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なぜドミニカ共和国に行くのか ~ナックルボーラーの挑戦~ 前編
how to think > how to do
上は友人がSNSで仲の良い数人に向けて発信したものである。私はそれを見て、彼とはなるべくして友人になったということと、>よりも<の方が好きだということを実感した。そして、「ドミニカ共和国に行く」と私は呟いた。それは誰か個人に対して言ったものではないし、あるいは社会に投げかけたものでもない。私自身の未来に向けて宣言した。それでは、私がドミニカに行くことを決断するまでに"どのようにして考えたか"ということに着目して書き進めていきたい。
"憧れ"という名の"絶望"
ナックルボールを練習することと、メジャーリーグ(MLB)を目指すことは、私にとって≒であった。なぜなら、"ナックルボール"と動画サイトで打ち込んだ時に出てくる映像のほとんどがMLBで"ナックルボーラー"として活躍している先人たちの勇ましい姿だった。速球を武器に地方大会で活躍している先輩に憧れているのとは訳が違うのだ。もちろん、その速球を武器に地方大会で活躍している"存在しない先輩"もすごいのだけれども。何はともあれ、"ナックルボーラー"として比較できる対象はメジャーリーガーだけであった。だから、彼らに憧れる自分は、彼らとの現状がかけ離れているため勝手に苦しくなってしまっていた。どんなに凄いナックルボールを投げた瞬間でも、MLBを意識したあの日、あの瞬間から、満たされることはなかった。練習している以上、MLBでナックルボーラーとして活躍するということが叶わなければ生きている意味は無いのではと錯覚してしまうほどであった。固執が絶望を生んでいた。絶望は私を簡単に飲み込んでしまったし、簡単に抜けられるものではなかった。
そうして、私の絶望は始まった。
"ナックルボーラー"としての
在り方
紹介される時に、"ナックルボーラー"と形容されることが多々ある。それは、"ナックルボーラー"が希少であることを示しているし、私に対して少しばかりのアイデンティティを与えてくれるものである。しかし、希少というのは、ある意味、腫れ物であることと同意義なのだ。
希少であるということは、それだけ世の中の人が"ナックルボーラー"に対しての理解度が低いことと繋がるのだ。"ナックルボーラー"はこうあるべきだというステレオタイプを押し付けられることは少なくなかったが、それはまだマシな部類であった。「ナックルボーラーはこうしなければならない」という言葉を聞くことすらあった。それは呪いのようなものではなく、まさしく"呪い"であった。
私はこのnoteを通じて誰かを攻撃したいわけではないから、相手が特定されるようなことは避けたい。しかし、これらの内容は事実であるから、書かないという選択肢はないのだ。
詳細なことを言うことは出来ないが、ある試合でインシデントが起こった。試合が始まる前に、私は捕手の人に対して「相手はナックルボールを狙っているのだから、初球はカットボールを投げたい」と伝えた。それに対してのレスポンスが「ナックルボーラーなんだからそれはダメだ。ナックルのサインしか出さない。」であった。もちろん私は言い返した。だが、その会話によって、お互いに対してもともと無かった信頼関係のようなものは木っ端微塵になってしまった。そのような対話があっても良いピッチングをできるほど私は強くなかった。"ナックルボールを投げるということ"に対して、疑心暗鬼になってしまったし、そもそも"ナックルボーラー"とはなんだろうと強く感じた。
これはまた別のチームでのお話だが、「投手の基本はストレートだから、まずはストレートしか投げるな」と言われたことすらある。私は自らを"ナックルボーラー"だと思っていたし、自分以外の人もそれに対しての理解があると勝手に期待してしまっていた。
そのような出来事は無数にある。それが私のマウンドでのマインドに対して大きな影響を与えてしまうことは必然だった。上記のチームでは、「相手に失礼だから投げる時に声を出すな」とも言われた。私にとって、打者と対戦する時に声を出して投げるということは、朝起きて歯磨きをすることと同じくらい必然なことであり、生きていく上で、必要なことであった。それ以来、私は打者と勝負するのではなく、自分と、そして自分のチームのベンチと勝負することになってしまったのだった。
そして、それは私を大きく変化させた。
私はあの夏、マウンドに立っていた。
キャッチャーがセカンドに送球をしてファーストからボールを受け取った。プレイのコールがかかり、私は何かのために足をあげた。その時に、私は野球を辞めることを決意した。
~ 後編につづく ~
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