ミディアムポエム四作

東から波打つ風の 微細な後悔が聞こえる 呼吸 二つの鼓膜を屋上に並べ置いて それでどこへ飛び立つというのだ 腐臭と錯覚するほどに強烈な柑橘の香りが 私の平衡感覚を着実に狂わせて それでどこへも飛べない どこへも飛べないのだが それは 水たまりをのぞくおまえの顔だ

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アークティカ、アンタークティカ 先生は黒板にひとつ 大きな正円を描いた その上をすべる細く長い指 ここがアークティカ、こっちがアンタークティカ 五月の雨の降るしずかな教室だった 雨滴のため 今朝方からのあたたかい風のため 窓がこきざみに揺れている 廊下で蛇口をしめる音がきこえる

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地球儀に経線を描く職人の手つきで 私たちのやわらかくみにくい額へ ひとしく内側から触れてくるものがある それは 遠のいていく錫杖の音だ 手紙をくわえた鳶が白夜へ飛び去っていき 鈴懸の実が両手を広げるように降っていて そう ここでは錫杖の音だけがしている

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すべて生命は汀に片脚を立て、そこからゆっくりと、呼吸というおだやかな退却をつづけている。仮定された消失点へ向かって、雲海が移動していく速度で、私たちの歴史が書き換えられるから、そこへ、一日の終わりが、悔恨の色をしてやってきて、私たちは凍雲を見上げるばかりなのだ。