセフィーヌ・・・あなたって子は、どうして問題ばかり起こすのかしら。」「あっ。」
ジョセフィーヌ、ソフィーをちらりと見ると手を止め下を向く。「はい。」
「よりによって、アーサー家よっ。アーサー家のご嫡男に失礼を働いてっ・・・!  顔から火が出るかと思ったわっ。」ジョセフィーヌ、顔を上げソフィーを見つめる、少し顔を青ざめる。
「え?アーサー家?」
「そうよっ!  あなたのせいでアーサー家からドーソン家が睨まれたらどうするのっ! 」そう言うと顔を赤らめ、持っていたフォークとナイフをテーブルの上に強く叩きつけ、ジョセフィーヌを睨みつける。
「どうしてっ!  どうして、いつもいつもいつもっ、あなたって子はっ、迷惑ばかりかけるの!? 」
「す・・・すみませんでした。」そう言うと頭を下げる。「もう、あなたの顔なんか見たくないわっ!  
出てってちょうだいっ!  」「は・・・はい。」
ジョセフィーヌ、ゆっくり立ち上がりソフィーに頭を下げる。「申し訳ございませんでした。」
下を向き、少し目を潤ませ唇を少し噛み締め、扉へと向かいゆっくり扉を開け、出て行く。
「はあっ! もうっ!  この家から、私の前からっ! 消えてくれたら、どれだけせいせいするかっ  !」
ソフィー、両手をテーブルに強く叩きつけると、
紅茶のカップとソーサーがカタカタカタと音を立てる。  
つづく

登場人物
ジョセフィーヌ    ドーソン家 娘
フレデリック        アーサー家  長男
ソフィー                ドーソン妻  ジョセフィーヌの母
アメリ                    ドーソン家 召使い
ジェファーソン    アーサー家  家来





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