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魔女。。。

_準備はいいかしら
_ええ、勿論。全部確認してきました。全てが完璧…抜け穴はありません
_でかしました。では、行きましょうか
_ええ。あ、でもまだ予定時刻の一時間前ですから。確認事項だけチェックを…
_それ、突撃!狙いは、王女のタマですわ!
_ちょっと待ってー!!!

これは私たちが極悪非道、悪逆の限りを尽くしたと言われる姫のタマと取るまでの話


あらすじ
優雅と美の街蘭。蘭に住むアンネは、とある女性に助けられる。女性はミコトと名乗り、アンネと親睦を深め友人のシナイスカーとも出会うことができた。平和そのものの蘭には、背後で動く影があって_

第一幕



歩く爆弾


「貴方!そこの素敵な帽子を被った貴方よ!」

アンネは声をかける。しかしかけた相手には完全に無視されていた。アンネはすぐさま走り出し、見失う前に通りすがりの男の袖を掴んだ。握られた袖をミコトは呆然と見つめる。まさか自分だとは思わなかったようだ。綺麗な水晶の瞳がお互いを映しだす。

「ねぇ、貴方でしょう?私を助けてくれたのは。あの時はどうもありがとう」

アンネは頭を下げる。助けられた以上は身分を構わず礼を尽くす。それがアンネのやり方だった。一方、頭を下げられたミコトは首を傾げる。何を隠そうそんなことをした覚えはない。白桃のように見事なグラデーションの髪は一目見れば忘れられるものではないと思う。それ故、この少女_アンネが何を言っているか理解できない。

「あの…ええと…」
「あの投石技術は見事なものだったわ。良かったら、もう一度見せてほしいのだけど」
「その…」
「急にごめんなさい。私ったら…どうも話を端折ってしまうことが多くて。それで…なんでしたっけ。そうそう…」

アンネは話をどんどん進めていき、ミコトはどうにも口を挟めない。あの、そのと口ごもってしまうばかりである。そんなミコトを助けたのは、一人の女性だった。

「もう、アンネさん。そんなにいじめないであげてください」

スカートにワイシャツというシンプルな恰好だが、しっかりと彼女の容姿を際立たせる。ミコトにとって何処かで見かけたことのある人だが、何処だったか思い出せない。霞みがかったようにもやもやとしていて、気持ちが悪い。
 ミコトを他所にアンネはどこからか扇子を取り出し、その女性に話を振る。

「あらシッカーさん。ご機嫌いかがかしら」
「ごきげんよう、アンネさん。私は元気ですよ」

シッカーと呼ばれたその女性は、にこりと微笑みそれよりもと続ける。

「そんなにグイグイいかないであげてくださいませ。貴女はなにかと距離が近いんですから」

そう言って、二人の間に割って入り距離を離す。ミコトは内心安堵し、ほっと胸をなでおろした。一方のアンネは少し惜しそうな表情を浮かべる。
 年甲斐もなくしょげるアンネにシッカーは良心が痛まない訳ではなかった。こうでもしないと、アンネは老若男女構わず誑し込んでしまう。そのあと色々なトラブルに巻き込まれるというのに、本人は何もしない。どこ吹く風であるから、それがまたトラブルのもとになる。そしてできた彼女の二つ名…歩く爆弾。この街で知らないヤツは居ない。アンネ・ロプックロル_その名前を聞けば、誰もがため息をつくのだ。アイツかと。
 そんなアンネの隣でグチグチと言い聞かせるのが、シナイスカー_愛称シッカーの役目だった。

「そんなこと言わずに、この殿方と話がしたいのです」
「話すなとは言っていません。一方的に押し付けるなと言っているのです」

全くとシッカーは呆れる。猪突猛進なところは昔から変わらない。呆れられることには慣れっこのアンネは、チラチラとミコトを横目に見る。その視線に気づいているミコトは、知らないフリで視線を必死にずらした。
 二人の話は平衡をたどるばかりだった。方や話したいという欲望を隠そうとせず、方やそれを抑え込もうとする。シッカーが話を切ると、アンネは新しい話題を話し始める。それをシッカーがまた切り…とこんな調子である。話が終わりが見えず、このままでは日が暮れる。まだ青い空を見上げながら思った。
 仕方なく、ミコトは口を開く。

「あの……




私は女です」

そこで二人の心は通じた。

_あ、そこなんだ、と。




「お手洗いかしていただきありがとうございます」
「いえ、私としたことが自分を優先するあまり、貴方のことを気にかけずに…お恥ずかしいですわ」
「本当に。恥ずかしすぎて埋まったらどうです」

シッカーさんたら、相変わらずですこと。あらあら、歩く爆弾と揶揄される貴方ほどではありませんわ、アンネさん。
 二人は仲が良い。アンネとシッカーは幼馴染である。幼いころから突っ走るアンネをシッカーがお守していた。
 そんな二人に挟まれるミコトは、苦笑いを浮かべるしかできない。よく分からない女性に引っかかったと思えば、助けてくれた女性と喧嘩を始めて…ミコトはお手洗いを探していただけだというのに、どうしてこうなったのか。

 ミコトは今日は中央都市での大規模な祭りが開かれると聞き、どうしても参加したくなってひっそりとやってきたのだ。祭りの準備から眺めていたが、見ているだけで楽しめる。人々は微笑み笑い合い、多くの人々が行き来する。犬や猫まで楽しそうだった。屋台で色々買い込んで買い食いを楽しんだのち、急にお花を摘みにいきたくなった。そこからトイレを探し始めたのだが、時間がかかった。
 店に入ってトイレを借りるだけなのは申し訳ないと思った。だが、財布はすられてしまったため、持ち金ゼロ。何も買えない。仕方なく、どこかに設置されているだろう公衆便所を探した。中央都市ならばあるかと思っていたが、ある場所は限られているらしい。探している途中に、近道を発見した。しかし騒ぎがあったらしく、人だかりが出来上がっている。
 便意と近道、と危険。どれを取るか…ミコトは近道の方を取った。騒ぎが起きている最中を突っ走り、何かの助けになればと、小石を投げた。確かに投げたが、その辺りに落ちていた何の変哲のない小石だった。もしかしたらその騒ぎの中心にいたのが、アンネというこの女性だったのかもしれない。

 最終的にはアンネ宅で借りることができた。本当に良かった。のだが、喧嘩に巻き込まれている。人が集まる場所というのはどうも問題が起きやすいらしい。

「も、もうそろそろにした方が良いのでは…何度も同じ話をしていますし」
「いいえ。私が納得いきませんの。アンネ・ロプックロルとして決着をつけましょう。シッカーさん」
「相変わらずの頭の固さですね、アンネさん。この方が言う通り…というかお名前を聞いてませんでしたね」

急に話を振られ、ミコトは戸惑う。二人の話のスピードについていけない。実は二人の話のスピードの速さは有名である。中央都市では話のランボルギー二と聞いて分からない人はいない。歩く爆弾と肩を並べて有名な話であるが、なぜか本人たちは知らない。

「私は…その…ミ…コトです」
「ミ・コトさん?変わったお名前ですわね」

違うと否定できずにとんとん拍子に話が進んでいく。ミコトはブレーキをかけようとするも、ブレーキが折れているらしく話が全く止まらない。止まらないどころか、話が切れることが無い。「それで、ミ・コトさん」と話を続けようとするアンネの頭を、シッカーは叩いた。良い音が部屋に響く。

「いい加減にしなさいな。ミコトさんも困っているでしょう」

ミコトさんでいいのよね、とシッカーはミコトに聞く。ミコトは首を縦に振り、肯定していることを伝えた。アンネは素直に謝罪し、よろしくと握手の手を伸ばす。ミコトは戸惑った。アンネは首をかしげ、どうしたのかと尋ねるとミコトは首を横に振る。

「い、いえ…なんでもありません。失礼しました」

そう言って、二人は握手を交わした。
 そこまでは良かったが、アンネは手を放さずずっと握りっぱなしである。ミコトとしては、アンネはあっさり放してくれると思っていたちめ予想外である。シッカーに助けを求めると、シッカーは目を瞑って眠っていた。
 色々言いたいことがあるが、追い付かず口をモゴモゴとさせるミコト。自由に夢の世界へと旅だったシッカー。何故か手を握ってはなさないアンネ。三人は各々自分の世界に閉じ込められているようだった。お互いの世界がまだ混じりあっていない。


「ご迷惑をお掛けしました。お気をつけて、ミコトさん」
「ありがとうございます。あ、あの今日は楽しかったです。また遊んで…くださいますか?」
「勿論!いつでも待っていますわ!」

 夕刻。死の鳥も帰る頃。三人も家路についた。
 アンネは玄関先まで二人を見送り、二人の後ろ姿が見えなくなるまで手を振り続けた。申し訳なさそうに振り返っては頭を下げるミコトと、いつも通り此方のことなど気にする様子もなく真っ直ぐと帰るシッカー。
 普段全く信じていない神でも今日は信じてもいいかもしれない。今日はミコトという友達と引き合わせてくれたのだから。普段の行いが良いお陰かもしれない。

「じゃあ、さっさと片付けをして寝ますか!」

軽く伸びをしながら、玄関へと続く扉に手を掛ける。そのとき、ふと思い出した。
 あのとき。ミコトの手を握ったときに違和感を感じた。中指の指先、ソコに微かに凹みとタコがあった。
 蘭では女性は美を磨くものという暗黙の了解に近いものがある。傷やタコなどもっての他。かつては女性は大切にされるものであり、珠のように扱えとまで言われるほどだった。あるとき、女性の労働の自由が叫ばれ、国王がそれに賛同した。それから国は一変。着飾るも自由。働くも自由。ただし、美はある程度磨くことを忘れない。そんな国全体に広がる蘭のシンボルが出来上がった。
 ペンだこ自体は珍しいものではない。事務仕事をする女性には大抵ある。ミコトはそれだけではなかったのだ。違和感を覚えたのは中指だったが、指全体に同じようなタコなどがあった。それに香る花のような香り。
 もしかしたらミコトは、凄い立場の人間なのかもしれない。そんな人物を人混みのなかきら見つけた私は、もしかすると天才なのでは。一人で踊るように体を動かして、色々な妄想をしてみる。これはアンネの癖であった。
 相手の身体的特徴から相手のことを当てる。一種の推理。アンネはこの手のことを外したことがなかった。当身分証をぶら下げながらドヤ顔でやってくる訪問者たちを追い返して恥をかかせる。相手はこんな簡単なタネ気付かずに逃げ帰る姿は、本当に滑稽だった。

「明日はシッカーさんのバイト先にでも買い物に行こうかしら。バッチャンに準備してもらって」

バッチャンことアンネの世話係セバスチャンは、背筋に何か冷たいものが通る。

「それか、あの噴水を見に行ってもいいわね。あの水、美味しいのよね。お父様やお母様に怒られるけど、癖になる味っていうか。あれをメッチャンと飲みに行くのもアリね」

メイド長ことメアリッサは、珍しく皿を落とす。

「それか…」

歩く爆弾は火元を探して歩き回る。






魔女。。。

2話

3話

4話

5話


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