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雅体文字Ⅲ|中国最古の詩集「詩経」春秋時代の雅文化として外交文章にも使用された

                             王超鷹essay

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赤山 (1)

中国最古の詩集「詩経」

中国最古の詩集である*詩経(しきょう)は、中国詩歌の源でもあり、BC12世紀~BC6世紀、約600年間の詩が305編集められています。

孔子(BC551~BC479)が、詩経を風(ふう)・雅(が)・頌(しょう)の3つに分けて整理してまとめました。

孔子は、詩経について「思い邪(よこしま)なし」と称して、その心映えの純粋さや清らかさを讃えています。

春秋・戦国時代、国同士の外交の場で、外交官は自国の主張に見合った内容の詩を詩経の中から選んで相手国に送り、相手も同様に詩経から選んで返信しました。勿論その書簡の文字には雅体文字が使われていました。


詩経の始まりの詩「関雎」

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関関雎鳩-之求(かんかんしょきゅう-これをもとむ)「詩経」関雎より


詩経は雅体文字の宝庫であったと考えられ、周代雅文化を映し出しています。例えば、中国ではよく知られる*関雎(かんしょ)は美しく淑やかな水鳥ミサゴから詩が始まります。

関雎ではどの様な書体を使っていたかは、今では知る由もありませんが、ミサゴの優雅さを模した雅体文字を使っていたに違いありません。

*雎鳩(しょきゅう)・*荇菜(こうさい)・淑女・君子からなるこの詩は、ミサゴ・あさざといった鳥や植物の美しさを背景に、君子の淑女に対する情愛を一歩距離を置いた品の良い愛として表現しています。

*詩経:中国最古の詩集。BC12世紀~BC6世紀、約600年間の詩が305編集められている。孔子(BC551~BC479)が整理してまとめたと言われ、風(ふう)・雅(が)・頌(しょう)の3つにわかれている。

*関雎:第一編の名。その詩の冒頭の「関関雎鳩」の句の略。「関関」は鳴く声の和らぐさま。「雎鳩」は鳥のミサゴのことで、ミサゴは雌雄の仲が良いことから、夫婦の仲が良くて礼儀正しい事の意味に用いられる)

*荇菜:あざさ、リンドウ科の多年草。池や沼などに生える。細長い茎をのばして、直径10cmほどの広楕円形で裏面が褐紫色の葉を水面に浮かべる。夏、葉腋から数本の花茎を出し、黄色い花を水面に開く。

*雎鳩:ミサゴ、タカ科の鳥。全長60㎝内外の大型猛禽。海や川の近くに住み、水中の魚を見つけると急降下して足で捕える。淑徳のある女性のたとえににも用いられる。

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|『関雎』原文


関関雎鳩、在河之洲  

窈窕淑女、君子好逑  

参差荇菜、左右流之

窈窕淑女、寤寐求之 

求之不得、寤寐思服  

悠哉悠哉、輾転反側

参差荇菜、左右采之 

窈窕淑女、琴瑟友之  

参差荇菜、左右芼之

窈窕淑女、鐘鼓楽之


|『関雎』王超鷹の書き下し文

関関たる雎鳩は、河の洲に在り
(かんかんたるしょうきゅうは、かわのすにあり)

窈窕たる淑女は、君子の好逑
(ようちょうたるしゅくじょは、くんしのこうきゅう)

参差たる荇菜は、左右に之を流もとむ
(しんしたるこうさいは、さゆうにこれをながれもとむ)

窈窕たる淑女は、寤寐之を求む
(ようちょうたるしゅくじょは、ごひこれをもとむ)

之を求めて得ざれば、寤寐思服す
(これをもとめてえざれば、ごひしふくす)

悠なる哉悠なる哉、輾転反側す
(ゆなるかなゆなるかな、てんてんはんそくす)

参差たる荇菜は、左右に之を采る
(しんしたるこうさいは、さゆうにこれをとる)

窈窕たる淑女は、琴瑟もて之を友とす
(ようちょうたるしゅくじょは、きんしつもてこれをともとす)

参差たる荇菜は、左右に之を芼る
(しんしたるこうさいは、さゆうにこれをとる)

窈窕たる淑女は、鐘鼓もて之を楽しましむ
(ようちょうたるしゅくじょは、しょうこもてこれをたのしましむ)


|『関雎』王超鷹の現代語訳

カンカンと鳴くみさごは、河の中州で対で鳴く

しとやかな乙女は、君子のよきつれあい

水辺に茂るあさざは、右や左にこれを流る

しとやかな乙女は、寝ても覚めても想われる

求めても得られぬのなら、寝ても覚めてもこれを想うのみ

長い長い夜を、寝付かれぬまま寝返りを打つばかり

水辺に茂るあさざを、右や左にこれを摘む

しとやかな乙女は、琴を弾いてこれに親しむ

水辺に茂るあさざを、右に左にこれを抜き取る

しとやかな乙女を、鐘を鳴らして喜ばそう


関雎文字デザイン

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関関雎鳩,在河之洲

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窈窕淑女,君子好逑

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窈窕淑女,君子好逑

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参差荇菜,左右流之

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窈窕淑女,寤寐求之

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日本の『大和撫子』と中国の『窈窕淑女』

関雎は、孔子から高い評価を受け詩経の始まりに挙げられ、表現が極端でなくちょうどよいところに納まっていると評価されています。

内容は、美しい淑女を求める男性の求愛の歌です。生々しい感情ではなく、女性と一歩離れた所から愛を告げる品の良いものです。

ミサゴやあさざと言った鳥や植物が詠われているのは、祈祷と関係があるといわれています。

窈窕淑女の窈窕が、中国人にとっては、何とも言えぬ美しさを感じずにはいられません。また、この詩からは数千年たった今でも幾つもの表現が使われています。

参差(しんし:ふぞろい)・寤寐(ごひ:寝ても覚めても)・求之不得(これをもとめてえず:求めても得られない)・ 輾転反側(てんてんはんそく:寝返りを打つ)・琴瑟(きんしつ:夫婦仲)などが、詩経の昔から現在までも詩歌に好まれ使われてきました。

日本の『大和撫子』に相当する言葉が、中国では『窈窕淑女』となるといえるでしょう。

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知 音

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